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子ども1歳だけど都内の中学受験事情を知って初めて親になれた気がした話。

自分はまあまあ優秀な子どもだったと思う。いや。優秀な子どもだと思っていた、最近まで。

小中の成績は大体いつも学年で三本の指に入るくらいだったし、高校に至っては主席で卒業している。大学受験の模試の偏差値は75くらいで、合格判定はいつもAかBだった。

大人になってからことさら学校の成績を人に自慢することもなかったし、それによって人を見下すこともなかったけれど、勉強で得られた成功体験は確かな自信を与えてくれていた。自己効力感の源泉といっても過言ではないかもしれない。

しかし、36歳にしてこの自信がバラバラに打ち砕かれることになる。漫画『二月の勝者』によって。

『二月の勝者』は、中学受験塾を舞台に、都内の中学受験の苛烈さとそこに潜む親子の狂気を描いた物語だ。作中では中学受験に関するリアルなデータなども多数引用され、読んでいるだけで勉強になった。というか背筋がゾッとした。自分の無知さに。

そもそも僕は小中高すべて公立の地方出身者だ。高校は推薦枠で入ったので受験は大学受験しか経験していない。しかも受けたのは私立文系。センターも受けず、文系3科目をひたすらやり込んだだけの人間なのだ。理系科目を触っていない奴の優秀さなんてそもそもたかが知れてるし、ましてや12歳で中学受験という地獄を経験する子たちに比べたら、本当に井の中の蛙もいいところだ。仮に18歳時点で同じ大学を受験して合格したとしても、そこに至るまでに磨いてきた学力には天と地ほどの差がある。学力というより、思考力と言ったほうが正確かもしれない。漫画の中で登場する問題は、そのほとんどが高度な思考力を問うものだった。自分のアタマで考えるスキルを早くから磨いてきた子たちと、高2や高3から大学受験に特化した勉強をしてきただけの子が同じであるはずがない。今になって、自分が大して優秀ではなかったことを強く痛感したのだった。

いやいや、そんなことより。

金だよ、金。親の経済力。これが中学受験の大前提なんだということを、嫌というほど思い知らされた。

『二月の勝者』の中では、中学受験にまつわる費用についても事細かに書かれている。先述のとおり僕は地方出身者だし、妻も同様だ。この漫画に出会わなかったら、恐らくあと数年はぼんやり暮らしていたに違いない。いや、そもそも子どもはまだ1歳だし、先々を考えすぎなのは重々承知している。けれど、大切なのは子どもが望んだときにどれだけ多様な選択肢を親が用意できるかであり、そのためには何に置いても金が要る。

これまで会社を7年やってきて、一度として明確な金銭的目標を立てたことはなかった。もともとがやりたいことを仕事にした人間である。売上はもちろん気にはするが、あまり欲をかくことで不本意な仕事をするくらいなら、右肩上がりではなくても自分の好きな仕事をやり続けたいと思ってやってきた。なので、自分の給与を含む年間の固定費を最低限必要な金額として、そこに何%かプラスした粗利を稼ぐことだけを考えて毎年過ごしてきたのだ。

けれど、この漫画を読んでその意識が全く変わった。実際に子どもがどのような進学ルートを辿るかは別として、大学までにMAXかかるであろう教育費の概算金額が目標になった。これは大変なプレッシャーではあるけれど、稼ぐべき金額=会社の粗利をどのレベルで維持すべきかがはっきりしたという意味では、実は安心感のほうが格段に優っている。

もともと僕にはお金のかかる趣味もなく、大した物欲もない。強いて言えば本を買うくらいだ。あとギターか。ギターといっても、目玉が飛び出るような高額なビンテージギターを買う予定は全くない。そもそも全然上手くないし。それはさておき、物欲がほぼない人間にとって、子どもへの投資は恰好のお金の使い道なんだなと実感した。「あ、こうやって親は教育への投資に沼っていくんだな」と。以前のnoteで、子どもが生まれてから自分のことがどうでも良くなったと書いたが、そこに拍車がかかった感じだ。子どもの先々を具体的に見通した今になって、ようやく僕はちゃんと親になったのかもしれない。1年遅れのパパ誕生である。

それにしても皮肉なものだと思う。自分自身は現状の社会のシステムに絡め取られないような思考や感覚を持っていたいと思うけれど、子どもに対しては現状のシステムの中で上手く生きる術を与えたいと願っている。徐々に保守的になっていく自分をどこか恐ろしく感じる瞬間がある。しかし、子どもはいつだって想像を超える。親のちっぽけな不安なんて吹き飛ばすほどの、大いなる可能性を彼らは秘めているのだ。僕たち親ができることは、その可能性を絶やさないように見守ることだけである。その手段の一つがお金だというだけの話だ。お金があればできることはたくさんあるが、お金がなくても与えられるものを、いまは見失わないようにしたい。

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