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実践レポ3 「台所の多彩な世界」 後編

皆さんこんにちは。ムーヴメントやダンスの教育・研究に携わっている橋本有子です。今回は、実践レポ3「台所の多彩な世界」前編の続きです。

最近、国際学会(in 台湾)「ダンスと文化人類学ーダンス、アイコン、シンボル:多文化的な身体化、解釈、そして適用」のゲストスピーカーに呼んでいただきました。

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「開会式!」

実践レポ3「台所の多彩な世界」前編では、台所から始まったプレゼンの冒頭で、ラーメンにのせる野菜を冷蔵庫から取り出す動きを例に、台所で 1)いかに多彩になれるのか(多様に動けるのか)についてお話しました。

そして後編の本編は、野菜を切ったり洗ったりする動きを例に、2) いかに台所が多彩なのか(多様な動きをしているのか)についてお話します。

異なる食材が、異なる動きを求める

具材が揃ったら、いよいよ野菜のカットです。まずは、人参の皮むきをしてみます。皮をむいている右手の動きを、Laban Bartenieff Movement Studies/System (LBMS) のEffort/Dynamicsのコンセプトでみてみると、注意深く流れをコントロールしながら(Bound Flow)斜め下に向かって(Direct Space)加速(Quick Time)しています。

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「人参の皮むきは意外と力、要らないなあ・・」

その後、輪切りにします。ここでは皮むきの時より少し力が要りました(Strong (er) Weight)。そして皮むきと同様に注意深く流れをコントロールしながら(Bound Flow)真下に向かいます(Direct Space)。

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「人参の輪切りで、皮むきとは違う力が必要なことに気づく」

えのきは、だいぶ違いました。力の加減はもちろん、左側がバサっと広がってしまうので、左手の使い方も変わっていることに気がつきました。手と包丁の使い方が変わると、それをサポートする他の身体部位(上半身・下半身すべて)の感覚が変わります。

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「えのきと人参を切るときの身体感覚の違いを実感」

これは、ラバン/バーテニエフの4つのテーマのうちの一つ、Mobility/Stabilityの関係で考えることができます。「テーマ」は、2つの極になる概念を持っていて、その間を行き来したり、バランスを取ったりします。ラバンはこのような「テーマ」を人のムーヴメントの中に見出しました。今回のえのきに関しては、包丁を持った手のムーヴメント/感覚(Mobility)が変化したので、それをサポート(Stability)する、他の身体部位の感覚も変化したわけです。

One Changes Whole(一つ変われば全て変わる:私の師匠であるビルの言葉ですが、バーテニエフの考えを引き継いでいます)」という考え方とも共鳴しますね。

さて、水菜を洗って絞るときは、手と肩甲骨のつながりを意識します。台所では手先を使うことが多いですが、手(Distal:遠位)が、中心に近い関節(Proximal:近位)と繋がっている感覚をもつことで、身体の疲れ方が変わってきます。さらに言えば、水菜を持つ手から肩甲骨、肋骨、背骨、そして骨盤、足までつながりを感じられたら、床からのサポートを受けられますので、どっしりした下半身にサポートされる上半身、といった感覚が得られます。特に、重い鍋などを持つ時には全然違います。

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「水菜を洗いながら、手と肩甲骨のつながりを感じる」

こんなふうに、台所に立つと1畳ほどしかない空間でも、動きの世界は多彩であることに気がつきます。異なる食材が、私たちの身体に異なる動きを求めます。私たちはその都度、そのタスクに見合った動きを瞬時に選択しているのです。色とりどりの食材がある、いろいろな匂いがする、というのと同様に、動きも色とりどりです。

日常の動きの豊かな世界

「台所でどう動いているか」に注目したきっかけは、CMA*を取得するために滞在していた、ブルックリン・ニューヨークにて毎日つくっていた、バナナ スムージーが出来上がるまでの一連の動きを分析したことです。毎朝のルーティーンでしたが、こんなにも複雑なことをやっていたのだと、感動したのを覚えています。
*Certified  Movement Analyst:ラバン/バーテニエフの専門家

CMAを取得するために2年間通った(1年目は生徒、2年目はアシスタント)Laban/Bartenieff Institute of Movement Studies (LIMS)での学びは、ダンスの世界でムーヴメントと向き合っていた私に、その土台である「日常の動き」の豊かな世界に気づかせてくれるものでした。

違った身体感覚を得たいから、違った動きをしたいから、いろいろな食材を使いたくなるいろいろな食材を使って料理することは、栄養面でのメリットだけでなく、異なる動きを求められる「身体」へのメリットも大きいわけです。色とりどりに動くようにデザインされている身体を、そのデザインされたとおりに使う、ということに近くわけですから。多彩な世界を観て、多彩に動く。だから私は、台所の時間が好きです。とくに、昨年コロナが始まってから台所に立つ時間が増え、発見が増えました。

シメは、ラーメン!

プレゼンの最後は、作ったラーメンの絵とともに、Take Home Message!  ”Let's embrace YOUR Colorful World!” ということで、台所、スタジオ、授業、どんな場でも、そこにある多彩な世界を抱きしめてみましょう。とお伝えしました。世界が多彩に見えるかどうかは、自分がどんな「目」を持っているか。そしてこの「目」は鍛えられるのですよね。実は「動き」を観る目をもつということは、様々な世界を観る「目」を養うことにもなります。

関連記事:動きを描くってどうやるの?はこちらから

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「会場で流れたプレゼンの最後のページ 」

こちらは完成したラーメン。トッピングにあるチャーシューは、チャーハンや野菜炒めの具材にも、何でも使える通称「すっぱいお肉」。週一で塊のお肉を調理して、常時冷蔵庫の中に保存してある、祖母から引継いだレシピです。とってもオススメ!

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「完成したラーメン」

まとめ

異なる食材が、異なる動きを求める。人はタスクに合わせた動きを選択し続けている。人参、えのき、水菜・・食材の違いに合わせて、こちらの動きが変わる。色々な身体感覚を得るために、色とりどりの食材を選ぼう。

「日常の動き」のひとつである「台所での動き」は、色彩豊かである。どんな動きがあるかを観たり、どんな動きができるか探求してみよう。

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