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日本のスタートアップ事情:世界での立ち位置と最大のチャレンジ、そして秘密兵器とは

投資を牽引しているのは誰なのか。「伝統主義」対「技術革新」の構図と、リスク回避型の日本におけるリスキーなビジネスとは。

根本的にスタートアップとは、まだ未活用で未開発のマーケットを革新したり創り上げるか、または停滞している業界に風穴を開けるサービスを提供することを目的として生まれている。

日本でもそれは同じである。スタートアップ業界では、日本以外の経済大国であるアメリカ、イギリス、ドイツ、フランスなどと共に脚光を浴びることも自然なことだ。

しかし、未だ伝統主義が根強く、従来型の企業体制が良しとされる日本において、このようなスタートアップ業界はどのような存在とみられているのだろうか?多くの企業でFAXが今も活躍中の国。そう、あのFAXである。そんなFAXの国で未来的なイデオロギーの繁栄に基づく文化はどのように生まれるのだろうか。

大枠のビジネスが決まった段階を指す「シード」のステージから、黒字経営が安定し始める「シリーズC」の段階までを含めて、まずは大まかに『スタートアップ』という言葉を理解することが重要であろう。話を簡潔にするためにも、この記事では初期段階である「シード投資」に焦点を当てることにする。これからスタートアップに参入して事業を始める企業にとって、『シード投資』とはオペレーションを開始するために充てられる初期投資金を意味し、この初期投資において外部からの資金が得られた場合、新参者として一般的に株と取引される。

あらゆる面で、日本のスタートアップのエコシステムも、アメリカのシリコンバレーやイギリスのスウィンドンからテムズにかかる地域のような、若くて革新的なテックのメッカと呼ばれる地域のエコシステムを反映している。しかしそれ以上に、経済学者サイモン・クズネッツが唱えた4つの経済的サブタイプに当てはまる。4つのサブタイプとは、「開発過剰・発展不足・アルゼンチン・日本」である。簡単に言うと、独特な歴史と軌跡で、他と比べようがない存在と言うことだ。

大経済圏、低リスク:日本がスタートアップ業界で投資する先   

日本は世界で3番目の経済大国として君臨する一方、相対的に、スタートアップ業界への投資額は43.2億USドルと控えめである。これは経済規模では世界6位のイギリスの2020年総投資額、150億USドルと比較しても控えめであることは明らかだ。
クランチベースが発表する2021年スタートアップエコシステムレポートでも、日本は2年連続、世界21位の座を維持している。アジア・パシフィック(APAC)地域で日本はまだ競争力がある国と言えるが、韓国などとの差は縮まり、インドにおいてはかなり差が広げられてしまっている。さらに、GDPや人口数においては大幅に規模の小さい台湾やニュージーランドのような国は順位を上げてきている。

投資の出所はどこで、投資家は日本のスタートアップ企業に対するアプローチをどのように見ているのか?

投資にはあらゆる種類と規模があり、 非公式のローンから(パパ・ママ、ありがとう!)、プライベートエクイティ(未公開株式)、そして潤沢な資金を持つ個人投資家によるエンジェル投資まで様々である。これらの投資に関する正確な統計はまず得ることが難しいが、カウフマン・ファンデーションが出している見積もりによると、アメリカではスタートアップの35%は一般的な銀行ローンから資金提供を受けており、30%は個人資産から、6%は家族や友人からの援助となっており、そしてエンジェル投資家からの投資を受けているのはわずか6%、ベンチャーファンディングからはさらに少ない4%となっている。

Credit: Kim Marcelo

一方、日本における投資元の42%はベンチャーキャピタルからで、30%は一般事業法人からである。この著者の意見によれば、これは「常識」からの逸脱であり、スタートアップ業界での革新や成長の促進と言う点で日本が大きな障壁に直面する一つの原因である。

