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地域と関わる学生サークル・県立広島大学「江田島応援プロジェクトYELL」 徳間陽奈さん(地方創生の現場シリーズ)

0. ティーザー版

1. インタビューの背景

地方創生とか、関係人口とか、まぁ流行りのタームが出てきた場合、概ね都市部、首都圏在住者をその対象マーケットとして想定しているのは間違いないでしょう。つまり今の地方に関しては、過密状態の都市に集まってきてしまった人々を対象に、地方や過疎地域の価値などを訴求していくことが中心的な課題になっているといえます。

特定の地域と関わる大学生のサークル活動について、県立広島大学の江田島市応援プロジェクトYELL代表、徳間陽奈さんにお話を伺いました。
元々地方都市の大学生にとって、例えば過疎地とか地方はどう見えるのだろうと思ったのがインタビューをお願いしたきっかけでした。地方創生の文脈では、あくまで都市部の在住者が地方を考えるという構造です。しかし地方出身の方が、すべて都市部、東京、大阪に移動するわけではなく、大学で言えば、広くどの広域自治体にも存在しているので、地方で学ぶ学生さんたちも多く存在しているはずです。そういう方々の意識を知りたかったのです。
都市部に比べて地方の実情を体感しているせいか、素直に過疎地域と関わっていらっしゃる印象でした。ただ、予想通りコロナの影響がサークル活動に落とした影響も大きく、期せずして新しい時代の学生さんの価値観についても知ることになりました。

2. なぜ江田島市なの?

徳間さんが所属する県立広島大学は、地域創生学部を有しており、なかなかユニークな教育研究をしているようです。その中でYELLさんは、学びと活動が上手く組み合わさっているように思えました。地域のボランティアを通して、美しい観光地でもある江田島と関わることで、学生としての楽しみも両立されているということでした。

県立広島大学江田島応援プロジェクトYELLさん 本編

江田島市自体、過疎指定されていますが、広島県で言えば、10自治体が全部過疎指定されています。なぜ江田島市?と思いましたが、キャンパスから近いことや元々出身者が創立したことなどで、特に江田島市だけに拘っているわけでは無いようです。たた全部過疎地ではあるものの、様々なイベントを行ったり地域振興に熱心な地域であることに加え、風光明媚な観光地でもあることと相まって、学生さんが課題活動を行う地域としては最適な印象を受けました。

YELLさんからお借りした江田島の写真を以下に挙げておきます。
余談ですが、観光向けに整然と写された写真よりも、一般の人々が何気に撮ったスナップ写真の方に惹かれます。写すという行為自体、何らかの心の動きがトリガーになるので、それが素直に表れていることが多いせいでしょうか。江田島に行ってみたいと思わせる写真だと思いました。

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学生さんが自発的に地域との関わりを作り出しているのは、校風なのか地方の大学ならではなのかはわかりませんが、単なるボランティアには終わっていないのが興味深い点でした。
広島県を含め、中国地方は過疎地域が多くありますが、言い換えれば、学びの素材には事欠かないわけで、グローバルイッシューとして地域の課題を捉えることが出来る環境でもあると言えます。

3. 若い人たちにとっての地方

インタビューさせていただいた徳間さん自身が愛媛県出身で、地方における若い人、特に女性の意識なども話題になりました。
以前、「地方での若い女性の生き難さ」について取り上げましたが、同じような背景は、どこにもあるようです。

ご本人は、ネガティブオピニオンを気にされていましたが、端的に言えば、どこにでもある話です。筆者が川崎市で開催されたあるイベントで講演した際に、地域の方から「川崎出身者ではない人間から川崎のことを聞きたくない」と辛らつな意見をもらったことがありました。川崎市は、人口150万にもなる揺らぎのない大都市で、今でこそ川崎市民が増えてきていますが、元々大正から昭和にかけて成立してきた、工場を中心とした新興地域です。昭和27年に制作された「川崎市政28周年」の映像を見ると、その辺りがよくわかります。つまりは、大空襲の後の戦後の復興に合わせて、地方から集まって来た人たちによる、いわば新しい町なのですが、そこでさえそういう「地元意識」(ここでは余りいい意味で使っていません)が存在するということを考えると、若い人たちにとって、地方は生き難い側面もあるのだろうということは容易に想像がつきます。

