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「にわかファン」についての考察~W杯とM-1グランプリ~

はじめに


現在開催中のサッカーワールドカップ。
ドイツ、スペインという強豪を倒した日本代表に対して、賛辞の声や黄色い声援が飛び交い、選手たちの人気が大会前に比べて高まっています。
こういった時に必ず現れ、議論されるのが「にわかファン」という存在。SNSの普及で、存在そのものが可視化しやすくなり、以前より「にわかファン」への認識が強まっていると思います。

改めてこの「にわかファン」について、エセ社会学者である僕とじっくり考えていきましょう。

ネガティブな対象「にわかファン」


「俄か(にわか)」
1.物事が急に起こるさま。突然。
2.一時的であるさま。かりそめであるさま。

辞書で調べると大体こんな感じ。
その業界において、「急に」めっちゃファンが増えることは、本来とても良いことのはず。
例えば今回のワールドカップに関して言うと、サッカー協会や選手にとっては、応援してくれる人の分母が増えるわけですから、とてもありがたいこと。
しかし「にわかファン」という言葉には、総じてネガティブな印象を持たれます。

一体、誰が主にネガティブな目を向けるのか―――。
それは既存のファンです。つまり「古参ファン」であり「コアなファン(コアだと自認しているファンも含め)」と言われる人たちです。

理由はわかります。
ずーっとこれまで応援してきたし、見てきたし、考えてきた。その人物に対して、グループに対して視線を注いできた。時に優しく、時に厳しく、愛情を持って。
なのに、「急に」現れた誰かが、「一時的な」熱量で語り、評価し、否定する。その姿勢は「かりそめ」以外の何物でもない。
そう思うのはめちゃくちゃわかります。

Twitterの普及により、「自称・評論家」が大量増殖したことによって、にわかファンに対する攻撃的な意見など、冷え切った目で見るような風潮が強くなっていると思います。

でも冷静になって考えましょう。彼らにわかファンはお金を落としてくれます(あるいはお金を落としてくれる可能性を秘めています)。
それは、応援されている対象にとってはとてもプラスなことです。

サッカーに落とし込んで考えると、

グッズが売れる、観客動員数が増える→
応援しているクラブが潤う→
補強してチームが強くなる、いい選手が出てくる→
海外に移籍する選手が増える→
日本サッカー全体のレベルアップ!

という図式でしょうか。

とある先輩芸人に聞いたのですが、サッカー関連の仕事をしたときに、そのチームの、おそらく古参であろうファンの方からSNS上で、「わかってないのに出るな」や「前はこんなこと言うてたけど、矛盾してるやないか」などの意見をぶつけられたそうです。
確かによくよく知っているに越したことはないです。ただ、チームの広報や運営の方々の、人気アップ、集客アップにつながるための努力を邪魔していると思うのです。ファン自ら、自分の応援しているチームの足を引っ張り、ひいてはサッカー界全体の発展を妨げることになっているのです。

もっと冷静に、俯瞰で見る目をもって、そのチームを、グループを応援したいものです。
なぜなら、そのチームやグループは、あなたの所有物ではないのですから。


M-1における「にわかファン」


「一時的な熱量で語り、評価する」という点に関しては、M-1にも近いものがあります。

何年か前、あらためて説明する必要もありませんが、「漫才か漫才じゃないか論争」がSNS上で話題になりました。
この時の傾向として顕著だったのが、「漫才」派はコアなファンで、「漫才じゃない」派はM-1しか見ない新規ファン。俯瞰で見ると非常に興味深かったです。
彼ら新規ファンからすると、年に一回しか漫才というものを真剣に見ない。圧倒的に漫才を見ている本数が少ない彼らほど、自ずと「漫才とはこう(マイクを挟んで行う話芸、しゃべくり)だ」という既成概念が強く根付いているんだなと思いました。
「こういう手法もあるんだよ」ということを受け付けられない。
そらそうですよね。年に一回しか見ませんから。二人の立ち話、掛け合い的な芸のチャンピオンを決める大会を見れると思って、チャンネルを合わせたんですから。

