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「宇宙品質にシフトMOMO3号機」観覧サプリ

#MOMO3 #ロケット

 観測ロケット「宇宙品質にシフトMOMO3号機」の打ち上げを観覧するうえで知っておくと楽しい知識をご紹介します。

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・MOMO3飛行の目的

 MOMO3打ち上げの前後には花火が打ち上げられます。これはMOMO3にとっての客さん(ペイロードといいます)である高知工科大学インフラサウンド観測実験の一環で、観測用音波を作る為のものです。MOMO3号機はこの花火の音波を追いかけ、追い越しながら観測し、無線で地上へ送信するのが最大の目的です。

 その模様は下記動画にまとめましたのでご覧ください。インフラサウンドの概説とともに、独自開発シミュレータによる映像により構成されていおり、実際とは数%の誤差があります。またMOMO2の際の観察に基いた解説ですので、花火のタイミングは変わるかもしれません。

 副目的は株式会社GROSEBALの「とろけるハンバーグ」の温め(機体の側面温度は空気摩擦で数十度になります)、レオス・キャピタルワークス株式会社の「ひふみろ君」の宇宙空間への到達といったものです。

 インターステラテクノロジズ株式会社側の目的はMOMO自体の飛行実績作りは勿論、飛行中の機体各部のデータ取得(圧力・圧縮・振動・姿勢など)も含まれています。微小重力観測装置を搭載し、この実験も行います。微小重力(無重力状態)が分かると何なのだという方もいらっしゃるでしょうが、これは今開発中のZEROの為の実験であると想像されます。ZEROはMOMOと違って2段式ですので、1段目の燃焼が終わった後に上下で切り離さねばなりません。この際に1段目の推進力が残っている(微小重力状態ではない)状態で切り離してしまうと、1段目が2段目に追突してしまいます。これはロケット開発段階でよく起こるタイプの事故ですので、未然防止策として微小重力観測装置の実験を行うものと思われます。

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・カウントダウン(秒読み)って意味あるの?

 3...2...1...ロケットの発射といえばカウントダウンをイメージしがちですが、あれはいったい何なのでしょう?発射の警告?雰囲気作り?
 そういう面もありますが、実は打上げに欠かせない重要な役割があるのです。何故カウントダウンするのでしょう?カウントダウンの“0”とは何を基準にしているのでしょう?そこに注目します。秒読みの意味や操作を理解していると打上観覧がもっと楽しくなること請け合いです。
※MOMO-2打ち上げ時のタイムラインを追ったものであり、MOMO3号機でも一致するとは限りません。

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機体を射点へ搬入する時点では燃料タンクは空です。立ち上げてから電装品やバルブの動作確認、そして燃料の注入を行います。
 機体の最終的な動作確認、液体酸素やエタノール燃料の充てん、射点周辺や落下海域の安全確保が終わり、打上げの最終的なGO判断が下された時点で秒読みが開始されます。

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 秒読みの秒数はT-(ティーマイナス)何秒またはT+(ティープラス)何秒という風に表現されます。MOMOロケットでは発射(離床と言います)の5分前、T-300からカウントダウンを始めます。この時点でロケットは離床の準備が終わっていませんので、発射ボタンを押しても飛びません。
T-300
 MOMOは飛行管制と安全の為に無線を利用しています。地上と機体を結ぶ電波は地上側の指向性アンテナによって送受信され、アンテナが機体をとらえられなくなると電波の送受信が出来なくなり、安全設計によりエンジンが止まります。アンテナを機体へ向ける首振り装置は、タイマーによって機体の正常飛行時の位置を追いかける仕組みになっている為、このタイマーのセットを行います。
 液体酸素は蒸発し続けますので、待機中はそれを補うために地上設備から蒸発分を受け取ります。カウントダウン開始時には地上側の供給を止め、機体の液体酸素ベント弁を閉じるので、機体中央部からの白い噴気が止まることが確認できます。

T-200
 移動式発射台の液体酸素タンク冷却具と前部ナックルを開き、エンジンの噴炎から逃げる為に支持部を倒します。これらの操作が終わるとMOMOはエンジン脇の4つの爪だけで立つことになります。打上げの風速制限はこの状態で強風を受けると転倒する為、また打上準備や打上中止時の高所作業が法令により制限されるためです。

