ブラック企業を成敗した話

注意:当記事は労働について法的な考察を行っておりますが、筆者は法律の専門家ではありません。経営者として実務から得た知見を基に解釈をしており、法律の専門家と見方が相違する可能性があります。またこの記事の通りに行動すれば問題が解決するといったものではありませんので諸々ご理解の上お読みいただけますと幸いです。

普段から公言している通り、筆者余弦は会社経営と投資を嗜みつつ趣味でアルバイトをしています。

色々バイトを転々としていると企業の暗部がいろいろと見えてくるのですが、悪いところもあれば良いところもたくさんある会社がほとんどだったのでその辺いちいち突っ込んで指摘することはありませんでした。
しかし今回勤務した会社は今まで経験したことのないレベルでアカンやつだったので、注意喚起の意味も込めて交渉の内容を公開します。

そもそも何故バイトなんかやってるの?

確かにIT屋と投資で生活には困らないくらいは稼げています。最初アルバイトの世界にもぐりこんだ理由は、単純に人との接触を求めてのことでした。起業したのは15年前の話なのですが、今流行りのリモートワークを当時すでに導入しており、やり取りはすべてスカイプとメールで済ませる環境を構築していました。よって仕事も投資もPCの前で画面とにらめっこするだけの事がほとんどで、人と会話することがほぼありませんでした。

このままではダメだ。

そう思ってアルバイトを探しました。
会社や投資をやってることもあり平日みっちり働くのは難しいので「妻に扶養されているので週末だけ働きたい」というヒモ設定(笑)で地元のスーパーやら家電量販店でのバイトを始めます。最初はそう意識はしていなかったのですが、バイトを続けるにつれ「一般の人たちは投資家や経営者などとは明らかにものの考え方が違う」という事に気づくに至り、アルバイトが徐々にライフワークへと変貌していくのでした。

株価や経済は投資家が動かしているものと思われがちですし、余弦自身も薄っすらとそう考えている節がありました。しかし実際に経済や消費を支えているのは、投資とは無縁の一般労働者がボリュームゾーンなのです。そうした切り口から相場を見ていくことである程度の成功を収められたのは非常に運が良かったと今でも思っています。

さて本題に入ります。

今回の勤務先は日本ワーク・センターという派遣会社になります。
中身はほとんどヤマダ電機のお抱え派遣会社のような感じで、沖縄支社の事務所もヤマダ電機の建物内にあります。前社長はヤマダエコソリューションの代表も務めていた斎藤陽太氏。「斎藤陽太 ヤマダ」で検索するとなんか色々ガチャガチャ出てきますが、今回はその件には触れずにおきますw

余弦が働き始めたときは福利厚生も充実、勤務環境もまずまずクリーン、多少問題もありましたが会社負担の飲み会なども定期的に行われておりトータルして悪くない環境でした。いや、むしろ良い方に属するレベルだったと言っても差し支えないほど快適だったかもしれません。

異変が起こり始めたのは実質事務処理を管理していた社員さんが辞めて、他社から後任が来た頃。福利厚生はどんどん削られて会社負担の飲み会などはまず行われなくなりました。時期を同じくしてヤマダ電機への派遣ではなくヤマダ電機から業務を請け負う形式に変わったのですが、請負になったにもかかわらずヤマダ電機の店舗社員から業務指示が飛んでくるというあり得ない状況になっていた、といえばどれほどガバガバナンスだったのかお分かりいただけると思います。

今回問題になったのは以下

・同一労働同一賃金制度が導入されてパート労働者にも交通費を支給しなければならなくなった結果、「交通費は時給に含む」と注釈を入れただけで結局交通費を支払っていない
・労働時間を15分未満切り捨てで算定し、1分以上15分未満の労働に対して給与を支払っていない
・有給休暇を連続3日以上、1か月辺り5日を超えての取得できないルールを一方的に設定
・請負業務なのに発注元の社員から業務指示がなされる

前者2項目が主な争点となります。
有給休暇の件は後述しますが、違反とは認定されませんでした。
請負の件はそもそもやるメリットがゼロどころかマイナスで、恐らく解決しても誰も得しないのでどうするか検討中です。


事の発端は退職にあたり書類整理していた時に発見した労使協定の書面。
「従業員の通勤手当は、1時間当り72円を支給する。」
こう記載されていました。

・・・ちょっと待って?交通費なんて支給されてたっけ???
給与明細を確認しても交通費の欄は空欄のままです。

ちょっとよく分からなかったのでメールで会社に確認してみます。

> 先日雇用契約の資料を整理していたところ交通費が1時間当たり
> 72円支給されると記載があったのですが、給与明細を確認したところ
> 支給されていませんでした。
> 何か申請など必要なのでしょうか。
> 手続き方法を教えてください。
> また書面で退職金についても言及されておりましたが
> これについても手続きが必要でしたら詳細を教えてください。
> よろしくお願いいたします。

