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【コラム】 ”I” とは、 <話者からみて「この文の話し手」という関係にある人> 言葉は概念の世界

”I” とは「自分」のことを指す代名詞だと思っている人が多いかもしれない。

じつは、”I” とは、肉体をもった話者からみて「この文の話し手」という関係にある人を表現する概念で、それは肉体をもった話し手自身とは限らない。

わかりにくいので、ふたつ例をあげよう。

①  俳優がセリフで ”I” と言うとき、それは役としての ”I” つまり「この文の話し手」という概念であって、俳優個人の ”I” ではない。

② He said, "I'm tired."    という文の ”I” は、話者からみて、he が「この文の話し手」になっていることを表している。

こういうことが可能なのは、もともと ”I”  は、現実の話者からみて「この文の話し手」という関係のことであり、この関係に物質性があるわけではないから、自由にどこにでも設定できるからである。

たとえば私は、机の上のコップを「この文の話し手」という関係にセットして、「今日は俺 ”I” を使ってコーヒーを飲まないのかい」と私に語らせることもできる。

もちろん、”I”は現実世界の話者自身=肉体をもった「私」を指すこともできる。だからわれわれは”I”とは自分のことだと思いやすい。

しかし、うえにあげた例が示すように、 ”I” とは、話し手からみた「この文の話し手」という概念にすぎない。

もともと言語は、概念どうしが現実とは次元のちがう独自の世界をつくっている。だから SF の世界がつくれる。

そういう自由な言語の世界と現実の人間(話し手)の接点になっているのが、”I” という音声・文字である。

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