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2023年最高のドラマ『VIVANT』〜愛を手に入れる物語〜

いや~ついに終わってしまいました。日曜劇場『VIVANT』。
地上波の枠を超えたスケールと豪華キャストで話題になったこのドラマですが、もちろん僕も1話からずっと観ていて、毎週の楽しみでした。

毎話ごとの「考察」に視聴者は夢中になっていたわけですが、ネットで上がっている情報も、「なんか当たりすぎてたら嫌やな~」という理由であまり見なかった僕。
フラットな気持ちで毎週登場人物たちに裏切られ、振り回されて楽しんでいました。

この記事では、全10話が終わっての全体的な総括、感想、改めて思った魅力などを僕なりに書いていきたいと思います。
とは言うものの、ちょっと凄すぎて何から書いていいのかわかりません。(笑)
なので、雑多で脈略の無い文章になるかもしれませんが、ただただ見た人同士で共有できるものになればなと思います。


※もちろんネタバレあり※


泣く子も黙る豪華キャスト

『VIVANT』は、放送開始まで一切のあらすじやストーリーが明かされなかったことが話題となりましたが、同時にドラマファンが驚かされたのがそのキャストの豪華さです。
堺雅人、阿部寛、役所広司、二階堂ふみ、松坂桃李と、キービジュアルに映る全員が映画の主役級。

中でも、役所広司の出演は驚きました。
ここ最近は「日本映画の大御所」というイメージだったので、まさか地上波連ドラに、しかも主役ではなく、、といった感じで胸躍りましたね。

役所広司と松坂桃李なんかもう『孤狼の血』ですもんね。。最高。。
堺雅人と阿部寛が共演している医療モノ映画『ジェネラル・ルージュの凱旋』は今度観てみようと思います。

第1話の二宮和也登場は声出して驚きましたね。。
ニノだけ事前発表されてなかったんですよね。
「え!?日本人、、じゃない!?まさかの遊牧民役!?」って感じでしたよね。


話は前後しますが、テントの取り調べのシーンとか、乃木を追い詰める時のあの鬼気迫る演技すごくないですか!?
『検察側の罪人』の時のニノを彷彿させるというか。。
小さい体なのに覇気がすごいんですよね。事務所の問題はあれど、俳優としての評価は絶対的なものだと思うので、これからもたくさん活躍して欲しいと思います。


メインキャストと同時に事前情報としてあったのは、『半沢直樹』『下町ロケット』『陸王』などの昨今のTBS日曜劇場を大成功に導いている、演出家・福澤克維による初のオリジナル脚本作品だということ。

絶対おもろくなるに決まってるやん。笑

これだけの盤石の布陣なわけですから、多少情報をクローズしていても期待値は高いわけですよね。
『半沢直樹 第1シリーズ』からちょうど10年。その間に築き上げられた「福澤ブランド」に全幅の信頼を置けるからこういった宣伝手法が成立するわけです(ちなみに『下町ロケット』『ドラゴン桜 第2シリーズ』の主演は阿部寛、『陸王』の主演は役所広司。言わずもがな福澤演出)。

これって、『THE FIRST SLAM DUNK』と同じ手法ですよね。
「井上雄彦作品」というブランドと、「井上雄彦自身が原作から20年越しにオリジナルを描く」というトピックスが、公開前情報シャットアウトを成立させたんですね。

だから何って話ですが、今年大ヒットしたこの2作品からみるマーケティングの共通点が面白いなと思いました。


「低予算でいかに面白く」も大事ですが、『VIVANT』は、ネームバリューがもたらすお金、お金がもたらすマンパワー、知恵と力の結集を改めて思い知らされるドラマでしたね。



ヒットの要因は“デフォルメ”

『半沢直樹』にも共通して感じるのですが、僕が思う『VIVANT』の魅力の一つは“デフォルメ”があると思います。
いわゆる誇張です。適度な“やり過ぎ感”があるのです。

まずは演技の面。
半沢直樹本人も演じていた乃木憂助役の堺雅人はもちろんですが、個人的には阿部寛の存在は大きいのかなと思います。

いや、普通に考えてあんな喋り方の人いないでしょ。笑
めちゃくちゃ眉間にしわ寄せて目力バッキバキで「ミリタリィースクゥールゥー!?」ですよ?
「乃木はスネイプ先生だったんだ!!!」ですよ?
いや何言うてるねん、ですよ普通(乃木がハリーポッター詳しくて上手く引用できてよかった)。

