見出し画像

芸人になって最初に始めた、川掃除のバイトの話。


吉本の芸人養成所、NSCを卒業したのが2014年3月。

卒業時は相方がいなかったので、3か月は実家にいながら、鬼のようにバイトをして引っ越し資金を貯め、7月頃に念願の一人暮らしを始めました。

生活のため、まず見つけなくてはいけないのがアルバイトです(相方はこの頃ほぼ同時期に見つけ済み)。

どうしようかと思っていた時、運よく先輩芸人のガンバレルーヤよしこさんに川掃除のバイトを紹介してもらいました。

この時、僕はコンビを組み立ての1年目の芸人。出れるライブも全然なく、右も左もわからない状態でした。
ちょうど大阪に出てきてすぐ、芸人が芝居を本格的にやるといった企画があったので、僕はそれに参加しました。

そこで出会ったのがガンバレルーヤよしこさん。
「人が足りてないからおいでよ」と誘ってくださり、自分自身、肉体労働系は初めてでしたが、芸人も何人か在籍していましたし、変わった仕事で面白そうということで始めることにしました。


川掃除のバイトは、早朝船に乗って、大阪市内の川に浮かぶゴミを拾う仕事。
おそらく行政からの委託だったと思います。
今思えば、結構特殊な仕事でした。

基本は、真ん中にコンベア(ローラー?)がある船に、運転手1人、左右に作業員2人の計3人が乗ります。

ほとんどのゴミや、大きめのゴミは真ん中のコンベアで巻き込んで取るのですが、船の横側はコンベアで取れないので、左右の人間が、長い棒の先についた網を使って掬います。
川の流れが強いと持っていかれそうになるので、落ちないように気を付けてやっていました。

この3人の船、運転手と作業員の1人は必ずおっさんでした。
「おっさん2:芸人1」という、謎の比率がずっと守られていました。
濃い目の水割りです。芸人と楽しくバイトしたいのに。

小さめの川を清掃する「おっさん1:芸人1」の船はもっと微妙。
運転手のおっさんと2人きりで、気まずい空気のまま作業します。
ただただ、網が川面につかる「ポチャン」だけが聞こえるのでした。

しかもこの小舟、道頓堀とか繁華街を通るのです。さっきの3人船は大きめの川を通るので気になりませんが、小舟の先頭にデカ網棒を持った姿を、道頓堀の観光客に見られるのです。
めちゃくちゃ恥ずかしい。
ハロウィンの次の日とかめちゃくちゃゴミだらけやし。最悪。


当たりの船もありました。(なんやねん当たりの船て)
毎朝乗る船を振り分けられるのですが、先述の二つはテンションが上がらない船。
もう一つ、大量のゴミを処分場まで持っていく船の時は、若干ガッツポーズでした。

この船は、大量のゴミが積んである船で、大阪のはずれにある謎の小屋まで運びます。みんな一旦そこで降ります。
そこからクレーンを使って、トラックの荷台にゴミを積み直しし、そのトラックに乗って処分場まで行くという流れ。

この日はとりあえず楽。
川のゴミを取る事はしないですし、作業時間自体短いので、時間が来るまでみんなでお喋りしていました。
しかもこれが「おっさん2:芸人2」です。ほぼコンパです。


ただ、ガテン系のおっさんの特徴(偏見)として、話す内容がギャンブルか風俗の話しかないので、どちらも縁遠い僕からしたらおもんなかったです。
風俗ってなんかプレッシャーで楽しめないんですよね。メンタル×。


このバイトのメリットは、いろいろ書きましたが、基本的に意外と楽。

川の清掃と言っても、片っ端からするのではなくて、決められたエリアしかしませんでした。
目的のエリアまでは高速移動で、座って1時間何もしません。
エリアに着いたら作業開始ですが、ゴミが全然落ちていなかったら、早めに切り上げて、もしくは船着き場みたいなところに留めて、休憩していました。

天気がいい時とかはむしろ気持ちがよく、春は川沿いの桜が見れたりと普通に風流を楽しんでいました。



あと、僕個人的には、大阪の地形が知れるので面白かったです。
このバイトで、大阪のいろんな川を通って、いろんな街に行けたので、
「はぁ~なるほど、これが東横堀川か~」とか、
「はぁ~、ここからが旭区になるんや」とか、他の芸人バイトとは違う楽しみ方をしていたと思います。


