俳句チャンネル ~記号 編~

【はじめに】
この記事では、2021年1月21日にYouTubeにアップされた動画『【記号】記号を俳句に使ってもいいの?』をベースに、俳句に使われた「記号」についてご紹介していきます。

『こんな言葉、俳句に使って良いのか』シリーズの第5弾(最後)だそうです。早速、本題へと参りましょう。

1.実は過去の例句紹介にも登場していた記号たち

え、俳句に記号なんて使っても良いの? とお思いの方が、(過去の、このシリーズ同様に)いらっしゃる様ですが、著名な俳人でも当たり前の様に、俳句に記号が詠み込まれてきました。

事実、過去のこのシリーズで紹介した例句の中にも、実は幾つか、「記号」を含んだ作品が紹介されていたので、ここで振り返っていきましょう。

・太陽をOH!と迎えて老氷河/鷹羽狩行
・遺品あり岩波文庫「阿部一族」/鈴木六林男

1句目の「!」や2句目のカギカッコについては、まさに、「記号」として最初の方に浮かびそうな代表的なものでしょう。

1句目は「!」が無いと、折角の英語がサラッと読み流されてしまいそう。また、2句目は固有名詞であることを印象づける効果もあっての記号です。

ここで再確認しておきたいのは、歳時記に載るような名句、名俳人でも必要とあれば躊躇なく記号を使っているという点です。シリーズ全体に共通するのですが、「使っても良い?」という2択への答えは『YES』となります。

2.今回動画で新たに紹介された例句

他にも、記号が使われている例句が様々紹介されていました。

・月光や猿・皿・更紗・猿・更紗/依光陽子  の「・(中黒)」

これは当然、音としては読みませんが、楽譜における小休符みたいな調子を整える効果がありますし、これらの「中黒」がなければ、猿皿更紗という、意味不明な文字列となってしまいますから、無くてはならないでしょう。

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ここまでは音として表現されない記号を紹介してきましたが、音として読む例句も数は少ないですが、あるようでして。気持ちの良い例句 ↓

・トランペットの一音♯(シャープ)して芽吹く/浦川聡子

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『芽吹く』という春の季語と、『♯(シャープ)』という音楽記号が、絶妙に取り合わされている秀句です。その音がトランペットによるものだという点が更に映像も確保されていて素晴らしいと思います。

ちなみに、この流れ(音楽の話題)だから間違いなく読めますが、仮にこの記号が句の冒頭に来ていたら、例えば「#(イゲタ)」や「#(ハッシュタグ)」と読み間違えられる危険性もありますんで、ご注意を~。

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そして、案外「少ない」という音として読む記号を含んだ俳句。色んな句集や歳時記を探して見つけたのが、お2人の身内の句でした。

・霾や*(アスタリスク)に続く文字/加根兼光

以前、「365日季語手帖」にも収録されていた様に記憶しています。季語は「霾」の一字で、「つちふる」と読み、今風に言えば『黄砂』のことです。ですから、定型17音あるのに、文字としては「霾や*に続く文字」とたった8文字で書き表せる少し変わった作品なのです。

動画の中では、これが『ハートマーク』だったりなんかしたら、『夫(父)何やってんだ』ってなる。『*(アスタリスク)』だからこそ良い。というポイントも抑えられています。
先ほどのトランペットの句も、『♭(フラット)』では、どう読んだら良いのか迷ってしまいますよねww そこらへんの選び方が肝です。

そして厳密には記号ではなく漢字であるという「凸凹」や「卍(まんじ)」の話題が出た所に派生してこんな句も。

・地図に見る明日行くところ萩の卍/池田澄子

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池田澄子さんについては、文体と表記の回で、代表句とされる『じゃんけんで負けて螢に生まれたの』を始め、何度か、夏井いつき俳句チャンネルにも登場していらっしゃいますが、こちらもピンポイントに狙ってきた句です。

「卍(まんじ)」自体は漢字ですが、これは『地図記号』であり、「てら」と読むのではないかとお2人は考えています。なぜそう感じるのでしょう?