それに対しての返信が以下

> 労使協定の記載について誤解を与えてしまい、大変申し訳御座いません。
> お問い合わせ頂いた交通費72円と退職金52円に付きましては
> 時給に含まれており、別途支給をするという事では御座いませんので、
> 手続き等は不要となります。

・・・一体何を言っているんだ?
ポルナレフのAA状態になりつつ更に返信します。

> 労使協定の書面を受け取る前は時給のみで1060円として合意して
> おりましたが労使協定発効後に交通費72円と退職金52円を含めて
> 1060円とされたということは時給が124円一方的に切り下げられた
> ことになります。
> 労働者の同意なく使用者が賃金等の労働条件を一方的に切り下げるのは
> 法的に無効となりますので、この場合交通費と退職金相当額を追加で
> 受け取ることが可能と考えます。

嫌な予感しまくりですが、返信を待ちます。
そして届いた文面がこちら。

> 先ほどご質問いただきました労使協定の賃金決定について
> 弊社の説明が不十分で大変ご迷惑をお掛けして申し訳ございません
> でした。つきましては、ご指摘の交通費・退職金についてお支払させて
> 頂きたく存じます。

キタ―――(゚∀゚)―――― !!

やっべ、超絶あっさり解決してしまったwww

当初はこれで終わりになるはずでした。
他にもまあ問題はありましたが、別段これ以上食いつくメリットも無いのでこの時は本当にこれ以上の追及をするつもりはありませんでした。

LINEで元同僚に喜びを伝えます。
過去遡って1時間あたり124円追加支給されるってさ!週5日勤務だと年収で26万円くらいアップやw
おれのおかげでみんなの給料アップなったんだからメシぐらいおごらんとあかんぞw

翌月無事該当の金額が振り込まれました。
しかし前回喜びを分かち合った元同僚にチャットを投げてみたところ、過去分の追加支給は無しの上、今後についても交通費は2km未満は無し、それ以上は1日100円と勝手に変えられていた事を知らされます。

「あいつら俺にだけ口止め的に支払って、他はちょろまかす気満々や」
そう直感した余弦は、振り込みのお礼のメールの文末に様子見のジャブを書き加えて送信しました。

> ところで本件該当の不足金は他の従業員については支給されないので
> しょうか。また一方的に従業員側に不利な就業規則改定を行ったと
> 聞きましたがどういう意図なのでしょうか。

返信がきます。

> お問い合わせ頂いた内容についてご回答いたします。
> 就業規則を改定はしておりません。
> 以上。

(#^ω^)ピキピキ
ジャブ打ったつもりがカウンターストレートが返ってきましたw
仮にも振り込みありがとうございますメールの返信がこれは無いでしょw

しかも向こう、メール送るときに一切名乗りません。責任者が書いてるのか、事務バイトさんが書いてるのかもわからんので追撃します。

> やり取りさせて頂いているメールの内容は
> ・日本ワークセンター全社の総意なのか
> ・日本ワークセンター沖縄支社単体による意思なのか
> どちらなのでしょうか。

それに対する回答が以下

> こちらのメールにてやり取りさせて頂いておりますのは
> 沖縄支社となりますが、一連のやりとりは東京本社へも
> 共有しております。

日本語読めない系の大人ですかね?
2択で回答を求めているのに自身に責任が及ばないよう絶妙に曖昧な第3の回答を生み出す企業体質やめてほしいっすw

大人の対応でオブラートに包んで書いてるともう話にならないのでもう少しストレート気味に書いてみることにします。
(1か2かでお答えください、という文面を最初送ろうとしましたが、さすがにそれはやめておきましたw)

> いまやり取りさせていただいている内容に責任を持つのは
> ・日本ワークセンター本社なのか
> ・日本ワークセンター沖縄支社なのか
> どちらなのでしょうか。
> 責任の所在によってこちらも対応方法が変わってまいりますので
> どちらに責任があるのかを故意に曖昧にする回答は避けて頂きたいです。

ここまでの流れでどういう対応になるのかは薄々想像がつきますね。
回答がこちら。

> お世話になっております。日本ワーク・センターです。
> ご退職された方につきましては
> これ以上の回答は差し控えさせていただきます。

ハイおわったw

さてそんなこんなで問い合わせに回答してもらえなくなったので、とうとうお国の機関に縋ることにします。労基署等で色々相談して新たな気付きがありましたので、まずそれらを紹介させてください。