阿部寛演じる野崎守の佇まい、喋り方によって、一気に「ぶっ飛んだ世界」を成立させているなと思いました。
それは、『VIVANT』と同じく福澤監督が演出を手掛けた『ドラゴン桜』からの流れもあると思います。
原作がそもそも漫画なんですよね。『テルマエ・ロマエ』もそうですよね。
ここ最近の阿部寛は、漫画の世界から飛び出してきた人物みたいな印象なのです。

現実感の薄い演技、日常的ではない“やりすぎ演技”を見せつける役者が福澤作品では輝きます。
『半沢』でもそうですが、『VIVANT』でも歌舞伎役者の面々が大勢活躍されていました。
丸菱商事の宇佐美部長(市川猿弥)に、公安部の部長(坂東彌十郎)、別班の工作員リーダー(市川笑三郎)と今回も梨園の力をフル活用していましたね。

バルカ日本大使・西岡演じる檀れいの宝塚風しゃべりもよかったですし、外務大臣ワニズ役の河内大和もよかったですね~。めっちゃキモかったですもんね。笑
あの人、シェイクスピア作品などに数多く出演している凄腕舞台俳優だったんですね。なんと今回がドラマ初出演。よく見つけてきますよね。。
初出演にして最後にめちゃくちゃいい役でした。


そしてなにより一番はドラムの存在ですよね。
よくよく考えたらあいつなんやねん。笑
ずっとスマホの自動音声でコミュニケーション取ってるわけですからね。

福澤監督曰く、『VIVANT』を作る上でスタッフに求めたのは、「真実の世界はいらない」ということだったそう。
こと演技の面で言えば、そのやり過ぎ感、浮世離れ感がドラマの世界観を作り上げているなと思いました。


そして脚本の面。
中央アジアのエネルギー系企業への誤送金を取り戻すべく立ち上がったいち商社マンが、その在り処を突き止めるとテロ組織につながっていて、、自爆テロに遭い、、日本の公安が出てきて、、実はその商社マンの正体は陸上自衛隊の影の組織「別班」で、、父親はテロ組織の創設者で、、世界を巻き込む大きな渦に飲み込まれ、、、

って、規模がデカすぎるねん。笑

途中見ながら、「なんでこんなあり得ない話に視聴者は夢中になっているんやろ。。」とさえ思いました。

しかし、なぜか話を成立させてしまう妙な説得力があるのです。
それは、しっかりと事実に基づいて作っているからに他なりません。

警視庁公安部外事課は実在する組織で、特に野崎が所属する外事第四課は、実際に国際テロに関する任務にあたっているそう。

陸上自衛隊の秘密情報部隊「別班」も、政府が公式では存在を認めていないものの、元別班員を自称する人物に関する本がいくつか出されていて、福澤監督もそこから着想を得たようです。

一見すると、都市伝説やロマンの域を超えない話だと思いがちですが、第2話の岩場でジャミーンの手当てをするシーンで、別班がどういう組織か、その意義は何なのかを話す野崎に対して、全視聴者は薫と同じように、「ま、まあそう言われてみれば確かに。。」となったはず。

会ったことのない「公安」や「別班」という存在が、あながち遠くないように思えるんですよね。

この「やりすぎ」と「事実」のバランスが非常に絶妙なのです。

ぶっとんでいるのに説得力がある。
それこそが『VIVANT』が極上のエンターテイメント作品に昇華されている理由なのです。


根底にあるのは“愛”

全10話からなる『VIVANT』ですが、第1話~第4話が誤送金編、第5話~第10話が宿命編と二部構成になっています。

特に乃木が別班の人間だと分かり、真実を追い求めていく展開から、如実に現れてきたテーマがあります。
それは“愛”です。

悪の組織のトップが実の父親だと知り、立場的に揺れながら、どんな手段を使ってでも会いたいという父親への愛。
戦乱の地において、ゲリラに攫われた後も探し続け、40年越しにようやく対面し喜んだ息子への愛。

「親子愛」というテーマに限らず、乃木の薫に芽生えた初めての「異性への愛」もそうですし、黒須の乃木に対する「師弟愛」みたいなのも感じましたよね(裏切られたと思ってからの、やっぱり仲間だったんだと分かった時の黒須かわいかった。「乃木、、さん、、?」のさん付けに戻るところエモかった)。

