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万能家ほど狭い範囲で仕事をするべき?

※ 2012/1/28 excite ブログより転載

これからの人材配置というのは、どのような考え方に基づいていくべきなのだろうか。スイスで見聞きした2つの例から考察してみた。

林業会社などに務める森林作業員や重機オペレータの話。彼らはひと通りの森林作業はこなせるように教育されているが、その中には特定の林業機械の運転が得意、ある樹種の伐採が誰よりも上手い、道路を作らせたらピカイチ、などなどスペシャリストが多々存在する。

しかし、一箇所の森で彼らの得意分野をフルに発揮させられる機会というのはそうそう多くはない。特に高額な林業機械を所有する場合は、その償却維持のために通年業務が必須である。だから、専門性が高ければ高いほど広範囲で仕事をし、時には州をまたいででもフィールドを探し求めることになる。日本でも同様の働き方をされている方はいるだろう。

それらのスペシャリストのやりくりをコーディネートするのが、市町村が雇用するフォレスター(森林作業員→高等職業訓練を経た国家資格)。フォレスターは管轄の森や地域経済、木材産業のことなど何でも知っているが、担当区に何十年も住み続け、その外で仕事をするということはほとんどない。フォレスター達の視野が狭くならないように手当てするのは、州の上級フォレスター(大学出の行政マン)の役割だ。

研究者の話。例えばトウヒに付着するある昆虫を研究する専門家がいる。その虫の事なら誰よりも詳しい。そのかわり他のことはあまり知らない。そういった研究者は、組織に所属せず個人コンサルとなる人が多いそうだ。

ある村や州では、年に1回か数年に1回しか仕事がないかもしれない。しかし、その虫の事なら誰にも負けないから、スイス中あるいはヨーロッパ中から依頼が来るので仕事が途切れることは少ないし、一生自分の好きな研究だけをしていれば良い。組織に属していないから誰にも文句は言われない。

専門性の高い研究者達に上手く仕事が回るように「需要と供給」を調整するのが、国や州の研究機関などに配属されているコーディネーターだ。彼らは自分の担当エリアに様々な研究者がいて様々な研究があることを広く知っているが、本人が国をまたにかけて何か研究や事業をするわけではない。外の世界のことは、様々なネットワークで情報交換ができる。

以上のことから見えてくるのは、「スペシャリスト(専門家)は広い範囲で、ユニバーサリスト(万能家)は狭い範囲で仕事をする」と、その能力やシステムが上手く発揮されるのでは、という仮説である。

日本ではよく大きい林業か小さい林業かという議論になるが、要は運用次第ということはこのことから導き出せる。多くの場合、手段自体に善悪はないからだ。

さて、日本のフォレスターをどうするかということである。フォレスターは森林管理のエキスパートであると同時に万能家の代表選手。私は公務員制度や企業組織の中で設置するのであれば、転勤制度をなくすべきだと訴え続けてきた。以上の仮説は、このことにも合致しているように思う。

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