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10-FEETとバスケットボール。

「2023年」という日本バスケの夜明け

先日、男子バスケットボールのW杯にて、日本代表が1976年のモントリオール五輪以来、実に48年ぶりに自力での本大会進出を決めました(前回の東京五輪は開催国枠のため予選は免除)。

バスケに詳しくなく、バスケの歴史を追ってきていない人間でさえめちゃくちゃ感動したという事は、往年のバスケファンの感情はとてつもないものだったでしょう。
2023年9月2日は、明らかに日本バスケの歴史が変わった日だったのです。


2023年という年が、日本バスケにとってのエポックメイキングになったという事実は、もう一つの現象から語ることが出来ます。

ご存じ、映画『THE FIRST SLAM DUNK』の大ヒットです。
日本での公開は2022年12月3日ですが、その後2023年に入り、日本のみならず、中国や韓国を中心にアジア各国で空前の大ブームに。

日本バスケが成長することを夢見ながら、マンガを作り続けた井上雄彦の作品『SLAM DUNK』が30年越しに大ヒットした年に、日本代表が五輪出場を決めるんですからね。
事実は小説より奇なり。あまりにもドラマティックで、映画よりも映画みたいな物語が生まれたわけですね。

と、まあメディアの多くはこの2つの相関関係について取り上げますが、この記事ではもう一つ、2023年のバスケが大きく変わることに寄与した存在を取り上げたいと思います。


「音楽」と「バスケ」をつなぐ10-FEET

『THE FIRST SLAM DUNK』の主題歌、「第ゼロ感」を手掛けた10-FEETの存在です。

1997年に京都で結成されたスリーピースバンド10-FEETは、主にライブシーンでの評価が高く、主催フェス「京都大作戦」を毎年開催するなど、2000年代以降の邦ロックを支え続けてきた、この界隈では大御所バンドです。

10-FEET
(※オフィシャルサイトより)


正直言うと、セールス的に見ていわゆるJ-POPのど真ん中、メインストリームに君臨する存在ではなかった彼ら。
印象としては、あくまでライブバンド、フェスバンドの畑にいる人たちといった感じでした。

(彼らと地元が同じ僕は、高校時代に10-FEETどっぷりハマり、京都大作戦にも行っていた。詳しくはこちらの記事からどうぞ。)

そんな彼らが、デビューしてから20年以上の時を経て、国民的大人気アニメの映画主題歌に抜擢されるわけです。
メンバー全員50歳手前のおじさんバンド(見た目はめちゃくちゃ若い)ですよ。
ここにきて(あくまでセールス的な問題や世の中に与えた影響から客観的に見て)、バンドとしてのキャリアハイを叩き出すんですからね。
それこそさっきの話じゃないですけど、往年の10-FEETファンからしたら胸アツなわけですよ。
これってめちゃくちゃすごいことですよね。


もちろん10-FEETをキャスティングした制作側にあっぱれな案件なわけですが、ここまでの成功をつかんだ理由としては、ひとえに10-FEETが長いキャリアの中で積み重ねてきた実績によるものに他なりません。

これまで、パンク、メロコア、メタル、レゲエなど枠にとらわれない様々なジャンルにチャレンジしてきた彼ら。
そんな彼らが演奏するサウンドは、バスケの試合が作り出す臨場感にピッタリなのです。
激しくかき鳴らされたギターの音色が選手・観客の心を揺さぶりますし、ベースの重々しさはまるでボールがコートに響いているかのよう。

映画を観た人間全員が、「映画を超えた何か。それはライブであり試合」みたいに感じたと思います。
映画館ではなく、試合会場そのものにいると錯覚させられる、そんな“体験”にお金を払っている感覚になるのです。

圧倒的なライブ感———。
それを演出できたのは、やはり10-FEETが”ライブバンド”だからです。
これまでライブハウスや、フェスの大会場で、数えきれないほどのライブをやってきた彼らだから、ライブを、ナマモノを大切にし、空気感を熟知している彼らだからこそ、「第ゼロ感」という名曲が生まれたんだと思います。


積み上げてきたクリエイティブな部分が、今回の成功につながったのは非常にエモいですが、実は10-FEETって、バスケットボールという競技自体に昔から貢献しているんですよね。

先ほど書いた、主催の「京都大作戦」というフェスでは、2010年から「大阪籠球会」というストリートバスケのパフォーマンス集団が毎年出演していて、年によってはバスケの大会をフェス内で開催したり、Bリーグ・京都ハンナリーズも登場したりと、「音楽」と「バスケ」をつなぐ試みに長きにわたりチャレンジしているんですよね。

https://basket-count.com/article/detail/2552


そんなバンドが、国民的バスケアニメの主題歌を担当するわけですから。
長年支えてきた、見守ってきたファンや関係者はめちゃくちゃエモいことでしょう。


「バスケ」が「アンセム」を手に入れた瞬間

W杯日本の最終戦、カーボベルデ戦の終盤に会場で「第ゼロ感」が流れた時の、観客の一体感は凄かったですよね。
本来の公式テーマソングは藤井風の「Workin' Hard」でしたが、正直「第ゼロ感」の影響が凄すぎたせいで影が薄くなってしまいました。

代表選手も「第ゼロ感」に感動したと公言するなど(富樫選手がXで言及)、競泳にとっての「ultra soul」、陸上にとっての「All My Treasure」といったように、バスケットボールという競技が、「第ゼロ感」というアンセムを手に入れた大会になったと思います。

「第ゼロ感」は、バスケだけでなく、スポーツ観戦全般にハマる曲だと思いますが(実際、京都サンガのホームスタジアムでは試合前に毎回流れる。地元京都の10-FEETさまさま!)、やはりバスケが手に入れたものだなと感じます。

バスケを題材にしたアニメの主題歌が、現実世界のバスケの大会会場に響き渡り、成功体験を紡いでいく――。
「音楽」「アニメ」「スポーツ」がここまでリンクする現象が、未だかつてあったでしょうか。

そういった観点から見ても今回のバスケW杯はものすごい大会でしたし、10-FEETと、井上雄彦の存在は非常に大きいです。


一つのスポーツを巡る、漫画家とバンドの物語が美しく花開いた瞬間を目の当たりにした僕ら。
なかなか無い体験だとは思いますが、他のスポーツでもこうした体験を味わえる日が来たらいいなと思います。




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