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東三河に「美しさ」と「楽しさ」を

ギリギリ1月、あけましておめでとうございます。

久しぶりのnoteになりました。地元紙、東日新聞に寄稿しましたので、その文章を転載します。

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 私は、種麹メーカー「糀屋三左衛門」の29代当主をしています。父が中学生の頃、祖父の代に縁あって京都から豊橋に参りました。豊橋出身の当主は私が初めて。また、現在、京都芸術大大学院に通う、現役の芸大生でもあります。

 子どもは女2人、男1人の3人。住む場所や職業を誰もが自由に選べる時代だからこそ、誰かが家業を継ぐとしたら、責務として継ぐのではなく「楽しいまち・楽しそうな仕事だから」と言う理由で継いで欲しいと願っています。他方、今、東三河では20代前半の女性が毎年400人も流出し、その主因は、希望職種の不足と言われています。

 さて、著述家山口周さんのベストセラー『ニュータイプの時代』の中で、”正解がコモディティ化すると、答えに大差がなくなるため、「正解を出す力」は急速に価値を失う。代わりに価値を増すのは「問題を発見する力」だ”とあります。

 客観測定可能な基準による競争は、優劣や勝敗が明瞭なため、最後には必ず価格競争になります。「当社は他社より1円安く、1グラム軽くできます」と、アスリート的な節制努力で正解を出す技術を競った限界が、デフレ経済の手詰まり感だと捉えています。

 また、「速く行くには一人で行け、遠くに行くならみんなで行け」という諺があります。企業で言えば、速い達成には同質な集団が、大きな変革には多様な集団が有利です。

 日本を支えてきた『業界や系列など階層的な社会秩序のもとで集団を管理し、当然とされる責務を節制努力で達成し、客観的な評価を積み上げる強いリーダー』に敬意を表しつつも、今のVUCAという予測困難な社会には『個の感情を豊かに多様な考え方との協働を楽しみ、カオスと偶発変化を巻き起こして、世に新たな問いを創造し、主観的な賛同を集める柔らかいリーダー』が求められていると考えます。

 「自動車の責務は速いことでなく、環境を守ることではないか」という問いが、感度の高い人々の共感を集め、ガソリンからEVへとビジネス構造の変革さえ推進しました。技術解決の前に、そもそものメッセージを世に問い、人々の共感で社会を動かす力。それは、アーティストの創造能力と重なります。

 弊社も、製造業から文化創造業がテーマです。製造業を辞めるのでなく、製造業を核に新しい文化創造の仕事を巻きつけていくイメージです。種麹の技術を核に、麹の文化を「アート」と「ホビー」に。

 「アート」とは美しさ。美しいものには価値が産まれます。「ホビー」とは楽しさ。楽しい体験に人は集まります。楽しさでマーケット人口を増やし、美しさで価値を高め、文化創造に繋げる。美しく楽しい、そんな産業・企業・職種の増加が、東三河を『義理』や『責務』ではなく『魅力』で若者が集まる地域にすると信じています。

東日新聞 2022年1月31日 掲載

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