冬夜、叡山電車で。1
秋の夜にまばらな京都を列車で巡ってきた。この記事の最後に冬夜の叡山電車に乗りたいと記した。数日前にそれを現実にしてきた。
出町柳駅
京阪電車に乗ってやってきた出町柳駅。京阪の京都側のターミナルとして、叡山電車へのジャンクションとして栄える。
学生街の餃子屋さん
この近くには京都大学吉田キャンパスもあり、学生が闊歩する。「食事代タダの代わりに皿洗い」という独自サービスの餃子店(旧餃子の王将)と「出町のおっちゃん」と親しまれる店主もよく知られる。メディアで多数取り上げられ「学生の街・京都」を象徴させる一つだ。
かつては「餃子の王将」フランチャイズだったのが一時閉店。その後「いのうえの餃子」で独立し復活している。あの無料サービスも健在だ。タダじゃなくていいからいつか食べてみたい。
叡山電車
京阪の地下ホームから5分ぐらいで叡山電車の地上駅舎に到着。
右手に「鞍馬行き」左手には「八瀬比叡山口行き」が停車している。路線は大まかにこの2方向に分かれている。今から乗るのは左手だ。
イルミネーション
「八瀬比叡山口行き」のホームだけはド派手なイルミネーション装飾。行き先の駅にもイルミネーションはあるが、とんでもないことになっている。
ひえい
その奥に止まっていたのは観光列車「ひえい」
700系「732号」を大改造。「楕円」のデザインを至るところに採用しているのがインパクトがある。くの字だった側面もどことなく楕円っぽく改造された。
「楕円」のコンセプトについて叡山電車公式サイトでは
洛中(京都中心部)から見て比叡山の方角は「鬼門」に当たる北東。長きにわたってあの場所にある延暦寺はやんごとなき、パワーを持っている。それを形にすると「ひえい」のようなことだろうか?
観光+日常
車内のレイアウトは全てロングシート。叡山電車は観光路線であると同時に通勤通学客も多い南側のエリアは住宅が多い京都市内や大阪のベッドタウン、大学が沿線各駅に点在する。この背景からすると使い勝手の良さも光る。
ローレル賞とプラレール
2019年には「鉄道友の会ローレル賞」を受賞、プラレールにもなって、全国発売もされている。このデザインは大人も子どもも目を惹く。
古い運転台
一方で運転台やモーターなどは旧式のまま。部品の一部は半世紀以上前に新造されたものを今でも使っている。新世代の観光列車に隠れがちなベテランの風格が見える。
チームおけいはん
ドア付近上部には「KEIHAN」と「Eizan Railway」の文字。叡山電車は京阪ホールディングスの一員。このロゴは共通で業種問わずいろんなところで見られる。
「ゼロホーム」を手がける住宅メーカー「ゼロコーポレーション」もその一つ。ロゴマークは会社名が差し代わっている以外叡山電車と同じだ。
茶山・京都芸術大学
茶山・京都芸術大学駅。単に「茶山」だったのを2023年度から改名した。
駅から7分の距離に「京都芸術大学(旧京都造形芸術大学)」があることが由来。
名称がよく似ている「京都市立芸術大学」と裁判で争ったが和解している。ただ略称は所在地や法人名から取った「瓜芸(瓜生山の芸大)」と呼ばれ、「京芸」「京都芸大」は“市立”を指す。名前が変わったばかりで、略称もややこしい。
宝ヶ池
宝ヶ池駅で下車。この駅で八瀬方面、鞍馬方面が分かれていく。今度はここから鞍馬方面へ乗り換える。
青もみじきらら
次に乗るのは900形「きらら」。「ひえい」とツートップの観光列車で窓の大きさが特徴的だ。
「ひえい」デビュー以前から看板電車で、1998年度「ローレル賞」も贈られた。
名前はあの坂
