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森林管理方法の区分(単木管理・面的管理・齢級管理・径級管理)

先日信州に行った際に、単木管理と面的管理の話になった。混交林に誘導したり維持したりするのに、手法としてどちらが正しいのか? という議論。

結論から言えば、どちらも正しいしどちらも間違いとなる…のだけれど、それでは問いへの答えにはならないので、私が近自然森づくりや恒続林の現場で見聞きしてきたことを元にした考察をここで試みたいと思う。

1.面的管理ではどうなったら伐るかを予め決めておく

これは、スイスの教科書に出てくる「森林管理システムにおける恒続林」という図

Checkkarten Dauerwald / Pro Silva Swiss
(原文はドイツ語、訳は筆者)

高林とは建築材を生産するような樹高の高い木を育てる森。低林とは薪炭林やきのこ原木生産のために萌芽更新で森づくりをするイメージ。中林は高林と低林のミックス。

高林は恒続林と齢級管理林に区分される。齢級管理林とはその名の通り木の樹齢で管理される森のこと。例えばここは50年生になったら伐ろう、ここは100年育てよう、などと予め決めておくという意味。

ここでは具体的手法として画伐林、傘伐林、帯状群伐林を挙げているが、もっといろいろな手法がある。皆伐再造林もここに入るが、スイスでは皆伐が禁止なので上の図では記されていない。

周期的に一定のエリアをまとめて伐ったり更新したりするので、このような森林管理手法を面的管理と呼んでいる。

それぞれの林型を横から見ると次のようになる。

Grundformen von Naturverjüngung Verfahren / KNUCHEL und KÖSTLER
(原文はドイツ語、訳は筆者)

2.単木管理ではその木の最大価値を1本1本見極める

これに対して恒続林というグループがあり、単木管理であることと、永続かつ連続した更新(更新があちこちで繰り返されることで、全体としてはいつも森であり続けること)が条件となる。

単木管理とは、その木の最大価値がいつかを見て1本1本主伐期を決める管理方法のことを指すが、イメージにすると下図のようになる。

Checkkarten Dauerwald / Pro Silva Swiss
(原文はドイツ語、訳は筆者)

植えたり自然に芽生えたりした木は、時間とともにS字曲線を描きながら(木材としての)価値が高まっていく。どこかで頭打ちとなり価値が下がるのは、成長が止まり例えば芯腐れが始まるから。

この最大価値の少し手前で収穫することを単木管理では理想とする。

その時期はまず樹種によって異なり、例えばサクラとナラでは図のようにズレが生じるし、同じ樹種でも成熟期は立木ごとに異なるので、1本1本見極めをしていくことになる。つまり単木管理とは、例えば◯年生になったら伐るとは前もって決めておけない、という意味でもある。

収穫適期は、樹種にもよるが数年から十数年に及ぶことがある。単木管理とはいっても収穫の効率もあるので、この期間が重複する立木を実際の林業経営では一度の施業で収穫していくことになる。

3.最大価値とは何か?

それでは「最大価値」とは一体なんだろうか。広葉樹は一般的に径が大きいほど単価が上がる傾向にあるので、木材として使える最大の大きさを狙うことになる。

スイスでは針葉樹も同じ傾向だが、日本では針葉樹は大径材になると逆に値段が下がることがあるので、悩みどころかもしれない。ただし50年後のマーケットも今と同じか?という疑問はいつも持っている必要はあるだろう。

ただ、同じ年輪幅ならば、大径になるほど1年あたりの成長量は大きくなること、単木材積が大きいほど収穫時の単位体積あたりのコストは(特に架線系で)低くなることをフォレスターは頭に置いておかなくてはならない。

今はそんな大径材を出せる道も機械もない、という場合であっても、数十年後も同じインフラなのかどうかは今予想することは難しいだろう。だから、今までのやり方を全く変えないのも一度に変えてしまうのも共に危険で、変えるのであれば "少しずつ" が良い、というのはそういう理由による。

松枯れやナラ枯れが蔓延している現状では大径材など育てられないという意見もあるかと思うが、単木管理は「最大価値の少し手前で収穫する」のであって、大径材でなければダメということではないことを補足しておきたい。

ここでは、価値というものを木材生産の視点から考察したが、生物多様性や景観といった視点からは、また違った物差しがありうるだろう。

4.将来木施業は何管理?

針葉樹の一斉造林のような単純な構造の森を恒続林などの混交林に誘導する手段の一つとして、将来木施業(育成木施業)がある。安定性・活力・品質に優れた立木を将来木(その林分の収入の柱にする木)として選定し、その成長を阻害している(今後するであろう)立木を間伐していく方法である。

「将来木施業と径級管理」より / 藤森隆郎, 2013

将来木を依怙贔屓することで太陽エネルギーと地力を集中させ、同じ樹種・樹齢ながらも構造を複雑化させていく。このとき、将来木の育成目標は樹齢ではなく胸高直径であり、このような管理方法を、齢級管理に対して「径級管理」と呼んでいる。

それでは、径級管理である将来木施業は単木管理か?面的管理か?

日本では、将来木施業は単木管理であるとする解説が多い(筆者もずっとそう解釈していた)が、これは用語の定義の問題なので、それはそれで正誤はない。ただ、実はスイスのフォレスター達の解釈は違うようだということは知っておいても良さそうだ、

すなわち、将来木施業は面的管理の一種であり、なぜならば「◯cmになったら伐る」と”予め決めておく”という点において齢級管理と変わりはないからだ、と彼らは言う。これは、将来木施業がもともとは大径材を効率よく育てて最終的に皆伐するための手法だったという歴史を知れば、なるほどとも思わせられる。

5.面的管理から単木管理の間には何かが存在するらしい

針葉樹の単純林から恒続林に誘導しようとする場合、様々なルートがある。将来木施業だけではなく、画伐から始めたり劣勢間伐から始めたりするフォレスターもいるし、筆者は事例を見たことはないが、なすび伐りから始める場合もあるらしい。

画伐から始めて誘導したセオン(アールガウ州)の恒続林 / 筆者撮影

少なくとも誘導の初期段階では面的管理から始めて、どこかの時点で恒続林(単木管理)になるというルートを取ることが多いようだ。

ただ、話が難しいのは、面的管理からある時を境に単木管理に急に移行するわけではなく、その中間に「構造を壊す作業」が必要だとフォレスター達は言う。将来木施業を繰り返すだけでは、恒続林にはならないのだ。

その方法は林分によって全て異なるので、筆者が師事しているロルフは「セオリーが無いのがセオリーだ」と表現した。

自身のフィールドは、まだ1回目の間伐を始めたばかりなので、自分のキャリアの中でその「壊す」施業をすることはないだろう。ただ、いつかはそういうステージがあるらしい、ということだけは伝えていければと思う。

6.フォレスターは、目の前の手法が何型か?は気にしていない

フォレスター達は、今目の前の施業が単木管理か面的管理かを気にしながら現場をやっているわけではない。大事なのは「何のためにその作業をするのか」であって、A式かB式かどちらを選ぶかというのは結果に過ぎないからだ。

ただ、森林管理は林業関係者だけではなく多くの人々の生活に影響を与える領域なので、自分たちがやっていることが何なのかを、特にこれからの時代は説明できるに越したことはない。

森づくりの方法が一つしかないということはあり得ないが、なぜ今このルートを選んでいるのかを説明しなければならないとき、単木管理と面的管理の定義を自分たちなりに決めておくと、便利な場面もあるかもしれない。

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