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徒歩旅と雪国は辛いよ

沖縄に住む18歳が約2800㎞を徒歩で沖縄から北海道の最北端稚内まで歩くということが話題になっている。
とは言っても、これは悪い意味が優勢。本人のものらしいインスタグラムの投稿によれば、本州は瀬戸内側を歩いたのち近畿地方から日本海側を歩いて北海道に到達するというもの。この到達する頃がいわゆる「大寒」の時期で「北海道や日本海側の寒さや大雪を舐めてる!」などと批判されている。長距離を歩く上に、極寒の寒さに着の身着のまま的に殴り込むしかも、温暖な気候で育った人間なわけだから、「もうやめいぃや」と僕は思う

徒歩旅の大変さ

「スーパーボランティア」として名高い尾畠春夫さんや今年放送を終了した関西の情報番組「ちちんぷいぷい」の企画「昔の人は偉かった」など徒歩チャレンジや徒歩紀行の有名どころみたいなのはいくつかあっていずれも過酷な試練もある。ただ、前者はボランティアで培った技が生きているし、後者は毎日放送河田直也アナウンサーと「くっすん」こと楠雄二朗さん、他スタッフのチームで企画から安全面などを考慮しつつ、結果いいものが作り上げられて10年も関西で愛されてきた格好だ。

一方で徒歩で2800㎞に挑む彼がどこまで下調べしているかは分からないが、府県境は峠であることがほとんどで彼1人であるからメンタル面もかなり来るかも。尾畠さんも基本1人だったものの、経験値が違うからそれなりになんとかなっている。僕自身も逢坂おうさか山(京都と滋賀の府県境)の峠を2時間かけて踏破したが、翌日筋肉痛で靴底も剥がれた。これの何倍もの距離だからいくら体力自慢でも堪えそうに思う。

雪は手に負えない

近畿から先は日本海側を進むルートを取るそうだ。予定では12月に東北地方に突入する予定で、例年であれば雪のピークに差し掛かる手前ぐらい。彼は沖縄県民で雪の経験値が極端に低いと思われ、ここもかなりの苦難、それどころか命も省みないことをするそう。雪はテンションが上がる反面で、在住者や経験者にとってみればこれほど厄介なものはない。
道路や線路によっては水や熱で溶かせるものを装備し、自治体や鉄道、高速道路会社による除雪車の定期的な走行もされているが、極端な量となると追いつかないこともある。僕の故郷滋賀県長浜市の余呉高原というスキー場から福井県へ向かう国道や伊吹山(滋賀と岐阜の県境)のドライブウェイは冬の間通行止めとなるし、富山県の黒部峡谷鉄道や「立山黒部アルペンルート※」も11月から4月末頃まで「冬眠」の如く運休する。それぐらい雪はキツくて人間では手に負えないぐらい容赦が無い降り方をしかねないし、住んでいても音を上げたくなる。
そんな雪国に沖縄生まれでほぼ未経験の人が挑むとなると諦める、あるいは足踏みするのが命のためにはいい選択なのかも。

※長野県大町市から黒部ダムを経て立山、富山方面へ抜ける観光ルート。電気バス、高原バス、ケーブルカー、トロリーバスなどが一体化していて、雪の壁や山々など色とりどりの景色も楽しめる。

北海道の厳しさ

そして、一番の問題が北海道の徒歩だ。仮に予定通りであれば、1月頃に到達する。その頃といえば最低気温−10℃以下が当たり前で、昼間でも0℃に届かない。コメントやツイートでも、「死ぬぞ!」などと彼に常人レベルではないことをしようとしていることを伝えようとしている。
僕が北海道に行ったときは10月だったが、肌感覚は本州で言う晩秋から初冬。これが冬本番となると故郷とは比でなく厳しいことは容易に想像できるし、−10℃を下回る環境なんて雪国で育った僕でも、適応するのに時間がかかると思う。そもそも本州では一切経験出来ないから。

北海道を走る列車は「エアーカーテン」という断熱の温風を吹かす装置をつけていたり、窓を二重にする、ライトを増やして「ホワイトアウト」対策など本州のものより厳重な寒さ対策を強化した車両が当たり前。しかし、極寒故かガタを起こしやすかったり、極端な大雪で止まることだってある。人間だけでなく鉄道にとっても厳しいのが北海道の冬だ。

彼の冒険心を否定はしない。でも、雪国経験者の話をもっと聞いてはどうなのか?それか「スモールステップ」でそれなりに長い距離で重ねた方がいいかと思う。勉強にしても体力にしてもいきなり大々的にやってしまったら、つまづいたときがキツい。両親も説得しているそうだが、聞き入れてくれなかったそうで、もう痛い目に遭わないと気づかないレベルの決心を固めて旅立っている。

知識のある大人ほど止めてくる

と彼は言うが、それは知識や経験、大切な人を失うかもしれないことが容易に想像できるからなのだと僕は思っている。恐らくどこかで挫折するだろうとは思う。ただ、どこかで良い判断をして、最悪の事態を避けてほしいと思う。

追記(2021/10/28)
彼は徒歩旅を断念することを発信していたSNS上で発表した。スタートからすぐの断念には驚きもあるが、むしろこの時点で諦めたことは良い決断だったと思う。止めてきた大人をつまらないと批判する声もあるが、上記の通り、大切な人を失いかねない旅であることが容易に想像できるからあれだけ止めにかかるのだ。もうこれ以上を求めることはないし、無謀でないレベルの良い刺激で自分を成長させてほしいと思う。

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