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ADRと転職と私

「しらいし、アポイント一件取りました!」

100名程度はいただろうか、300坪ほどのオフィス内にいた社員全員に聞こえるような声で僕は叫んでいた。

大型契約を取ったわけではない。
お客様とのアポイントを取っただけなのだが、この会社ではそれがルールだった。

両手を自由にするためインカムをつけ、名簿リストに載っている会社にひたすら電話を掛け続けた。

パソコンの専用ソフトの「架電ボタン」をクリックすると電話が掛けられるシステムが組まれていたため、受話器をガムテープでグルグルに手に巻かれるようなことはなかったが、耳はとても痛く気が狂いそうになった。

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転職をする約一ヶ月前、僕は人生で初めてハローワークにいった。

夢と希望を持ち上京した僕は、新卒で東京のカタカナ系新興不動産会社に就職したが、就職したのも束の間、不運にもその年の10月31日にリストラにより退職することになった。

そして上京して半年でハローワークにいくことになってしまったのだ。

退職理由はADRだ。


ADRと私|Yohei Shiraishi @yh_shiraishi|note(ノート) https://note.mu/yh_shiraishi/n/n1151024326b3

ADRは僕の人生を大きく変えた。

それまで対等な立場にあった大学の同級生や、学生の頃の先輩からは哀れみの目で見られた。

ハローワークには何度か通ったが、僕のような若者は一人もいなかった。

そのことがさらに僕の自尊心を傷つけた。

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役職者との面談を経てリストラが決まった者は、順に書面にサインをすることになっていた。

僕を含む新入社員はほぼ全員が退職することを受け入れた。

”ほぼ”と言ったのは、実は数名の新入社員である同期は退職したくないと会社に抵抗したからだ。

このリストラは「希望退職」という体裁を取っていたため、辞めたくないと言えば残ることができるとされていた。

数名の同期は頑なに会社に抵抗した。

この後、会社からのいやがらせがあるとは知らずに...


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