名前の由来は「雲母坂」。Apple製品の予測変換の辞書を見ると一番最初に登録されているワードになっていて、見たことある人は多いのではなかろうか。なぜ「雲母坂」かは分からないが。
眺望にこだわる
車内の座席はいびつな配置。進行左側は1列、右側は4人席2つと窓向きの座席6席が並ぶ。紅葉を始めとする車窓を堪能できるようになっている。連結部も窓がワイドになっている。
2両とも座席は運転台を向くように固定。進行後部車両は常に逆向きになる。
「きらら」は「メイプルオレンジ」と「青もみじ」の2種類。
かつては「メイプルレッド」もいたが、新緑シーズンの集客を目的に「レッド」の塗装を変更、2020年から「青もみじ」になった。当初は1年限定だったが、今でもこのままだ。
学生街のローカル線
京都精華大前、二軒茶屋と大学最寄り駅に停まっていく。前者は名前の通り、二軒茶屋は「京都産業大学」の最寄りだ。かつては二軒茶屋折り返しが昼間でも多かったほどで、2車線で整備されているのもこの駅以南。学生街のローカル線の1番の支えなのかもしれない。
市原駅
乗った列車は市原止まり。ここで降りて鞍馬行きを待つ。
駅周辺はベッドタウン。この駅までは折り返し電車もある。
駅にはこんなアート。近くにある織物工場が製作した「きらら」の写真織が飾られている。触ってみると確かに織物。実家のクッションにもよく似てる。
鞍馬行き
12分待つと鞍馬行きがやってきた。車内は僕含め3人。市原からは特に山の中を走ることになる。
二ノ瀬駅のポスターには「クマ出没」の文字。電車に乗ってたうち1人はクマ鈴をぶら下げていた。
僕の故郷滋賀県長浜でも「帰りの会」でクマやサルの注意喚起は行われているし、小学校のカバンにクマ鈴を付けて登下校もしていた。ただ、いざ出会ったら固まるか思わず背中向けるかもしれない。命は落としたくないが…
傾斜もキツくなる。山岳鉄道で結成された「全国登山鉄道パーミル(‰)会」のメンバーにも連ねるほど。
鞍馬駅
鞍馬駅に着いた。木造駅舎でかなり広々。モバイルバッテリーのレンタルボックスもある。
大天狗
駅前にはシンボルの「天狗像」。目の前で見るとかなりのインパクトだ。
今の天狗像は2019年に作られたもの。以前は発泡スチロール製だったが、雪の重みで鼻が折れたことがあってか強化プラスチックに変更。強面の顔も優しさを加えたデザインに一新された。
鞍馬駅から麓に戻っていく。
阪神チックな叡山電車
800形電車を観察するとどことなく阪神チックだ。
車両は武庫川車両工業製。阪神電車の修繕をメインに叡山電車や嵐電、えちぜん鉄道(旧京福電鉄福井鉄道部)の電車を受注生産していた。
3社はいずれも「京福電鉄」の離れ小島の路線だった過去があり、歴史が垣間見える。現在は「嵐電」のみが純粋な京福電鉄だ。
「武庫川車両工業」は2000年代に解散。修繕業務のみ「阪神車両メンテナンス」が引き継いでいる。
車両番号は阪神のものによく似ている。武庫川車両の特徴でもある。他の2社にいる電車も同様。字体好きにとっては見どころだし、今は無き会社のプレートも貴重だ。
車両ごとに色も異なる。乗った「緑」の他、「ピンク」「黄緑」「紫」特別仕様の「こもれび」がいる。
夜ではあるが、ライトの照らす先の線路はうねっているのが分かる。電気ブレーキを駆使して、山を下っていく。
夜の叡山電車で音楽。夜の普通列車ようにたくさん曲を入れてはいるがなかなか聴く機会が少ない。
宝ヶ池で再び下車。今度は「八瀬比叡山口」へ向かう。
つづく
ストリートミュージシャンの投げ銭のような感覚でお気軽にどうぞ。