小さな嘘-パラリンピックかくだの火

日本の宇宙開発に刻まれた小さすぎる嘘の話。

報道・公開された事実

2021年8月16日、読売新聞は『「H3ロケット」エンジン燃焼実験から採火、宇宙服まとい聖火皿へ』という記事を掲載した。
>「H3ロケット」のエンジン燃焼実験から採取された。

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『【公式】宮城県角田市』Youtubeチャンネルの動画では「ここ角田から届ける炎はロケットエンジンから放つ炎」と紹介している。なお本記事を書いているうちに動画は非公開となった。うーむ。JAPAN!

使えない推進剤

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 ロケットエンジンの運転に用いる推進剤にはロケットの炎になれる推進剤と、なれない推進剤がある。後者は以下のようなものだ。極低温の推進剤のタンクや、流路となる配管や機器をあらかじめ冷やす(予冷と呼ばれる)ために用いるもの、流路の配管や機器を満たすためのもの、推進剤タンクやサンプに残留するもの、気化したものに大別される。こういった推進剤はロケットエンジンの運転に必要だが、ロケットエンジンの推力発生には直接的に貢献しない。こういったものはUNSUSABLE PROPELLANT(使用不能推進剤)と呼ばれる(JAXA用語で何と呼ぶのかは知らない)。
 この事情は地上での燃焼実験でも同様であり、ロケットエンジンで燃焼させなかった使用不能推進剤推進剤はどうにかして処分する必要がある。
 また、燃焼を伴わない実験でも処分すべき推進剤が発生する。

 液体酸素は大気に放出してしまって問題ない。雰囲気中の酸素濃度が極端に高くなる状況を避ける工夫を講じて大気開放を行う。
 問題は燃料である。常温で液体の燃料は適切に処理せねば環境汚染や災害をもたらす。最近流行りのメタンを環境に放出すれば、温室効果が云々と糾弾される時代だ。可能な限り再液化して推進剤として用いるなり、燃焼させて水と二酸化炭素に分解するなりの工夫が求められる(それは後の時代に魔女狩りのようだと嗤われる行為かもしれないが)。
 角田の実験場には「バーンポンド」と呼ばれる池があり、この水中に処分する水素ガスを放出する。池面を出た水素ガスは大気と混合し、パイロットバーナーの炎で着火、水蒸気として大気に放出処分される(池の水は炎の逆流を防ぐ簡易で確実なアイソレーターである)。気体水素の比重は非常に低いため、大気中に直接開放しても滞留が起こらず、火器から十分離れた地点から放出すれば直接的な問題は起こりにくいだろうが(静電気や雷、漏電などで着火した場合、放出系の破壊など厄介事が起きそうではあるが)、角田の実験場ではこのように処分している。 

特別な炎

 以下の部分(06:19以下)でこう述べている。

「本日の採火式で使用する種火は、JAXA角田宇宙センター内にある水素ガス燃焼処理設備で、今日の為に特別に発生させていただいたものであります。」
 水素ガス燃焼処理設備とは先ほど述べたバーンポンドを意味する。
 以下の部分(18:58以下)でこう述べている。
「ここ角田から届ける炎はロケットエンジンから放つ炎」
 今回の「ここ角田から届ける炎はロケットエンジンから放つ炎」に用いられた炎はパイロットバーナーの炎である。パイロットバーナーは天然ガス由来の炎を出す機器であり、ロケットエンジンから放つ炎ではない。また採火を行う際に水素ガスの放出は行っていないとみられる。水素ガスの燃焼炎は視認性が低いため、映像に写っていない可能性は0ではないが、燃焼ガスの温度が高いため、人間が近づくべき環境ではないだろう。

まとめと私見

 読売新聞社のみならず複数のメディアはエンジンの炎から採火したという現実とは異なる事実を報道した。
 「乗りものニュース」の金木利憲(東京とびもの学会)氏による記事はより現実に即した内容となっている。

 よって「東京パラリンピックの聖火」はオリンピックゲームズおよびパラリンピックの実態に即した虚飾の炎であった。実に烏滸。

 またソースとなる動画が非公開となった点は実にをかしい。現実と異なる事実を主張した動画をYoutubeというかりそめの図書館からさえ存在を夢と消し去ったという事実を伝える価値が、この記事に付加された。
 とはいえ、5つの「め」の町としては筋の通った行動であった。

 なお宇宙航空研究開発機構(JAXA)は日本国民に対して、その成果物の自由な利用を制限している(利用申請後、約1週間の審査を要する)。そのため記事中の画像は以下のサイトから借用した。
https://unsplash.com/

私には足があるので蛇ではない

「聖なる炎」を点けるところまでは100歩譲って20世紀に生まれたイニシエーションとして認めるにしても、「聖なる炎」を消すイニシエーションについては全く理解しかねる。正確に言えば理解はできるが共感は出来ない。
「乱痴気は今日でお終い。国に帰ったら仲良く戦争しましょうね」
というわけだ。
 そりゃそうだ。もしオリンピックやパラリンピックに現実問題の解決能力があるのなら、4年に1度と言わず、毎日開催すべきだし、むしろ誰もがそれを願うだろう。「水道の水は4年に1度出ればよい」などの考える狂人が居るだろうか?(偶に居るから困る)
 現実問題を何も解決しないと判っていながら、それでも皆が一緒に乱痴気騒ぎが出来る場としての価値をオリンピックゲームズおよび金魚の糞に求めているのだ。ヒットラーが一夜にして育て上げた近代五輪は、為政者達の政治的欲求の他に、大衆の承認欲求や開放感の充足に供されるのだ。

 なお日本の為政者達は五輪の効果として、運動の宣伝により国民が運動を趣味とする事で、国民が健康でいる期間を延ばし、よって国民の幸福感を増すとともに高齢化に伴う医療費の増加を防ぐという大義を掲げており、それが開催費4兆円(3200億円)を正当化する理由となっているわけです。

 聡明なる国民の皆さん!五輪に感化されて運動を始めましたね!

 かくだの火バンザイ!((!)この動画は再生できません。)

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