40歳を過ぎてなお、したい恋ってどんな

初めての彼氏は、彼氏と呼べる人をつくりたいだけの彼氏だった。合コンで知り合って、周りがつくった流れのままに、付き合うことになって、キスをして、クリスマスプレゼントを交換して、セックスをする前に別れた。マイルドヤンキーだった彼は、今ごろ地元の焼肉屋さんの座敷で思春期の子供と茶髪の奥さんと過ごしているに違いない。

次の彼氏は、サークルの先輩を好きになって、いつの間にか両思いになって付き合った。ドキドキして、期待に胸を膨らませながら、相手の気持ちを言葉やしぐさから推し測ったりしていた季節は、初めの「もしかして」が「きっと」になり、「確実に」へと移り変わっていった。最終的にうまくいった恋にしかない、はじまりの華やかさに溢れていた。最高だった。幸せだった。生涯に一度でも、あんな経験ができただけで私の人生は大成功だと思えるくらいに。私を包む空気すべてに、今にも弾けそうな好意の粒が充満していて、毎日それを呼吸していた。私の彼への好意と、彼への私への好意が混ざり合って、少しだけ彼の行為の分量が多かった。付き合いたての頃、ゲーセンでジュースを買いに行って、戻ってくる時に遠くから私の姿を認めて満面の笑みになった瞬間の、世界が花開いたような夢心地は、25年経った今でも忘れられない。彼とは約9年付き合って、結婚できずに別れた。覚悟ができなかった。相手の人生に責任を持つ覚悟も、添い遂げる覚悟も。

次の彼氏とその次の彼氏は、既婚者だった。でも。でも、と前置きをしなければならないことが残念で仕方がない。好きだった。憧れて、好きになって、相手の気持ちを推し測って、両思いを夢見て、それが叶ったということについては、恋そのものだった。ただ、私の年齢も、相手の事情も、何もかもがあまりにも神様の不手際だったと思う。私にとっての結婚は自由を奪われる行為だったし、だから私はそれをしないで生きていくつもりだった。だから、相手が結婚していてもいい。だけど、まずもって、私はこの人が好きだと思うたびに、こういう言い訳がましいことを思わなければならない恋だった。ただ都合のいい女に甘んじているだけなのかもしれない負い目がいつもそこにあった。清らかに燃える恋の炎の隣で、ずっと燻って視界を曇らせた。だから、こんなことが長く続いていいはずがないと思った。私は「私は都合のいい女でいいの」なんて健気さは持ち合わせていない。だけれども、家庭を捨てさせるほどの器量が自分にないという自覚を持つくらいには賢い。

そして。

この二人のうちのひとり目の方は、私を囲いたいと言ってくれた。こんな私を。と、今でも思う。そして、あの時その申し出を受けていれば、と、思い出すたびに思う。私には、愛人になる度胸もなかったのだ。

都合のいい女では嫌で、家庭を捨てさせる自信も愛人になる度胸もない。

そんな40過ぎの女が、まだ恋をしたいと思っている。そして、次の恋では結婚をしたいと思っている。それは一体、何をどうしたいということなのだろうか。

好きな人を大切にし、好きな人に大切にされる日々を通して、人生の安全地帯を育みたい。自分でつくった安全地帯をベースに生きていきたい。その好きな人は、好きだと思えるところがある人だ。その人の存在すべてに惚れ込んで、自分を投げ出すような恋ではなくて、これまで自分の人生を生きてきた私が、「この人のこういうところは好きだ」と心の底から思えるところがひとつでもある人。その人のいいところが、私が好きになることでより豊かになってほしい。そう思える人。

これまでの私は、ずっとずっと、自分を亡き者にしたかった。私にいいところなんて一つもないと思ってきた。圧倒的に憧れさせてくれる人の懐に潜り込んでいる間は、そういう自分を忘れていられたから、その状態が欲しかった。だけど、これからは、そうじゃない。そういう恋じゃない。というか、そんなのは、恋じゃなかった、のかもしれない。

私のいいところは、真面目で優しいところ。相手の話を聞いて、相手に合わせて楽しく話ができるところ。経済的に自立しているところ。自分で人生を切り開いてきたことで培われた包容力。自分に正直なところ。言うべきことを言う勇気がある。美的追求。

でも、もっといいところは増やせると思う。ジャニーズの子たちを見ていて、礼儀正しく対人自己表現力が豊かで努力家で、だからキラキラしているんだと思う。私はもっと頑張りたい。もっと努力したい。目標を持って、それに向かって克己心を持っていたい。その結果として、仕事に誇りを持ちたい。信念を持ちたい。

私が今辛いのは、頑張っていないから。心の底から世界でただひとり私の仕事だと思える仕事を完遂して、年収1000万円を達成して、目標を見失った。

次は、なにに向かって頑張る?
自分と人のいいところを見つけることを頑張る。
自分の経験をしっかり見つめて、人に伝えられる何かを見つけることを頑張る。





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