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【中川功一】アカデミアと社会を、ふたたび繋ぐために

「本当はインディージョーンズや『となりのトトロ』に出てくるお父さんに憧れて考古学の研究者になりたかったんだよね〜」と話しつつ、いまYouTubeで積極的に経営学の知識を発信している中川功一先生。実社会に対して、大学は何ができるのか。経営学のみならず「アカデミアが、社会で果たすべき役割」についてお話を聞きました。

中川先生:本当は今頃アフリカの奥地にいるはずだったが動線を変えて大阪で経営学をやっています、中川です。

双方向的なメディアを使っていく

ーー研究者がYouTubeで発信しているって新しいですよね。どういった考えでYouTube活動をはじめたのか、背景を伺いたいです。

中川先生:日本の大学の研究者で、YouTubeにコンスタントに動画を上げていくのはまだ誰もやっていないですね。先行者なので、上手くいっても失敗しても何かは残るだろうと考えています。


メディアがどんどん変わろうとしていますが、昔から学術の発信手段は論文を書くか、社会に歩み寄ったとしても書籍にする、もう少し歩み寄っても新書にすることでした。

それでも今日において、新書を手に取るのはすごく見識の高い方だけになっています。見識の高い人が新書を取る時代なんですよね。みんな新書すら読まない。まして学術書や論文なんて読む時代ではない。

そういう時代を「社会側のリテラシーの低下」とするのはアカデミアの大きな勘違いです。

本来的にアカデミアは、とくに社会科学でいえば、社会の構造を解明し、よき社会のありようを模索し、それを構築することを使命としています。知を探求するだけでなく、その知を社会に提供するところまでが、アカデミアの役割ではないでしょうか。

ひとつのアプローチはマスメディアに出ていくことですが、自分の強み・弱みを考えたとき、自分に向いているのはYouTubeに積極的に出て発信することであると思いました。人々がテレビすらも見なくなりつつある時代において、いま使われているメディアに私たちが出ていくのは非常に大切です。

YouTubeにおいては、ファクトチェックもなければ真実かもわからないようなことが発信されているわけですが「あの芸人が言っていることは間違っている」と、単に糾弾するだけでは、学者のアクションとしては不十分だと考えています。

正しい知が普及しないと嘆いたり、間違っていると指南するのではなく、そうした社会状況が問題であるならば、私たちが発信すべきではないでしょうか。お高く止まって合格者だけに高説を垂れ流したり、意識の高い人だけが本を取って読むのではなく、私たちがオープンな場に出てYouTubeのようなフィールドで、なるべく学術的に妥当であることを喋っていくのが大事だと思います。

いつの時代も、そこで起こっている問題を解決するための手段として、各種の理論が発展してきました。経営学に限らず、ジェンダーの議論も、人権も、感染病対策も、あらゆる学問は、まず社会のほうに問題意識があり、それを解決するために発展します。本来的に社会のためにあってこそのアカデミアなのに、まるで社会から乖離したもののように存在しているのが問題です。

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それに私はメディア受けするタイプでもなく、どちらかというと大学の講義室でパフォーマンスが出るキャラクターです。ならばその雰囲気を持ち込むようにして、YouTubeで動画を出そうと。講義室ではインタラクティブ(双方向)形式で、私が問いを振ってみんなに回答してもらいますが、やはりそこは非常に知的で生産的な良い場です。

本来的にYouTubeはインタラクティブ・メディアなはずなので、オンラインサロンまではやらなくても、みんなが何を疑問に思っているのか、どういうことが知りたいのか肌感で感じ取れるメディアを再現したいですね。


ーー学生や周囲の反応はどうですか?
中川先生:話題に事欠かないのがYouTubeをやってよかったと思う理由ですよね(笑)
学生がそれこそインタラクティブに「こういう風に撮ったらいいですよ」「こうしたらいいですよ」「こんなネタやってください」など、どんどん意見をくれるのはありがたいです。


それに自分のやっていることが次の世代に残るし、自分の子どもが見ても父親の仕事がわかるのがうれしいですね。

理想の研究者像

ーーそれでも軸足はあくまでもアカデミアであり、専門家の立場からYouTube発信をされているわけですが、研究者としてどうあるのが理想でしょうか?

