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環境問題についてコメントしたいなら知っておいたほうがいい化学反応

 どうも、環境の話のほうが書いていて楽しいことがわかってきた、いづつです。

 一見すると環境問題に良さそうな取り組みに見えても、慎重になってほしいという内容を先日書きました。実は書きながら少々専門的な内容になる本稿も書いてまとめておいたほうがいいだろうと思ったので、併せて読んでください。

 理科が苦手な人でも、本当に環境問題に関心があってニュース記事にコメントしたいなら最低限知っておいたほうがいい化学反応がいくつかあります。読む時の姿勢が変わるはず。

■水素生成

(A) C + 2 H2O → CO2 + 2 H2
(B) CH4 + 2 H2O → CO2 + 4 H2
(C) C12H26 + 24 H2O → 12 CO2 + 37 H2

 水素を作るときの反応式、3例です。水素は後述のアンモニア合成や石油精製の多くのプロセスで使うので日常的に大量に生産・消費されている中間材料です。近年少しずつ増えている、家庭用燃料電池や自動車用水素ステーションなどもオンサイト、オフサイト問わず同じ原理で水素を生成しています。

 (A)が石炭(炭素)、(B)が都市ガス(メタン)、(C)が灯油(代表成分としてドデカン)をそれぞれ水蒸気と反応させて作る場合です。そう、水素は化石燃料成分から作られるので、必ずCO2が出ます。燃料電池は発電時にCO2を出しませんが、その前にCO2を出し切っているという残念な事実。これが太陽光発電からの電気分解で作った水素ならまだ「クリーンだ」という主張もわかるのですが、電力を1回水素に変換してからまた電力に戻すって無駄だらけなんですよね。

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 都市ガスや灯油からの水素生成自体はトータルで吸熱反応のためエネルギーロスが小さいのがまだ救いです。しかし燃料電池は稼働時に発熱するので、その熱を暖房に使えない日本の夏では台無しです。

■アンモニア合成

(D) 3 H2 + N2 → 2 NH3

 前記の水素と空気中の窒素を使って、アンモニアを作ります。理科室で嗅いだことのあるあの臭いアンモニアですが、現代のヒトが生きていくのに必須な化合物です。

 何に使うかというと、合成肥料。いまの総人口77億人の食料を今のペースで作れているのはこの化学反応が開発されたおかげ。当時は「石炭と空気からパンを作った」と言われ、誰もが認める人類史上に残る偉業であり、1918年のノーベル化学賞です。ハーバー氏に感謝を。私が普段の記事で「ヒトは石油を飲んでいる」と書いているのはこういう理由です。

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 いろいろな試算例があるようですが、ざっくり現代の食糧の半分くらいは合成肥料のおかげだそうです。

■プラスチックの燃焼

(E) (C2H4)n + 3n O2 → 2n CO2 + 2n H2O
(F) (C8H8)n + 10n O2 → 8n CO2 + 4n H2O
(G) (C10H8O4)n + 10n O2 → 10n CO2 + 4n H2O

 (E)はポリエチレン、(F)はポリスチレン、(G)はポリエチレンテレフタレートの燃焼です。

 ポリエチレンの袋を「ビニール袋」と呼ぶことが多くありますが、よろしくない。化学の分野でビニル(vinyl)というのは多くの場合塩素を含有するある分子構造のことです。塩素を含まないプラスチックは燃やしても二酸化炭素と水になるだけなので、とてもクリーンです。ただし、ご家庭の庭やキャンプ場などで燃やすのはやめておきましょう。カップ麺のカップ(ポリスチレン)を燃やしたことがある人はその臭さを知っているかもしれませんが、そこらの焚き火程度では温度が低くて燃え残りが生じて気化するので、かえって有毒。高温の焼却炉で完全に燃やしきってください。

 ポリエチレンテレフタレートとは、すなわちPETボトルです。同じく燃やしてもクリーン。食品トレー(ポリスチレン)とボトル(PET)を分別して捨てさせる日本の行政はどうかしていると思います。どうせ最終的には「サーマルリサイクル」という名目でまとめて燃やされるのですから。

 「サーマルリサイクル」をご存じない人はまだいいのですが、ワードだけ知っている人は誤解しているケースが多いので指摘しておきます。これは、ものが燃えた時に得られた熱を他のプロセスで利用することを言います。しかしこの排熱を無駄なく利用しようという考え方そのものは、昔から当たり前のように焼却炉、発電所、工場などで取り入れているので、このワードが登場したからと言って産業の中で何かが変わったわけではなく、新しい集計方法が誕生しただけ。ペットボトルは普及当時から普通に焼却していたのですが、「リサイクルされたことにしたい」という環境省の意向でサーマルリサイクルというワードを作って、リサイクル率という数字を弾き出すために量を測りたいから分別させているだけのことです。こういう理屈なので、埋め立てず焼却すればするほどリサイクルしたことになります。前記事からの繰り返しですが「リサイクル」というワードはこういうインチキが多いので疑ってかかりましょう。このプロセスをRecycleと名付けているのは日本くらいで、例えば英語では"Energy recovery"(エネルギー回収)とか"Heat exchange"(熱交換)などと言います。

 ちなみにプラスチックを燃やして悪いわけではないです。むしろ良いです。なぜなら、プラスチックが燃えた時の熱がないと、焼却炉内の温度を高く維持できず、そうなると燃料を投じなければいけないという本末転倒なことになるからです。生ごみは水分が多いので、分別されたままだと燃えにくのです。

■以上、ちょっとした化学の授業でした

 3種類の反応、化学式までは覚えなくていいけど、ぜひ概念だけでも理解してください

■余談1, 勘違いエコライフ

 朝の私の通勤ルートでなかなかの豪邸の前を通るのですが、ドライバー付きの車のお迎えが停車してご主人を待っているのをよく見かけます。その車両は水素自動車のMIRAIなのですが、最近寒いのでアイドリングしながら車内を温めていらっしゃる。水素の無駄遣いイコール天然ガスの無駄遣いなわけで、ドライバーさんの給料も石油から作られたパンになるわけで、「何このお粗末なエコライフ」と思って横目にしながら通過しています。本当にエコなドライブをお望みなら、10万円くらいで買えるボロい中古軽自動車に乗りましょう。

■余談2, ビニールとは

 本当にビニールなのは「塩化ビニル」、略称「塩ビ」と呼ばれるもので、頑丈で腐食しづらく、特殊な薬品やガスが使われる実験室や工場で用いられます。家庭で見かける例だとちょっと値段が高めのラップが「ポリ塩化ビニリデン」で出来ています。「ポリエチレン」より静電気が発生しやすく容器にぺったりついて密閉しやすいし、酸素を通しにくいため、食品が腐るのが遅いです。

 ラップの塩素はごみの総量に対してごくわずかで焼却炉がスクラバーで余裕で処理できるため、可燃ごみに捨てても大丈夫です。塩ビ製のホースとか壁材みたいな大きいものは、市区町村に確認。20-30年ほど前まではまだ焼却炉の能力が低く、ダイオキシン類という含塩素化合物が豊能町のごみ処理施設近辺から検出されたことをネタにメディアが大騒ぎしました。いや、最も大騒ぎしたのはその後に処理施設の建築場所を押し付けあうという泥沼の戦いを繰り広げた町民たちなのですけど。

(旭化成の商品紹介で説明されていました)


Yoshiyuki IZUTSU

http://linkedin.com/in/yizutsu



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