まず一番最初の争点になった交通費を時給に含むと記載して実際には支給していない件。
経営者側から見た余弦個人の考えとしては
他のコストを一方的に時給に込みとすることは給与をその分引き下げたことと同義であり、労働条件の不利益変更にあたるので無効
という認識でいました。

しかし労基署の担当者さんによると
支払われる金額自体が減額された訳ではなく、その内訳が変えられただけなので一概に不利益な変更とは見做せない
とのことでした。
つまり極端な例で言うと
基本給30万円で働いていた人が昇進して、役職手当10万円支給されると同時に基本給を20万円に下げられて合計30万円となった場合でも、支払総額は変わっていないので直ちに不利益変更とは断言できない
らしいです。
これは目から鱗というか、かなりの衝撃的事実でした。もちろん本当にこんなことがあったら大問題化確実ですが

労働者に対して不利益な変更か否か

という切り口でのみ見た場合はそうとも言い切れないという回答になるそうです。深い。

・・・となってくると、最初の指摘であっさりと追加分支払われたのはラッキー中のラッキーだったということになりますね。

またも運で生きる男の本領を発揮してしまった。

次に有給休暇の利用制限など、明らかにアウトっぽいルールを使用者が一方的に定めることについて。
結論から言うとルールを定めるだけでは違法とは言えないらしいです。
仮に有給休暇を連続3日を超えて取得できないと定めた結果、皆がそれに従わざるを得ない状況を作って選択肢を奪っていたとしても違法とは断定できないとのこと。
ではどういうケースだと違法認定されるかというと
従業員がその3日ルールを無視して有給申請した結果、不当に却下された
という事実があった場合。もちろん事実があってもそれを証明できなければダメです。

建前は何を書いても問題なし、事実こそが全てなのだ!ってことかな?
多少腑に落ちないところもありますが、事実のみを見て判断するという原則は結果的に究極の平等なのかもしれません。

唐突に話は変わります。

求人の質や量というものはその時々の世の経済状況を顕著に表します。
どういう業種が人をたくさん採っているのか、どういう業種が賃金低いのか、求職者がどのくらい死んだ魚の眼をしているのか()
ハローワークには経営や投資に有用なヒントがたくさん落ちているのでとても勉強になります。
そんな時、とある人が窓口で大声を上げているところに出くわしました。
聞き耳を立てていると、どうやらハローワークで紹介された会社で不当な扱いを受けたようです。
ハローワークで提示された条件が実際に入社してみたら全然違った、という話はよく聞きますし、もちろんそれは是正されるべきです。

でもハローワークの窓口の人も普通の人なんですよね。
会話のキャッチボールができなかったり、自身の言い分を一方的に吐き出すような人には良くしてあげたいなんて絶対思わないはずです。
労働相談に行く人は大抵「自分は被害者」という認識で出向くと思います。
その認識が故に理論的に話す職員にイライラして思わず大声をあげてしまうということもあるのでしょう。

もし労働相談に行くことを考えている人は落ち着いて考えてみてください。
職員さんも人間です。
自分が職員側の立場だったらどういう人を助けてあげたくなるか、しっかりイメトレしてから臨んでください。

そのように徳を積んだ結果

かどうかは不明ですが「一概に違法行為とは見做せない」との回答をもらってしまった交通費が時給に込みとして処理された件、これ以上の責任追及は諦めていたのですがなんと対応してもらえることになりました
同一労働同一賃金制度を曲解し、異なる趣旨で運用していると認められる
とのことで申告内容は概ね全面的に受理されました。

そして主戦場は15分未満切り捨て問題に移ります。

実際のところ労働時間の切り捨ては大抵の会社でやっていることなので、ここまで突っ込むつもりは本当に無かったんですけどね。まったく反省しない日本ワークさんの寝ボケ眼を覚まさせるために頑張っていきます。
ちな余弦の経営している会社では仕事をお願いした場合、報酬は1時間単位に切り上げて割増払ってますのでご安心くださいw

交通費ちょろまかし問題が無事受理され、続いて15分切り捨て問題を切り出したところどうやら担当部署が違うとのことで別窓口に案内されます。
沖縄労働局では同一労働同一賃金の問題は雇用環境均等室、賃金未払いについては労働基準監督署での相談となりました。

ここでも自分の要求をなるべく押し出さずに事実のみを伝え、効率よく是正させるためにはどういう行動をすべきか、という切り口で相談します。
まあまず最初は正攻法で使用者側に書面で未払い賃金を請求して、それに対してどういうリアクションが来るか見てから決めましょうという結論に。

