「自律人材を育成する1on1」に必要な2つのアプローチ|『LISTEN』発売記念セミナー(後編)
2021年12月14日、エール主催のセミナー「個の力を引き出す組織作りと1on1」が開催されました。
第2部は「今、求められる組織の1on1とは」について。エール株式会社 代表取締役 櫻井 将さんがお話しします。1on1の質の向上や定着に関するヒントがつまった本セミナーをレポートします。(記事最後には、1月25日開催の次回セミナーのご案内も。ぜひご参加ください)【編集部 奥澤】
組織で求められるのは、「自律人材を育成する1on1」
―― 第1部では具体的な企業現場についてお話いただきました。(第1部のレポートはこちら)第2部では、その内容を少し抽象化し、1on1という切り口から「個の力」を引き出す組織作りについて考えていきます。
櫻井さん:まず「今、組織で求められる1on1について」お話したいと思います。
ここで少し思い出していただきたいのが、第1部でご紹介したJTやヤマハモーターエンジニアリングの話。「労働生産性を上げるための面談」「個を無視したマネジメント」では、職場がギスギスしてしまった、メンタル不調者が増えてしまった…というエピソードがありました。
このように企業現場の状況から見ても、組織で求められているのは、社員の「行動・思考」のコントロールではありません。一人ひとりの社員がどのような考えをもっているのか、どのように世界を見ているのか。感情・価値観でのマネジメントが重要だと私は捉えています。「パーパス経営」「D&I」などが、まさにそれと言えますよね。
そして、上記の図を「1on1」に置き換えたものが以下です。
業務の進捗確認・相談が中心だった「旧来型の上司部下面談」ではなく、個人の挑戦、考えに寄り添った対話を行ない「自律人材を育成する1on1」を目指す。この形こそが、今、組織で求められる1on1の形だと考えています。
「自律人材を育成する1on1」を阻む5つの壁
――「旧来型の上司部下面談」から「自律人材を育成する1on1」へ。しかしながら、その実現までのプロセスは簡単ではなく、多くの場合「5つの壁」があると櫻井さんは語ります。
櫻井さん:その壁とは、「01_関心がない」「02_時間がない」「03_スキルがない」「04_相性が悪い」「05_利害関係がある」です。1つずつ見ていきましょう。
01_関心がない
そもそも管理職世代の方の多くが「聴かれる」体験をしていない。ヤマハモーターエンジニアリング・村松さんのお話にもありましたが、背中を見てついてこい、石の上にも3年……と、そんな言葉でこれまで指導されてきた。頭では分かっているけれども、体験として持っていないので、どうしても「聴く」ことへの関心が高まらない現状があるのです。
まずは良い「聴かれた体験」を提供する。それがベストな解決策といえます。
02_時間がない
これは優先順位の問題です。どうしても目の前の業績向上が優先になってしまい、1on1を後回しにしてしまう……。この壁を乗り越えるポイントの1つが、1on1の目的を明確にすることだと考えています。
多くの企業が「1on1」を導入していますが、その目的や定義、やり方は実にさまざま。ネットで調べてみても、社員のモチベーションアップ、業務上の課題解決、悩み相談、寄り添い、勇気づけ…などあらゆる言葉が並んでいます。
大切なのは「1on1を通じて、どういう変化を起こしたいか」「1on1にどういう役割を持たせるか」を言語化し、組織全体で認識することです。
03_スキルがない
「1on1」に求められるスキルが何なのか、そしてそのスキルをどのようにして身に付ければいいのか。スキルの可視化と振り返りの不足が課題です。ここでの解決策は、「関心」「理解」「実践」の3つの要素をセットにして、「1on1スキル」として習得する。体系的に学んでいく機会の提供が対応策になってきます。
ちなみにエールでは、この聴くスキルを高めるサポートプログラムとして『聴くトレ』というサービスを展開。「聴くスキル」を継続して学び、定着できる仕組みを提供しています。もし興味があれば、ぜひチェックしてみてください。
※1on1力向上 オンライン研修プログラム『YeLL 聴くトレ』
04_相性が悪い
1on1に高い関心を持っていて、きちんと時間を確保していて、スキルをもっている上司だったとしても、全ての部下と相性が良いわけではありません。