この「年末だけ漫才のことについてとやかく言う勢」をどうすればいいか。
これはですね、一言でいうと「しゃあない」です。
「そういうもの」だからです。

決勝を見た後にコアなファンが、
「いや準決勝はめっちゃウケてて。。」
「順々のネタのほうがよかったのに。。」
とかよく言いますよね。
でも、「年末だけ漫才のことについてとやかく言う勢」はそんなん知りません。
言い過ぎかもしれませんが、「決勝の10組(もしくはプラス敗者復活組)がこの国の漫才師の全て」というものに近い感覚で見ています(最後の3組の「最終決戦」のことを「決勝」っていう人多いですよね)。

オリンピックの話をします。
そこに出ている選手達が、その競技の全てだと思って我々は見ていますよね。
その競技のコアなファンからしたら、
「日本選手権で4位やった選手もほんまはもっと記録がよくて。。」
「選考会で欠場した選手がほんまはランキング1位で。。」
「NHK杯ではもっといいパフォーマンスしてたんやけど。。」
と言いたくなりますよね。
でも、「オリンピックの時しかその競技見ない勢」からすると、
「いや、そんなん知らんがなwwwオリンピックで結果出さへんかったら意味ないがなwww」
ですよね。
オリンピック大好きな僕も、さすがにフェンシングの日本選手権は観たことないですもん(いつか観たい気持ちももちろんあります)。

今大会のサッカーワールドカップ。
「実はこういう選手がいて、本来代表に選ばれるべきすごい選手で。。」

「そんなん知らんがなww選ばれてない時点で実力ないやろww」(ちょっと言い過ぎ)

これってコアなファンからしたら、めっちゃ歯がゆいですよね。
でもしゃあない。そういうものなんです。
歯がゆいし腹立つけど、でも彼らの言うそれが、結局のところ真理なんですよね。選手本人はそんなん分かってます。

オリンピックで金メダルを取らないと。
ワールドカップで活躍しないと。
M-1優勝しないと。

もう一個手前を言うと、

オリンピックに出ないと。
ワールドカップのメンバーに選ばれないと。
M-1決勝に残らないと。

ビッグドリームはつかめないし、人生変えられない。
せめて出場はしないと、注目される権利すら与えてもらえない。

だから、選手たちにとって五輪、W杯は絶対的なものであり尊いもの。
言い方は悪いですが、4年に一度の、手っ取り早くにわかファンを大量に獲得できるビッグチャンスなのです。

選手と、にわかファンの考えていることが同じで、間にいるであろう古参ファンだけが違うスタンスってなんか皮肉ですよね。

ずっと応援している古参ファンは言います(思います)。
「五輪が無理でも他の大会があるよ」
「M-1が無理でも他の賞レースがあるよ」
確かにそうなんですよ。でもそうじゃなかったりするんですよね。

にわかファンの「M-1、キングオブコントで爪痕残さないと売れない」という考え。何周も何周もして、結局芸人も同じ考えなんですよね。

おわりに


いろいろと書きましたが、これは古参ファンが悪いとか、にわかファンが悪いとかそういうことを言いたいんじゃありません。
誰よりも愛情が強い古参たちが、にわかの存在を認め、受け入れることが、全てプラス、発展につながるということです。
古参の方々の熱意が「これまで」を支えてきました。にわかの存在と共に「これから」を作っていくのです。
なんかヤイヤイ言うてますが、結局のところ客観的に見たら同じ生き物、同じファンですから。

どんなアスリートも、アーティストも、アイドルも、俳優も、芸人もYouTuberも、みんな活躍したいし、売れたいんです。
それを可能にするパワーを生むのは、いつの時代もにわかファンです。経済的な観点から見ても必要不可欠です。

なので、知れば知るほど見えてくるものがあるからこそ、古参ファン、コアファンは、冷静な目を持ちながら応援したいものですね。



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