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メタバースプラットフォームのMoat(堀)は何か?

こんにちは、Synamon COOの武井です!

久しぶりのnoteになってしまいましたが、情報発信の機運がSynamon社内で最近高まってまして、僕も便乗して発信をしていこうと思います笑

さて、今日のテーマは「Moat」についてです!
「Moat」は元々は都市・城壁の周囲に掘られた堀という意味で、そこから転じて中長期的に事業の収益性を守り続けてくれる競合優位性や企業の強みといった意味で使われています。

今回は、メタバースのプラットフォーム事業において、どのような「Moat」のパターンが考えられるのかを考察します。
採用面談をしていると「超大手企業が参入してきた場合、メタバースプラットフォーム事業において中長期的な勝ち筋はあるのか?」という質問をされることが多いので、自分なりの考えをまとめておきたいと思います。

つい最近、「千年投資の公理」という、投資家の目線で「Moat」について解説された本を読んで、分類がシンプルで分かりやすいなと感じたので、この本で書かれている4つの分類に沿って考察していきます。


※なお、「Moat」自体がなぜ重要かについては、スタートアップの事業戦略論の中で語られる場面も多いので詳細は割愛します。「Moat」自体の理解を深めたい方は下記noteがおすすめです。

1.無形資産

まず1つ目に紹介されているのは、無形資産です。
無形資産には、ブランドや特許・行政の認可などが含まれており、市場で独自の地位を確立できる機能があると紹介されています。

特許については、メタバースでは、例えば複数人の同時接続を可能にするネットワークの技術や、バーチャル空間内の特定のUXやUIなど、各社から特許出願されているものはあります。しかし、現時点で市場を独占・寡占できるほどの強い特許にはなっていないかなと思います。

また、行政の認可についても、プラットフォーム事業で見ると認可が必要な要素はほとんど無いため、Moatにはなり得ない印象です。一部、NFTを活用したクリプト系メタバース(DecentralandやThe Sandboxなど)では、自社内のサービスで活用する暗号資産の発行など認可が必要となる部分もありますが、今後法律が整備されてくれば認可を取るハードルはそれほど高くないはずなので、やはりMoatといえるほどではないのかなと思います。

最後に、ブランドについては、無形資産の中では、比較的可能性はあるかもしれないと考えています。ブランドの効果としては、競合よりも高い価格だとしても顧客が喜んでお金を払うといった側面があります。
テクノロジー系企業の代表例としてはAppleが有名で、僕も長くiPhoneユーザーを使っているAppleファンの1人といえる人間ですが、他のスマホと比べてコスパが良いからiPhoneを買うのではなく、Appleの世界観やiPhoneというプロダクトが好きだから買うという感覚が強いです。

通常、強いブランドは構築までに非常に長い年月がかかるのが特徴で、スタートアップとしては難易度が高いとされています。しかし、既存のネットサービス以上に没入感のある体験を提供することが出来るメタバースにおいては、利用者が感動するようなユーザー体験や、アバターでのインタラクティブな活動などを通じて、サービスへの共感愛着を比較的早期に醸成することが出来る可能性はあるかなと思います。

このメタバースの特性を活かして、初期はコアなファンといえるユーザーを少しずつ増やしながら、後述するネットワーク効果に繋げていくような戦い方はあり得るなという印象です。


2.乗り換えコスト

2つ目の乗り換えコストについては、スイッチングコストとも呼ばれ、例えば銀行口座のように、他に切り替えようと思うと手続きや金銭的なコスト面で負担が大きく、リプレイスが起きにくい状態を指します。

乗り換えコストはToC向けビジネスでも起きますが、ToB向けのビジネスの方がサービス切り替えた時に業務フローの変更や従業員の再訓練といった影響範囲が大きいため、効力を発揮しやすいです。
例えば、Slackのようなコミュニケーションサービスでは、過去のメッセージログがSlackにすでに溜まっており、また他のツールと組み合わせて業務フローに組み込まれてしまっていることが多いです。この状態だと、もし類似のビジネスメッセンジャーサービスがSlackよりも安い値段で提供されたとしても、別サービスに切り替えるコストが凄まじく高いために、結果的にSlackを使い続けるということになるというのは容易に想像できるでしょう。

さて、メタバースの事業においても、主にToB向けに発生する可能性が高いMoatになるかなと思います。現時点でのメタバースプラットフォーム事業は、ToCからの課金ではなく、ToBとのコラボ案件で発生する広告収益で成り立ってるサービスも多いため、ToBの広告案件をしっかり取れることが事業の収益性や継続性に与えるインパクトは思っているよりも大きいのです。

具体的に、ToB向けに発生する乗り換えコストとしては、例えばあるプラットフォームの中に自社のワールドをがっつり作り込んでしまった場合、別プラットフォームに移管するためのコストや手間を払いたくないと思う企業は多いはずです。
また、ショットのイベントではなく継続的に活用する常設の空間をメタバース空間に作った場合、先方の業務フローの中にも組み込まれていく形になるため、乗り換えコストはさらに上がる可能性があります。