① 「地図に見る」と『地図』を冒頭で意識させている点
② 「明日行くところ」までで、定型(5・7音)な点
③ 下五が「萩の(はぎの)」と3音あり、定型なら残り2音な点

これらから総合的に判断をすると「てら」と読む可能性が浮上してきます。確かに、「萩の卍(はぎのまんじ)」と字余りな可能性もありますが、音読すると「はぎのてら」の5音の方がしっくり来る感じもしますよね。

これは「地図記号としての卍」なんですよー、という風な配慮が随所に散りばめられています。
これぐらい緻密に誤読を防ぐ努力をしておかないと、時代や状況、環境によって作者の意図と違った読みがなされてしまうのでしょう。そうした難しさが「記号」を含んだ俳句には特に強そうです。

3.記号を含んだプレバト!!俳句(音読しない編)

ではここからは、過去「プレバト!!」で披露された俳句の中から、「記号」を含んでいるものをご紹介していきます。
まずは「音読しない記号」をざっくり。大半はそちら側ですよね。

・冴え返るA.I.棋士の白き腕/岩永徹也
・窓外を300km/hで青葉行く/カズレーザー

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例えば、岩永徹也さんやカズレーザーさんなど、比較的若い世代の方の句ですと、「.」や「/」などを日常で使うこともあってか、至極自然な形で登場しています。意識しなければ気づかないほどでしょう。他にも、

・マフラーに込める君へのetc…/国生さゆり
・ひまわりの少年飲み込むU・F・O/未唯mie

ピンクレディー未唯mieさんの「U・F・O」は、固有名詞的な側面もありますが、前者・国生さゆりさんの掲句は、番組最初期に80点という高得点を記録した作品で、「etc…」とアルファベットと記号が両方含まれています。

例えば、「?」や「…」といったニュアンスは、記号を用いずに表現するのが俳句の基本という印象があるのですが、絶対に使っちゃダメ! ではないことを抑えておきましょう。ただ、俗っぽくなったり、俳句っぽくなくなったりしてしまうため、使う場合はリスクの方が大きい事も抑えたい点です。

そんな中、「!」を使って自分の世界を描いたのが、プレバト!! 自由律俳句の急先鋒・渡辺えりさんです。

・女木よ!! 一人で死ぬか暖簾の下に/渡辺えり

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本来「よ」という呼びかけ自体が強調的なニュアンスを幾分はらんでいる筈なのに、「!」を2つも使って(力づくに)強調しています。やはり、記号が入ると、それで目を引く側面はあろうかと思いますが、評価されるかは、かなり難しい部分もあろうかと思います。

プレバト!! の中でも、非常に多く登場するのが「カギカッコ」です。今回は2つに分けてご紹介します。

① 固有名詞などを強調するためのカギカッコ
・ジーンズの聖地「KOJIMA」よ冬の虹/篠田麻里子
・網棚の小さきマフラー「Y」の文字/千原せいじ
・「運命」のドア叩く音春疾風/千賀健永
・「とき」発車旅憂わしき花追風/中田喜子

「KOJIMA」はブランド、「Y」はイニシャルで、どちらもアルファベット。「運命」は(作者の意図としては)楽曲のタイトルで、「とき」は列車名と固有名詞です。一般名詞ではないことを示すためにカギカッコで括るというのは、普通の文学でも良く見かけるものですよね。

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ただ千賀さんの句は、他流試合形式で行われた際、カギカッコを付けずに、固有名詞(曲名)と限定しない方が良いのではないか? との議論がなされたこともありましたので、記号を付ける方が得かはケースバイケースです。

もう1つ、音をそのまま表現したタイプの句をご紹介しましょう。

② 音やセリフなどをそのまま表すためのカギカッコ
・「モノレール」に「ルール」と返す冬すばる/小倉優子
・「もういいよ」子ふたり隠す冬木かな/グローバー
・蜜柑「け」とばっちゃが降りた無人駅/梅沢富美男
・嚔して「きっと君は」へまた戻り/武田鉄矢
・シンクの西日カップ焼きそばの「ボコン」/梅沢富美男

1・2句目は子供とのやりとりの中でのセリフ的なものであり、3句目も、「ばっちゃ」が言った方言でのセリフです。そこから4句目は、街に流れるBGMの曲の歌詞の一節で、5句目は擬音です。

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現場証明と言いますか、リアリティーを確保する意味で、そのままのワードを引っ張ってくるのは常套テクニックの一つかと思いますが、これもカギカッコが無くてはならないものかはケースバイケースかと思いますね。

最後に、「音読する」のと「音読しない」の両方を兼ね備えた記号(?)を追加する添削を、夏井先生がした例を1つだけご紹介しておきましょう。

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東大生・木瀬哲弥さんが初登場で才能アリ70点を獲得した句。記号として「、(読点)」が含まれているのですが、それだけでなく、明確な字足らず(5・5・5の15音しかない)で挑戦的な作品です。

