山の喇叭吹き

forest engineer in Japan

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最近の記事

選木にまつわる雑感

森づくりのための選木技術(伐る木と残す木を選ぶ技術)は一生かけても終わりのない道。フォレスターは先発でもクローザーでもない、永遠の中継ぎ投手。 だから、技術を身につけることではなく、技術を高めていく方法の習得が、学校での職業訓練の目標。 昔、「地図に残る仕事」というキャッチコピーがあったけれど、こちらは地図に残らないような仕事ができたら本望、という世界。 木の一本一本に表札はないけれど、選木の意図を後の世代が何かしら感じてくれたら、それが我々が生きた証になるのでしょう。

    • 森を傷つけないように伐る、とは?

      2024/4/28 にアップした「木を伐るときに考えたい優先順位」では、安全性と品質の優先順位をどう考えればよいのかについて、ひとつの考え方を示しました。 優先順位の3番めに「Keep quality of forest(森を傷つけないこと)」を挙げましたが、ここをもう少し掘り下げてみたいと思います。 例えば間伐作業の際には残存木の保護や土壌の保護に配慮することになりますが、全ての樹木・林地を傷つけないで施業することは不可能です。これは「コストをかければできなくもないが林

      • 木を伐るときに考えたい優先順位

        ひとつの考え方。 1.Safety 安全性 2.Take timber out easily 搬出しやすい倒し方 3.Keep quality of forest 森を傷つけないこと 4.Easiest way for worker 作業員にとって最も簡便な方法であること 5.Keep quality of timber 伐倒木の品質 1〜5の各項目は互いに影響し合う。 例えば、2搬出しやすいということは、3森を傷つけないということにも影響する。3森を傷つけない(品質を

        • 人の都合

          人はギャップに惹かれる。 悪人が更生していい人になったり、品行方正だと思われていた人が不祥事を起こしたりするとニュースになるが、ずっとイイ人、ずっと悪い人の話はあまりバズらない。意地の悪い見かたをすれば、人を持ち上げて褒めそやすのは、落とした時のギャップを得るための準備とも言える。 それは例えばメディアの都合。 人やお金を手っ取り早く集めようと思ったら、このギャップづくりをすれば良い。簡単なのは単純化して(見せて)、何かを徹底的に叩くことで自分を上げて見せることだ。問題

        選木にまつわる雑感

          色覚特性レンズ

          「ハハハ、おまえ色盲なのか?」 小学二年生のときだったと思う。図画工作の時間でみんなで埴輪の絵を書いていた。色を塗っていると、担任教師が「おや?」と自分の前で立ち止まり、「なんだこの色は」と言い出した。茶色を使うべきところを緑色の絵の具で塗っていたらしい。そのあと冒頭の言葉を投げかけられた。同級生たちが集まってきて恥ずかしかった。 休み時間に廊下でしょんぼりしていると、保健の先生が「どうしたの?」と声をかけてきた。授業であったことを話すと、それはひどいと憤慨しだした。その

          色覚特性レンズ

          水危機 ほんとうの話

          山を買いたいという相談を受けました。動機をお聞きすると、外国資本が水資源を買い漁っているらしいから守りたいのだ…と。 このお話、定期的に出てくるのですが、山を買ったからといって水資源を得たということにはならないのですが…と申し上げると、狐につままれたような顔になり、そして首をかしげて帰っていかれました。納得されていないのですね。 一連の噂の発端が自身が管理するある山林の売買に絡む話だったので、私はそう説明できるのですが、普段冷静に論理的に物事を捉える方であっても、この話に

          水危機 ほんとうの話

          "専門家"の落とし穴

          ある山林の管理担当者は、山林経営の収支を改善するために専門家にコンサルティングを依頼しようと考えました。 候補となったのはA社とB社。どちらも親身になって相談に乗ってくれます。A社は森づくりを一から問い直したほうが良いのではと言い、B社は我が社の得意なデジタル技術をぜひ採用してくださいと提案してきました。 管理担当者は自分たちの経営には根本的な対策が必要だと感じていたので、A社に依頼をしたかったのですが、上司にB社に依頼するように指示され、その山林は業務のデジタル化を推し

          "専門家"の落とし穴

          林業を諦めない

          管理山林を有するものの、「私達はこの山では木材収穫は考えていません」「林業をするつもりはありません」「経済は期待していないので環境だけやっていきます」という企業や団体が増えてきているなあという感じがしています。 林業したところで儲からない、人口も住宅着工も減っていくのに将来性はあるのか、成長産業化と言われてもピンとこない、木を伐るより保全の方がイメージが良い、etc… 森林所有者の立場からすれば全て理解できます。現状認識として間違ってないです。 ただね…と。 現状への