※ちなみに、余談になりますが、個人的に相互運用性があるオープンメタバースの実現には時間がかかると思っている背景がまさにこの乗り換えコストに関する部分でして、プラットフォーム事業者としては乗り換えコストを高くした方が事業の収益性や継続性が上がるため、オープンメタバースに積極的に取り組むインセンティブが現状は少ないと思ってます。
この辺りはWeb2.0とWeb3の比較でも語られる部分かと思うので、Web3的な思想の相互運用性があるサービスじゃないと使わないというユーザーが多くなれば、事業者もユーザーに追随してオープンメタバースの流れにシフトしていくだろうと思います。


3.ネットワーク効果

3つ目はネットワーク効果です。ネットワーク効果とは、SNSやフリマアプリ、マッチングサービスなどのように、ユーザー数が増えれば、製品やサービスの価値が上がる効果です。

分かりやすい例として、例えばメルカリなどのCtoCのフリマサービスでは、出品者が増えるほど購入者としては買うものの選択肢が増えるため魅力的なサービスになり、逆に購買者が増えるほど出品者としても売れる可能性が高いため魅力的なサービスになるという相乗効果が働いています。

ネットワーク効果は、メタバースもダイレクトに影響がある「Moat」といえます。例えば、フォートナイトのようなゲーム系メタバースで考えても、ユーザーが多ければ多いほどプレイヤー同士のマッチングが起こりやすくなり、ゲームとしての面白さやサービスの価値が上がることになります。

また、VRChatやRobloxといったユーザークリエイトの要素が強いサービスでは、クリエイターが増えるほど体験できるワールド数が増えてサービスの価値自体が伸び、その結果ユーザー数も増えることでユーザー同士の交流が生まれて、それがさらにサービスの価値に還元されるという2重のネットワーク効果が発生しています。

この状態になって一定の規模まで成長したサービスを後からリプレイスするのは相当大変です。同様のループが既に定着しているYouTubeを見れば、今からYouTubeを追い抜くCGM型の動画メディアを生み出すことがどれだけ大変かはイメージできるかと思います。

ネットワーク効果の話をすると、結局スタートアップとして勝ち筋が無いかのように見えますが、メタバースの市場はまだかなりの黎明期なので、今から新興のスタートアップがスピード感を活かしてメタバース領域でネットワーク効果を急速に回すことで、勝者となる可能性も大いにあります

また王道プラットフォームで勝ち残るイバラの道以外にも、切り口を変えれば超大手とバッティングしない領域でも一定規模までは成長できる道はいくらでもあるというのが個人的見解です。切り口の変え方は、ターゲットやジャンルを特定のカテゴリーに絞ることでカテゴリーキング的な立場になるアプローチもあるでしょうし、ネットワーク効果以外の他3つの「Moat」を組み合わせることで勝ち筋を作るやり方なんかも考えられます。

このように、メタバースプラットフォームではまだネットワーク効果を大きく発揮した明確な勝者が決まっておらず、こうした市場環境では打てる戦略の幅も広いため、メタバースが非常にエキサイティングで面白い市場だなと感じる部分です。


4.コストの優位性

最後はコストの優位性についてです。コストの優位性は、安い製造過程、有利な場所、独自の資源といった要素の他、規模による優位性なども含まれます。

コストの優位性は、顧客の購入条件のうち価格が大きな部分を占めるようなコモディティ商材を扱う業界で特に重要視される要素と言われており、具体的には航空業界や天然ガスなどが書籍では紹介されています。
インターネット業界では、例えばAmazonは自社の倉庫や流通網といったリアルの設備に加えて、AWS等でも活用されているサーバーのインフラといった固定資産を物凄くたくさん持っている会社で、こうした規模の大きさが圧倒的なコスト面の優位性と競合に対する参入障壁に繋がっています。

現時点ではメタバース自体がまだコモディティ化されていないので、影響範囲は他の「Moat」よりは比較的小さい印象ですが、海外勢と比べた場合の日本勢のプラットフォームの優位性という観点では、いくつか参考になる要素はありそうです。

例えば独自の資源という観点では、日本はゲーム業界やアニメ業界が強く、3DCGを扱うクリエイターが豊富にいるという観点では、海外勢よりもコスト面でも有利な戦いが出来る可能性はあります。
※ただし、もはやリモートで世界中の会社で働ける現在では、「Moat」と呼べるほどの差異にはならないかなと思います。


まとめ

メタバースプラットフォーム事業の「Moat」は何かというテーマの今回の記事、いかがでしたでしょうか?

今回の記事は一般論としてどのような「Moat」の可能性があるかを書いたので、「じゃあSynamonは結局どう戦うの?」という点は、あえて何も触れないようにしてます笑
正直、まだ色んな仮説を考えている段階で、明確な解は持ってない状態なのですが、この記事を読んでこんな可能性があるんじゃないか?と思った方がいたら、ぜひディスカッションさせていただきたいです!

おしまい!


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