川崎市政ニュース映画 川崎市政28周年

今の過疎自治体にとっての大きな関心事項は、持続可能性です。そのため移住者を集めるために、様々な子育て支援などの政策を打ち出しています。仕事の機会を作るために、サテライトの誘致など産業政策も様々です。

ただ地元で生まれ育った若い人の何人かが抱いてしまう「生き難さ」、おそらくそれが「地元意識」に集約されるのでしょうが、そこを直視しないければならないというのも間違いないでしょう。「田舎」という言葉にしみついてしまっている(悪い意味での)「地元意識」的なものが、都市部の田舎に関心が無い人間にとっての、大きなバリアのようなものを感じました。

学生さんがサークル活動を通して、学び以外の形で地方、地域と関わることで、地方での暮らしに対してより明確に分かって来ることも多々あると思います。学生さんですから、学びを通して地方を理解していくという手段はありますが、それこそ「若い人ならでは」の地方との接点の持ち方もあるということがわかりました。

4. アフターコロナの大学について

本シリーズは、コロナ環境で一般化したオンラインを活用して、普段簡単に話が聞けないような人たちと対話をしてみるという方針で開始したものです。大学教員だった際、2021年度にPBL形式で現代課題を取り上げる授業を隔年で担当していました。当時の自分の主要な関心事項だった、地方に関する課題を4回ほど取り上げました。最後の年度は、言うまでもないコロナ環境の下で、すべてオンラインで授業を行うことになりました。あえてオンラインではないとできないことをやってみようということを思い立ち、研究室で毎夏にフィールドワークを行っていた四国徳島県の美波町を題材に、完全オンラインで授業を展開してみました。

予想以上に得るものが多く、何より絶対に授業のゲストでお呼びできないような方々、例えば地元で長年漁業関係のお仕事に携わっている方などにも、オンラインでお話を伺うことができたのは大きな収穫でした。町長にもご登壇頂いたのですが、例えば町長のような公職の方は、調整などは相当大変そうですが、頑張れば授業のゲストにお呼びすることは出来そうです。しかし、地元で50年も漁師をされていた方を、時間を交通費をかけて授業1コマのためにお呼びすることは、まず不可能でしょう。それが、オンラインで容易にできるので、それを利用しない手は無いと思っています。

今回インタビューさせていただいた徳間さんは、大学の3回生ですが、すでに高校の卒業式はマスクをしており、1年の頃は年に数回しか通学した記憶がないなど、いわばオンラインネイティブと言える世代です。確かにZoomの使い方やコミュニケーションも巧みでした。
大体の方は、コロナ環境下の大学生を「不幸」とか「大学生活を楽しめなかった」ような言い方をします。でも本当にそうなのか、正直言えばずっと疑問に思っていました。社会的に言えば、明らかに、対面とオンラインを使い分けるのが当たり前になりましたね。簡単なミーティングはすべてオンラインですし、移動する時間と労力、ストレスが完全に無くなったのは大きいと思います。大学生活を奪われたとかいうツィートも散見できますが、それで救われた人も結構いるのではないでしょうか。

多額の設備費を掛けて人を集めて教育事業を行うという、設備産業としての大学は、もう終わったと考えています。情報伝達は、オンラインで十分できるので、授業の多くがそれで成立するはずです。経験的なもの、実証的なもの、そういう学びだけ対面になれば、十分高等教育機関足りえるのではと思います。2022年になって、さすがに自粛疲れのせいか、大学も対面に戻そうとしています。「大学は出会いの場」など能天気な言明をした学長もいますが、大学だけでしか出会いが無いわけではありません。
この数年の大きな社会変化に対して、何もなかったように元の大学の姿に戻そうとするのは無理でしょう。受験生の減少は、マーケティングでなんとかできる問題じゃないということを知るべきです。

広島県で学ばれている愛媛県出身の若い学生さんと、都内在住の元教員が、大きな労力も負担もなく、フラットに対話できるということの素晴らしさは、2018年までは想像も付きませんでした。
県立広島大学「江田島応援プロジェクトYELL」 徳間陽奈さんに深くお礼申し上げます。

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