多くの投資が制度的になるにつれて、投資の種類はより戦略的になり、投資先のターゲットとなるのは銀行、金融、AI、その他の現代テクノロジーのトレンドのような高成長が見込まれる特定の産業に重点を置いた業界に絞られている。その一方で、このような投資の傾向はいかに投資先として『適しているか』で判断がなされるため、投資先として最適なテクノロジーとして受け入れられるかに重点をおくことなりかねず、実験的なテクノロジーの誕生の芽を摘んでしまうかもしれない。

日本ではスタートアップ文化の発展が難しいという社会理論

スタートアップはリスクの高いビジネスだ。失敗に終わる確率は、世界的にみて90%近くと見積もられている。世界全体の傾向として、スタートアップに重要な企業としての要素は創業者の成功に賭ける情熱であるのに対し、日本で重視されるのはいかにリスクを回避できるかである。

日本では一般的に、リスクというのは「何か悪い結果を招く危なかしいもの」として捉えられている。 これは、諸外国では最終的な結果よりも潜在的な『エクスポージャー』に重点を置くものとする定義とはかけ離れている。

日本はリスク回避 においては世界トップの国である。これこそが投資に対する考え方の違いの所以なのかもしれない。例えば先に述べたように、他国では創業者が自分の資産を投入するにも関わらず、不本意な結果となる割合が多いと言うことだ。そして、創業者自身の資産を投資しているということが企業、創業者、ひいては従業員にさえも潜在的かつ重大な心理的障壁を生み出し、強調している。

では、従業員とは誰のことを指すのか?日本の労働人口統計は、どのようにスタートアップ企業が誕生し、事業が回っているのかという実態から考えると、おそらくとても複雑と言える。経済協力開発機構(OECD)によれば、日本は15〜64歳における雇用総数では世界4位に位置しているが、 これは日本の人口年齢分布を考えると正確な指標とは言い難い。日本の人口の内65歳未満にあたるのは全体の28%しかいないため、実際は統計よりも高い雇用水準であると言える。

Credit: Kim Marcelo

日本の低出産率に加え高齢化が、大学以上の学業を終えると卒業生の97.8%が正社員として就職するという実態を生んでいる一因かもしれない。

非常に限られた若い才能(数字上は)、さらに高いリスク回避思考、加えて数少ない投資を受けられる可能性といった条件は、日本におけるスタートアップの将来に明るい未来を描くとは到底言えない。しかし、、

大きなプレッシャーこそがダイヤモンドを輝かせる

もちろん、注意深いと言うことには長所もある。世界の統計がスタートアップ企業の長期的な成功を挑戦的なものと位置付けている一方で、Eurostatやイギリス国家統計局によれば、日本のスタートアップはアメリカ、ドイツ、フランス、イギリスと比べて約30%もの割合で最初の3年を持ち堪えている。 

以下がその3つの理論である。

  • 高い次元での創業者の自信

マーケットによっては大胆な動きが功を奏する場合もあるが、リスク回避のために計算立ててよく研究した、注意深いアプローチが企業のアイデンティティー、コアコンピテンシー、そして創業者のビジョンを強固なものにする。これら3つは激動のスタートアップ業界において、非常に大事な要素である。

  • 投資を超える優れた政府の支援

積極的に投資をした会社は、その投資に対する成功と寿命の既得権を得ることができる。多くの会社はスタートアップへの投資と取得を、将来的な成長のポテンシャルに対する青田買いだと捉えている。そのため、投資する側の会社は、企業間のビジネス展開の機会や政府からの支援、さらには業界内の大手とのネットワークを含めた、資金面だけでない継続的なサポートを提供する。

  • 異業種からの採用

日本の昔からある大企業の安定性や約束された人生に魅力を感じる人はまだまだ多いとは言え、その考え方も徐々に変わってきている。以前に比べ、自分の声をしっかりと聞いてくれ、マネジメントともフラットに付き合うことができる環境での就業機会を求める人が増えており、独立の可能性や早い昇給、さらには迅速な収益化が見込める選択肢も豊富になってきている。(上手く立ち回れば、と言う前提ではあるが。) 