デメリットはというと、まず朝が早いということ。

朝早いと言っても8時ぐらいですが、夜型生活の芸人からしたら、早朝も早朝。
起きれずに寝坊する芸人ばかりでした。
僕は今、寝坊はほとんどしませんが、この頃はやりまくり。
正直寝坊が原因でこのバイトを辞めました。
「もう来なくていい」と電話で怒られたので、その日を境に行きませんでした。

ちゃんと良くないですね。反省してます。


あと、どんなに悪天候でも船を絶対に出すところはだいぶキツかったです。

一回真冬で大雨の時があり、作業服の上にカッパ、中にも何枚も着込んで船に乗りましたが、横殴りの雨と真冬の寒さにやられ、

「あれ?おれ今日死ぬ?」

と覚悟したことも。

海ではないので波は無いのですが、満潮時は川でも水位が上がります。

中之島を取り囲む土佐堀川を通っていた時の事。
早朝、船に飛び乗った僕は、前日夜更かししたせいか、立ちながらウトウトしていました。
風に吹かれながら夢見心地な僕に、運転手のおっさんが突然、

「おい!英吉!!よけろ!!!」

と叫びました。

はっ!と気が付いた僕の目の前には、巨大なコンクリート。
急いでしゃがんだ僕は、危うく橋にぶつかって体を吹き飛ばされるところでした。

ジャッキー・チェン映画の敵みたいな死に方だけは避けれたので、本当に良かったです。
ありがとう、マツバラさん。


それから、このバイトの最大の特徴は、おっさんがいっぱいいるということです。
しかもクセのある人ばかり。


船の上での休憩中、僕がスマホを触っていると、
「おい!休憩や言うても仕事中やろ!遊びちゃうぞ!」
と運転手のおっさんに怒られました。
そのおっさんの右手にはタバコ。
「いや、タバコはええんかい!なんで誰にも迷惑かけてない非喫煙者が怒られてんねん!ほんでスマホ=遊びて!考え方古っ!アップデートせえ!」
という気持ちをぐっとこらえた次の瞬間、タバコを川にポイ捨てしました。
「いや、掃除してゴミ捨てるってどういうこと!?どういうことわざ!?」

と未だに思い出します。


昼休憩の時によく、事務所近くの定食屋に連れて行ってくれる、若めのおっさんもいました。
一見よさそうな感じですが、このおっさんの特殊能力が「会話の無効化」。
普通に喋っているのに、「いや、だからな」とか「せやかてお前あれやで」と、絶対自分の考えに持っていくのです。歯スカスカやのに。
一回そのおっさんの考えに乗っかってみました。その時も、「せやかてお前あれやで」が発動。
「ダメだ。こいつ話し出来ねぇ。」と、自らリングを降りました。

ええおっさんもいました。
いつも昼休憩の時にサトウのごはんをくれるおっさんや、何回も同じ話をする熊みたいな可愛いおっさん。
気さくに喋ってくれるけど大阪弁強すぎて何言ってるかわからんおっさんもいました。
「体いごかんやろ?」と最初言われた時理解できなくて、「ははっ、、まあね、、」としか言えなかったです(「いごく」は「動く」)。

なんとなく、みんなそれぞれ壮絶な人生を歩んできたっぽい人たちばかりで、今思えばそんなおっさんたちと絡んでいたのは貴重な思い出です。



以上、川掃除のバイトの思い出でした。
このバイト自体おススメはしませんし、おススメしようにも、たぶんどこの求人にも出ていないバイトなので、やるのはほぼ不可能だと思います。

僕自身、経験の振り幅としてはいいものだったと思います。
当時、朝は川掃除、夕方からカフェ、深夜にボーリング場のバイトをしていたのは、たぶん日本で僕だけだったでしょう。

あと、絶対に川にゴミは捨てないでくださいね。
冷蔵庫の不法投棄とか、マジで許せませんでした。船に積むのが大変すぎてマジで意味わかりませんでした。

そんなことしたら、橋にぶつけて吹っ飛ばしますよ。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?