最後の電話でのノコルの「兄さん」という言葉から伝わってきた、血のつながりを超えた「兄弟愛」もそこにはありました。

しかし、僕が感じた一番大きな愛は、やはりベキによるものでした。

実の息子を失ったという経験から、内乱で親を失った孤児たちを救い、面倒を見るという、偽善では到底なしえない愛を見せるベキ。
より多くの子供達の笑顔を守るためなら、どんな悪事もいとわない――。
何が善で何が悪か。それすらも超越するのが愛なんだと思います。

ラスボスが一番慈愛に満ちた人だったわけですもんね。
かつて彼に救われたチンギスも、愛を受けた一人だったわけです。

そしてこれは、主人公・乃木憂助だけが愛を追い求める冒険のように見えますが、登場人物それぞれが、それぞれの愛を手に入れる物語です。

ノコルも乃木とベキを見て心境が変わったでしょうし、薫もジャミーンを通して乃木と心を通わせました。

周りに影響され、それぞれが、それぞれの大切なものに気づき、育てていく――。
そんな作品になっているのだろうと思いました。



テレビドラマの強さを再認識

今回『VIVANT』が改めて気づかせてくれてのは、地上波ドラマの強さです。

今年に入ってNetflixを始め、アマプラやディズニープラスなどで人気ドラマが数多く配信され、話題になっていますが(『離婚しようよ』[Netflix]、『ガンニバル』[Disney+]など)、やっぱり配信限定ドラマではここまでのムーブメントが生み出せないということを『VIVANT』は教えてくれた気がします。

やはり“考察”は大きかったですね。
毎週放送が終わると、次回放送までの一週間で、おのおのが考察サイトを見たり、SNSで情報を得たり、ドラマに向けての熱量を減らすことなく観ていたのではないかと思います。
「リアルタイム視聴」が世の中にもたらすうねりの強さを再認識しました。

そして今回『VIVANT』で顕著だったのは、テレビ、雑誌、ネットメディアなど、考察記事を各メディアの“公式”が発信していたことです。
ほぼ毎朝ネットニュースを見ている僕からしても、ここまで多くの考察記事が世に溢れている状況を生み出したドラマはかつてあっただろうかと思います。

観てなくて申し訳ないですが、おそらく日本テレビ系列で2019年に放送されていた、『あなたの番です』のかつての勢いは超えているのではないかと思います。

「社会現象」を生み出すのは、やっぱりまだまだ「テレビ」なんだなと痛感させられました。



福澤監督が9月17日のファンミーティングで、

ずっと思ってきたのですが、日本のドラマは“国内向け”につくっているんですね。どれだけ国内の人に見てもらえるか。人口が1億2千万人いますから、ヒットすればどうにか儲かるシステムになっていましたが、そろそろ外(世界)に出て行かないといかんかな…という気持ちがありました。何か転換期になるものを、と思っていました

※スポニチの記事より

と、語っていたそうです。

福澤克雄は、慶應義塾大学を卒業後、一度は違う業界に進むものの、テレビドラマを作る夢を諦めきれず、TBSに中途採用で入社した人物。
来年定年退職を迎えるそうで、いわばこの『VIVANT』は、「最後にどかーんと好きなことやっちゃっていいよ!」というTBSからのご褒美的な位置付けだったそう。
これまで、池井戸潤原作を中心に、あらゆるドラマの人気に火をつけ、「日曜劇場」というブランドを復活させた功労者なわけです。

そんな“集大成”のドラマでしっかり結果を残すところがすごいと思いますし、優秀なテレビマンと、大きな懐で超大作を作らせるテレビ局が手を組めば、最強のエンターテイメントを作れるんだという「テレビの底力」を感じました。


また、監督が言うように、国内市場だけでなく、海外にも通用するような題材で意識的に作られているのも事実。
つまり、日本のテレビ畑も優秀な人材を使い、お金を集めるなど、しっかりと本気を出せば、世界に通用するコンテンツを作れるのです。

実際にこれから海外でヒットして欲しいですね。いや、間違いなくすると思います。
『VIVANT』は、そういった日本のコンテンツビジネスという観点から見ても、希望に満ち溢れた作品だったのではないかなと思うのです。


絶対に続編、もしくは映画版やって欲しいですね!

ありがとうVIVANT!!


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