外的要素、 潜在的な強い力

スタートアップが特殊であるのはこれだけに止まらず、 比較的多数の大変有能な外国人労働者に投資が可能であると言う点でもこれまでの日本の企業体制とは異なっている。現在状況は変わりつつあるとはいえ、ほとんどの日本企業では日本語ネイティブ、またはそうでなくとも、何年もの勉強をして漸く習得できるビジネスレベル(N1ないしN2)の日本語を話せる人しか就労機会がない。

一般的に多くの外国人にとって、 ハイレベルな日本語能力がない場合の日本移住への近道は、英語の能力や学歴、資格の有無に関わらず、英語の先生の道だ。

日本の労働人口統計の変化は、外国人労働者がニッチなマーケット(特にプログラミングとエンジニアの分野)の大半を占め始めていることを見落としていた。テクノロジー系の大企業が社内のサポートの役職に日本語を話さない人を置くことで、このような流れを作っていたのである。 

では、日本のスタートアップ業界の将来は?

日本におけるスタートアップの挑戦は特殊かもしれない。しかし、決して乗り越えられない壁ということではない。スタートアップは革新、変化、そして機会の上に存在している。これらは全て、今日も明日も日本にも存在している。 

労働人口統計の変化、ますます広がるグローバリゼーション、そしてテクノロジーの成功に日本は適応し、将来への挑戦に打ち勝つに違いない。

スタートアップ界隈で経験豊富なある有名なテクノロジージャーナリストはこう述べている。「コロナウイルスによって得られた怪我の功名は、他の多くの国と同様に、日本の長年放置されていた社会的・技術的革新をスピードアップさせた。 

photo: Charlesdeluvio

例えば、職場のデジタル化である。主に国内のテック系スタートアップが牽引している日本企業は、ついにデジタルの宇宙へと飛び出し、これを機に紙ベースでの業務の在り方に別れを告げた。このようなイノベーションは民間だけでなく、社会の様々な場所で起こっている。そのほかにも色々な変化がある中で、ことこの点に関しては、『スタートアップビザ』プログラムの創設を含めて、本気で海外起業家や投資家を引きつけようと模索している政府の政策を見ても、エコシステムの観点で私は楽観的に見ている。」 

政府機関であるJETRO(日本貿易振興機構)は、日本のスタートアップ業界の発展と日本国内への新たな投資のために尽力してきた。これまでのサポートと監督により、日本にはAPAC、ひいては世界と十分に戦える能力、パワー、ポテンシャルが備わっている。 

Author: QR (Business designer)
Editor: Emma Araki, Lucy Dayman
Translation (Eng→Jpn): Midori Nakajima

参照

  1. https://www.ondeck.com/resources/startups-really-get-money-start

  2. https://initial.inc/articles/japan-startup-funding-2020-en

  3. https://www.investopedia.com/articles/personal-finance/040915/how-many-startups-fail-and-why.asp#:~:text=The%20Small%20Business%20Administration%20(SBA,70%25%20in%20their%2010th%20year.

  4. https://www.nippon.com/en/japan-topics/g00728/japan-the-risk-averse.html

  5. https://www.active-connector.com/post/resources/7-myths-about-working-at-a-startup-in-japan

  6. https://sgp.fas.org/crs/misc/R44055.pdf

  7. https://bit.ly/3NKNIsr

  8. https://www.stat.go.jp/english/data/handbook/c0117.html#:~:text=The%20shape%2C%20however%2C%20has%20changed,1%20in%20every%204%20persons).

  9. https://www.worldometers.info/gdp/gdp-by-country/

  10. https://sifted.eu/articles/uk-record-tech-investment-2020/#:~:text=VC%20investment%20into%20the%20country,bn%20and%20%2445bn%20respectively.

  11. https://www.ondeck.com/resources/startups-really-get-money-start

  12. https://www.statista.com/statistics/882615/startups-worldwide-by-industry/


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