これはエールの1on1サービスでの話になりますが、これまでのデータを分析した結果、万能に見えるサポーターでも全ての人材において良い結果がでるとは限らないことが分かりました。自分が悪いんだ、何とかしなければ…とお互いに無理をして続けるのではなく「相性の良い/悪い」の事実認識がとても大事です。
05_利害関係がある
「相性の良い/悪い」の話とも関係してきますが、利害関係がある相手に対して、全ての気持ちを話すことは難しい現状があります。自分の価値観に基づいたキャリアの話を、自分を評価する上司に対して本音で語る――。自身に置き換えて想像してみると、その難しさに納得がいくのではないでしょうか。
これは、スキルの問題ではなく、構造の問題です。部署間を超えた斜めの関係や、社外リソースの活用が解決の糸口です。
「自律人材を育成する1on1」には、上司以外の存在も有効
――「自律人材を育成する1on1」を阻む5つの壁について理解したところで、実現に向けて見えてきたのは2つのアプローチです。
1つは、シンプルに「上司の聴くスキル向上」のための施策。上司自身が聴くスキルを磨き、メンバーの行動や思考だけでなく、感情・価値観といったテーマを扱えるようにする。それによって、メンバーの内発的な動機付けを高める1on1が実施できる、という形。
そしてもう1つ、「上司以外の1on1を活用する」施策です。本当の意味で“自分のキャリア”について考えていくには、「部署間を超えたメンター」や「社外コーチ」が有効になってくると櫻井さんは話します。
櫻井さん:「上司以外の1on1活用」について、もう少し詳しく説明します。
これは、「5つの壁」の話でもお伝えしたように、たとえ上司が高いレベルで聴くスキルを持っていたとしても、相性の問題、利害関係の問題があるからです。深いところでの自分の価値観、本当の意味で自分のキャリアを話すのは、利害関係がある上司ではなくて、社外の人材が有効だ、というのが僕の意見です。
なぜ社外の人材が良いのかーー。社外の人材と価値観や感情をテーマに話をしていくと、仕事の話をいったん横に置くことができる。つまり、自身の価値観に向き合いやすい環境だと捉えています。
自分はどういう人間なのか? 何が好きなのか? 何を大事に生きているのか?……そんな問いをくり返し、深く掘っていく。組織の目標やパーパスに無理やり自分を寄せていく必要がなくなるのです。「強制的に人を変える」のではなく、自分はこういう人間なんだ、これがやりたいんだ…と個人の価値観の解像度をあげていくことで、組織のパーパスと重なり合う部分を増やしていけるのです。
エールの社外人材による1on1サービスを利用している企業を対象にしたアンケートでは、面白い変化が見て取れました。
社外人材に話を聞いてもらった結果、「仕事量が適切だ」「挑戦する風土がある」「成果に対する承認がある」というアンケート項目のスコアが大きくアップしたのです。働く環境が大きく変化したわけではないのに……。不思議ですよね。
その理由は、「自分の認知」が変わったことにあります。自身の価値観を掘り下げると、仕事に対する納得度が高まる。結果として、仕事の捉え方が変わる。会社との関わり方に変化が生まれているのです。
社内では話せないことを社外人材と話していく。「上司の聴くスキル向上」だけでなく、もう一つの有効な施策として全体を設計することで、企業における1on1力を高めていけると考えています。
セミナーに参加して
私が特に印象に残ったのは、「話を聴いてもらうと、エンゲージメントスコアが向上する」という話です。この一文だけを見ると「なぜ……?」と思ってしまいますが、自身の体験を振り返ってみると納得がいきます。
確かに自分の感情や価値観を、誰かに深くしっかり聴いてもらうと、仕事に対する納得度が上がる。“よし、明日からもう一度やってみよう”と思う気持ちです。それによって、自身の仕事との向き合い方が変わっていく。具体的には、裁量のある仕事を任されていると思えたり、所属する職場はチャレンジできる環境だと感じられたり……。結果として、一人ひとりが「自律的に動いていく力」になっているのだと思います。
今回のセミナーを聴いて、「聴き合うこと」がもたらす力をもっと信じたいと感じましたし、その可能性を一人でも多くの人に伝えていきたいと思えたセミナーでした。
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