ただ、俳句独特の記法として、縦一列に書くのが一般的だという前提に立つと、(今回この記事では横書きとしますが)

・無線絶え耳に風見上げ、月/木瀬哲弥

となり、字足らずなこともあって、何処までが中七か分かりづらいのです。ですので、夏井先生は、ここで一拍置くのだということを明確にするために「風」と「見」の間に「 」(空白)を1文字分置く添削をしました。

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こうすることで、「風を見上げる」のではないと誤読を防ぐことにも繋がりますし、何より原句のリズム感を読み手に分かりやすく伝えられます。

この添削に登場した「 」(空白)は、『1音も増えないので、読まない』記号ですが、それと同時に、『1拍置く』という楽譜の休符的な側面もあるので、ある意味で『読む記号』の要素も兼ね備えているのです。

むしろ短歌で良く見かける技法な気もしましたが、俳句でもこうしたテクニックを使うことで、表現の幅が広がりそうですので、中級者以上は覚えておきましょう。

4.記号を含んだプレバト!!俳句(音読する編)

ではここから、私の記憶する範囲が中心となりますが、プレバト!! で披露された「音読する記号」を含んだ作品をご紹介していきます。

ところで動画の中では、Kis-My-Ft2の玉森裕太さんが披露し、才能ナシとなってしまった「草生える(www)」も、記号に準じるネットスラングとして、夏井組長の記憶の中に残っているという話題が出たりもしましたww

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そんな中、ジャニーズの先輩にして、2020年度下半期の直木賞ノミネート、2021年本屋大賞にもノミネートされた小説家でもある「加藤シゲアキ(NEWS)」さんの句にも、地味ながら記号が使われていました。


・めんつゆが一・五本秋の宿/加藤シゲアキ

「いってんごほん」と中七の「・」を音読していますよね? こういうのをサラッと違和感なく取り入れられるあたりは、流石という印象です。

同じく、サラッと若い感性で記号を入れたのが、ゆきぽよさんのこの句。

・海の家香るカレーは★3つ/ゆきぽよ

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「ほしみっつ」という表現は、テレビなどでも多用されたことから、非常に耳に馴染んでいる表現。それを算用数字と記号をもって表現する感性。こういうのは下手に「星三つ」などと書くより鮮やかかと思いますね。

芸能人らしい俳句として、年に1~2回登場するのが、俳優さんによる台本系の俳句で、その中でもこちらの句は、

・台本のラストの「……」(てんてん)春の宵/吉本実憂

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夏井先生は「てんてん」より「むごん(無言)」などとした方がカッコいいと読みを添削しましたが、文字面としての記号の持つインパクトは良く示されていると思います。全体として見ても才能アリの評価なのも納得です。

そして、こちらは「すったもんだ」がありましたが、東国原英夫名人の句としてこの記事では紹介させてもらいます。「記号」を使ったプレバト!! 俳句の中で、おそらく最も有名になった作品だと思うがゆえ。

・梅雨明や指名手配の顔に×/東国原英夫

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梅雨明という少し抽象的な季語に対して、「×」という記号が、映像をしっかりと描ききっている点を評価できると思います。(何せ、同内容で新聞に掲載されているぐらいなのですから)

そして、この騒動があった直後の、2018年金秋戦で、まだ特待生だったもののコツコツと実力を上げていた千原ジュニアさんが披露。タイトル戦3位、「ベスト50優秀句」に選出された句を、この流れで紹介しておきましょう。

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むしろ「ご」の1字を消したことで、音が減っているとも取れるこの表記。大人であれば誰しも経験のありそうな「御」を消すというマナーをうまく、俳句の表記の中に取り入れたこの作品は、『表記』を記号的に演出するという手本のような作品だという風に感じました。

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記号には、「見た目」で楽しませるという一種の挑戦が常に含まれていて、それが成功した時のリターンは大きいのだと認識させられる1句でした。

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【おわりに】

『こんな言葉、俳句に使って良いのか』シリーズは、夏井いつき俳句チャンネルで5度にわたって公開されてきました。結論としては「全部OK」となる訳ですが、それを使った秀句を見ると、俄然、自分でもチャレンジしてみたくなりませんか?ww(←草生える)

ぜひ皆さんも、過去のシリーズ動画、私の記事も参照しつつ、チャレンジ句をどんどん作ってみて頂きたいと思います!

それではまた次の記事でお会いしましょう。俳号:Rxでした、ではまたっ!

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