中川先生:大学の先生の生き方は、経営学の分野でいうと5つあります。

1. 研究者として大成する(研究)
2. 学生の教育に人生を捧げる(教育)
3. 文化人、メディアの人になる(社会発信)
4. コンサルティング・研修・社外取締役など(実務)
5. 大学組織の運営(組織経営)

本当は手を取り合ってひとつのユニバーシティであるべきはずですが、それぞれがそれぞれに対する偏見があるんですよね。たとえば、メディアに出る人は「そういう人なんだ」と白い目で見られるところがあります。

大学経営にいそしむ人は、権力に尻尾を振っているとみられたり、研究で名を成すひとは、研究だけで他のことをやらずにいてズルい、とか…...。

逆に、研究成果のすぐれた人が、他の人に「こんな研究はできないだろう」とマウントしたり、メディアや研修などで社会に影響力ある人が、そうでない人を見下したりもします。でも実態は、それぞれの人が役割を果たしているから他の人の仕事が成り立っていて、全体としてひとつの大学、アカデミアです。

ちなみに、阪大経済はそうした対立なく、違いの立場をリスペクトしている、とても良い研究科です!

そんな中で、自分は研究・教育もしっかり回しつつ、大学だけに留まらずに可能な限り社会発信し、キャッシュフローとして企業案件もこなすことで、新しいロールモデルになるつもりで頑張っています。

しっかり軸足をアカデミアに置いて、ファクト、エビデンス、セオリーの裏付けを持ちつつ、おこがましい言い方だけど「トップ研究者が積極的に情報発信をしていく」立ち位置を目指しています。

社会を変えるテクノロジー

ーーYouTubeでは専門に限らず多くのタイムリーな話題も発信されていますが、最近とくに注目している技術、業界などはありますか?

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中川先生:言い古されているけど、AI(機械学習)は大きいと思います。アカデミアにおいても研究のあり方が根本的に変わり得る可能性があるし、予測力の高さは強いです。
私が直近で一番評価された論文は「機械学習を用いてクラウドファンディングの成功失敗を予測する」という研究なんですよ。

機械学習のみならず、Pythonでスクレイピングをしてひとまとめにできるのも強みです。クラウドファンディングのサイトのデータを1年ほど溜めて、そこに書いてある文章や写真から成功・失敗確率を予測する研究を行ったところ、成功要因として以下が導き出せました。

1. プレゼンターが女性である
2. NPO法人である
3. 文章が何かのペイン(痛み)を表現している。書かれた内容が社会的弱者をターゲットにしている
健常者向け < 社会的弱者向け
喜びを増やす < 痛みを減らす


例を挙げると「震災孤児のための音楽教室をやります」「難病の人たちのマッチングサービスを作ります」などが、自然言語処理のトピックモデルを用いて成功確率が高いと判定が出ます。

もし蒲生さんがクラウドファンディングの文章を書くなら、私の解析器にかければいくらくらい集まるかも弾け出せますよ。

ーーそのときはぜひ利用したいですね(!)

中川先生:私たち社会科学の研究者も、ファクトベースで分析するためには機械学習は非常にパワフルなツールであって、この研究手法のアップデートに取り組まない学者は、取り残されてしまうかもしれません。新しい研究手法をどんどん学んでいくことは、今日、私たちに必須です。

AIの推定は物によっては90%以上で、クラウドファンディングの成功失敗も正答率75%はいいきます。なにも使わなければ五分五分ですが、そこまで高められるということは、社会を変えられるはずです。

社会に開かれた学問へ

ーーアカデミアに対してこうあるべきだという思想のもと、研究者としてさまざまな分野、最新のテクノロジーにアンテナを張ってYouTube活動をされていることがわかりました。最後に、産業界の方になにか伝えておきたいことはありますか?

中川先生:大学に職を得て10数年間、学外で研修・コンサルを行なってつくづく感じたのは「大学は役に立たないことをやっている」というとても悲しい誤解に包まれていることです。

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大学にはそれなりに役立つ、蓄えられた知識があります。私たちも歩み寄ろうとするので、産業界のみなさまも距離のあるものと思わずに、会社のすぐそばにある知の集積機関として大学と少し距離の近いお付き合いをしてほしいですね。

私のゼミでは、

・徳島県三好市で地方創生に資するような新事業の開発
・水産資源の安定供給に向けた、養殖マグロの生産性の改善
・自動運転車を用いた社会課題解決の実証実験
・コワーキング・スペースでの、ハイパフォーマンスな働き方実態調査

などのテーマで、毎年5, 6件の企業との案件において、今の時代に必要な研究をしています。

阪大に限らず、どの大学も社会に開かれてこうした活動を積極的にやろうという流れにあるので、共同研究など、一緒に物事に取り組む機会を考えてもらえたらと思っています。

ありがとうございました。中川先生のYouTubeはこちらです。
https://www.youtube.com/channel/UCS89vRmX0PfWxmJWOjJq6ZA
この記事を読んだ方は、ぜひチャンネル登録してみてください。

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