しかし残念ながら現時点で正確な労働時間を把握しているのは会社側のみです。これについては必ずしも正確でなくてもいいので客観的に誰が見ても明確だと思われる根拠を基に算定するようにアドバイスを受けました。
幸いスマホのGoogleロケーション履歴は数年前まで残っており、それに加えて仕事が終わったらすぐに妻にLINEを送る習慣があったのでこれらを根拠に概算として算定することに。

そしていざ請求です。
スマホの位置情報やらチャットのログでは不正確であることは自身でも大いに認識しているので請求の文言を工夫します。

> この数字は持ち歩いているスマートフォンのGoogleのロケーション履歴と
> 家族とのLINEの時刻を基に算出した概算となります。
> 履歴が残っておらず時刻が特定できなかった日につきましては計算
> に入れておりません。
> もし私の提示した金額よりも合理的と思われる金額の提示が可能な場合
> その数字を算出した根拠も併せてお知らせください。

まあつまり分かりやすく言うと
こっちはチャットログとGPSで計算した概算だから、そっちにある勤怠管理ソフトの数字で計算しなおしてネ♪
という思いを込めて書いたのですが、さすがは日本語が読めない&責任回避したい&名乗らない系の人でした。ワイルドピッチ返信が飛んできます。

> ご提示いただいた金額の算出根拠が不明瞭なため
> 当社としてお支払いに応じることは致しかねます。

・・・うん。知ってる。
確かに提示金額は不明瞭かつ不正確だと思ってますよ。
だからおめーらの握ってるクラウド勤怠管理の数字で計算しなおせ言ってるんやろがあああああああああああああああああああ!
と心の中で叫びますw

ということでメールのやり取りと請求金額の計算書、計算の根拠としたチャットのログをプリントアウトして労基署に持ち込みました。何の問題もなくあっさり受理されすぎて、逆にこっちが
「えっ?申告もうこれで終わりっすか???」
みたいにキョロキョロして挙動不審なっちゃいましたよw

さてこれにてひとまず一個人にできることは全てやり切ったと思います。交通費ちょろまかしとは異なり、賃金未払いは罰則のある違反です。監査の拒否や虚偽の回答も罰則付きです。

さあどうする、日本ワーク・センター?


今まさに未払い賃金で会社と戦っている方へ

まずは過剰に労基署に期待するのはやめましょう。
労基署は権限を持っています。強制力もあります。故に厳密なルールに基づいてしか権利を行使することができません。言い換えると個人の利益に対しては行動してくれないという事です。会社が是正され、その結果自分の未払い賃金が支払われたらラッキーだな、程度に考えておくのが無難だと思います。

次に何事も自分でひとまず調べましょう。
教えてもらって当たり前、やってもらって当たり前、世の中そういう甘えた考えを持つ人が多くいますが、結局最後は自分がどうするかです。間違えてもいいので自分で調べ、自分で考え、自分なりの結論を携えた上で他者に相談しましょう。もし自分の誤りを指摘されたら謙虚に修正すればOKです。

常に相手の立場に立ってみましょう。
前述の通りです。自分の言いたいことだけ言って相手の話を聞かないような人は誰も助けてあげたいと思いません。また自分が会社側の人間だったと想定して考えてみるのも一興です。どのようにアプローチしたら自分の狙い通りの答えが引き出せるか、雇う側の立場で考えてみると道が開けるかもしれません。

何か自己啓発系noteみたいな感じになってきてしまっているので(笑)この程度にとどめておきますが、大体意味は分かってもらえたかと思います。

その他実務的な話になりますと、賃金未払いでもめる場合最大にして最多の問題は残業したことが証明できないことでしょう。今まだ会社を辞めるつもりがなくともいつ何が起こるかわかりません。特に残業代の精算がルーズな会社に勤めているのであれば今すぐにでも対策を始めてください。極論実際の退勤時間を手帳に日々メモしておくだけでも十分証拠となり得ます。

またもし既に退職していてそういった記録も一切残していない、という方。
Googleロケーション履歴は通常デフォルトでオンになっているはずなので確認してみることをお勧めします。分単位でいつどこにいたか、明確に残りすぎててドン引きしますよw

記事に興味を持ってくださったメディアさん各位

記事の有料部分を転載しないこと、出典を明示してくださることを条件に無断転載を許可します。どしどし広めて頂いてOKです!
というかむしろお願いしますw

以下駄文

コンテンツはここまでで完結しており、以下は調査目的半分での有料設定になります。別段面白いことは書かれていませんので
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