          林業を諦めない

          対立思考の限界

          あんまりここでは政治的なことは書かないのですが、東京の某市の市長選挙結果を見ていて、やはり「対立思考はいずれ行き詰まる」ということを改めて思いました。 具体的には「Aを下げることでBを上げて見せる」ということを指します。このやり方は手っ取り早い(例えばお金や支持者が容易に集まる)ものの、時間が経つとその効果は上げ止まり、そして尻すぼみになって行きます。 なぜそうなるかの理屈はシンプルで、Bが良く見えたのはBそのものが良かったからではないことに多くの人がそのうち気がついてし

          対立思考の限界

          報道の自由と政治家の現地入りの是非と

          ※ 2023/11/17 Facebook タイムラインより転載 1996年のこと。治山ダムと砂防ダムの工事現場で融雪による土石流災害が発生し、その設計に関わっていた筆者は同僚たちと現地に張り付いていた。 時は12月、行方不明の現場作業員の捜索のために仮設テントによる詰所が建てられ、外には一斗缶に周辺から拾ってきた薪をくべて、スタッフは交代で暖をとっていた。 やがて報道陣も集まり始めた。こんな山奥までご苦労さまだなあと最初は思っていたが、スーツに革靴、簡単なオーバーコー

          報道の自由と政治家の現地入りの是非と

          動く前に見る・考える

          林業学校で事故対応の授業を担当していますが、そのなかで「赤・黄・緑信号の訓練」というものをやります。事故現場に遭遇したときに、あなたはどう動きますか?という演習です。 救命救急で最悪の状況とは、救護者が二次災害に巻き込まれて後の救護活動がストップしてしまう事態です。しかし、初めのうちはほとんどの人が赤はできても黄で動いてしまいます。 これをケーススタディで何度も繰り返すうちに、だんだんと3段階の行動ができるようになっていきます。 赤信号と黄信号はすなわち観察と考慮なので

          動く前に見る・考える

          【不快】が正しいこともある

          津波からの避難を訴えるTVアナウンサーの話し方が感情的で不快だ、という主旨の意見を目にしました。このことについて近自然の考え方から考察してみたいと思います。 そもそも私たちはなぜ不快を感じるのでしょうか。人には五感(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚)がありますが、この五感(+心)の全部または一部をもって快・不快を感じ取っています。すなわち、快とは美しい、良い音、良い香り、美味しい、肌触りがよいということ。 不快とは汚い、うるさい、臭い、不味い、肌触りが悪いということ。こうして

          【不快】が正しいこともある

          【書籍】 スイス林業と日本の森林〜近自然森づくり

          2017/7/17 excite blog より転載 浜田久美子さんの新刊「スイス林業と日本の森林〜近自然森づくり(築地書館)」を読了。私自身も情報のご提供などで若干関わらせていただいたこともあり、書評という訳にはいきませんが、少しだけ想いとPRを。 前作(スイス式[森のひと]の育て方)は、人材育成に焦点をあてながら、スイス林業や近自然森づくりに関する紹介や基本的な理解のための記念すべき1冊となりました。それから3年、新しい情報、更に深まった理解、そして施業や経営、行政で

          【書籍】 スイス林業と日本の森林〜近自然森づくり

          【書籍】矛盾の水害対策

          谷誠先生の新刊を読了。 前著の「水と土と森の科学」(2016)は、森林水文学や砂防工学を学ぶ者にとってこれだけは読んでおいたほうが良い本の1冊であることは間違いないが、相当専門的なので気合が必要。 今回の「矛盾の水害対策」は、内容は専門的だけれど政治や政策の観点からも治水を論じているので、専門外の方でも読みやすいだろう。 ただし、内容はかなりもやもやする。 1997年の河川法改正で河川管理に環境保全の考え方が盛り込まれたこと、その前後の経緯についての解説が詳細にされて

          【書籍】矛盾の水害対策

          初めての近自然

          最初に近自然という考え方に出会ったのは2010年の春のことだった。その時のメモが出てきたが、今見ても解釈はそんなにズレていない。森づくりだけではなく、川づくり、まちづくり…いろんなことに応用が効きそうだ。 「気持ちの良いこと」を追求すれば、人類の将来は明るいらしい 2010年4月23日 札幌で山脇正俊氏の講義を聞く。 山脇氏は「近自然学」を提唱した方。普段はスイスに在住しているが、今回は札幌の大学で特別講義があり、それをこっそり聴講させてもらった。 近自然学は、人類は

          初めての近自然

          偏見と差別の話

          ※2019/4/4 excite blog より転載 デリケートな話のメモ。 人種・民族差別や性差別に関わる国内外のニュースを頻繁に目にするが、同様に根深いのが職業差別の問題。つまり、社会に必要とされているにもかかわらず、賤しいというラベルを貼られる(そのことで何らかの不利益を被る)理不尽のこと。 務めている会社の親会社が3年前に変わった。それまで知らなかった業界のことを知るということは、自分がいかに偏見を持っていたかを知ることでもあった。だから、ある仕事に偏見を持って

          偏見と差別の話