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T-90
 発射管制室から有線遠隔操作でMOMO内のヘリウムバルブを操作し、燃料と液体酸素タンクを30気圧程度まで加圧してゆきます。なお飛行中は機体コンピュータ制御で約28気圧に保たれます。
T-20
 機体側のカウントダウンを開始し、機体コンピュータを自律モードへ切り替えます。以降のタンク圧力調節や燃料バルブ動作はMOMO側の自律操作となり、人間はコンピュータの自律操作を継続するか止めるかを判断するだけになります。
T-12
 メインエンジン点火用のハイブリッド点火器へ液体酸素を流し始めます。液体酸素は配管内で温められ、気体の酸素として供給されます。
T-6
 液体酸素のメインバルブが開かれ、メインエンジンへ液体酸素が供給されます。エンジンノズルから白い噴気が出ることを確認出来るでしょう。
 そして管制室で発射ボタンを押します。これが最終的な点火シーケンスGOのサインです。もしこのボタンを押さないとハイブリッド点火器の点火が行われず、エンジンは点火せず、打上中止手順へ移行します。

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T-1.4
 ハイブリッド点火器を点火します。ロウと酸素が反応し燃焼ガスがエンジン内へ噴き出しますが、燃えるもの(燃料)が無いので点火はしません。

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T+0
 エタノール燃料のメインバルブを開きます。この操作が”秒読み”の原点になります。
 地上と接続している液体酸素供給管や通信ケーブル(アンビリカルケーブル)を切断します。
T+0.3
 燃料は約0.3秒でメインエンジン内へ噴出し、ハイブリッド点火器の火花で点火し液体酸素との爆発的な燃焼が始まり、燃焼ガスの反発力で推力が生まれてロケットは離床(リフトオフ)します。
 同時にエンジンとホットガスジェットの首振りの固定命令が解除され、自律姿勢制御飛行を始めます。

 これらの手動操作と自動操作を時系列で確実に行うために秒読みが行われているのです。
 打ち上げ後ロケットは自律制御で飛行しますが、この制御や環境の変化も基本的に時系列で進行してゆくため、状況把握の為にも秒読みはロケットの打ち上げに欠かせないのです。

・『えんとつ町のプペルMOMO5号機』の方式(2020/07/19追記)

観測ロケットMOMO4機目のフライトである、『ペイターズドリームMOMO4号機』以降、一部点火シーケンスが変更されました。ここでは『えんとつ町のプペルMOMO5号機』での動きを紹介します。

T-6
 GGG系統に酸素の供給を開始します。外見的にはロール制御RCSノズルから低温酸素による白い噴気がみられます。

T-4
 GGGを点火します。T-5秒にイグナイタが点火され、T-4.2秒に燃料が供給されることで燃焼が始まり、RCSノズルからの噴気は透明な低温ガス(400~500°C)に変わります。
 同時にメインエンジンの予冷が開始され、ノズルから白い噴気が噴き出します。これ以降は『宇宙品質にシフトMOMO3号機』と同じシーケンスとなります。

・エンジンの概略

 ロケットの構造の殆どはエンジンを動かす為の燃料や部品で、その体積はロケットエンジン本体を含めると90%以上を占め、ペイロード(お客さん)を積める空間は5%未満です。自動車は60%ほどが居住空間となっていますので大違いです。

 その肝心のロケットエンジンについての解説は公式でなされていますので、公式では解説されていない周辺について下図に示します。液体酸素パイプがエンジンの中央に刺さり、燃料パイプは二股に分かれた後取り付けられているのが特徴的です。ハイブリッド点火器は2本付いています。

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・あまり知られていない改善点

 MOMO1号機と2号機間でも多くの変更が行われましたが、MOMO3でも完全に別物と言ってよいほど多くの変更が行われています。幾つかは公式にアナウンスされていますが、それ以外の点を紹介します。

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・ヘリウムタンク部のストリンガ(縦の柱)が3本から5本へ増加しています。MOMO2とMOMO3のひふみろ君の顔を見比べると、ストリンガと外装のCFRPを止めるビスの配置が変わっている事が分かります。

・ハイブリッド点火器燃焼用の酸素供給が機体内部燃料から地上施設へ変わりました。機体内配管の短縮とバルブの削減による軽量化ができます。

・燃料タンク加圧ヘリウムの圧力調整部が立体的な組付けから平面的なモジュールに変化しました。下動画の1分30秒頃にCGで紹介しています。

・液体酸素タンクの低温や結露による電装品トラブル対策として、一部電装品がヘリウムタンク下に移設されました。

・地上設備側も充填装置の拡充や通信アンテナの強化、排水溝の設置など、ロケット運用の確実性の向上や環境対策が行われています。


・飛行のやま場

 MOMO打ち上げに限らずロケット打ち上げでは必ず強調される関門のうち3つを紹介します
・離床(リフトオフ)
 ロケットエンジンの点火はなかなかの曲者です。ガスコンロやライターでは点火時にボッと炎が過大に出る事があります。これは燃料が出た少し後に点火したために起こる現象で、安全上問題ありませんが少し驚いてしまいますね。
 ロケットエンジンでこのような点火をすれば燃焼室の圧力が過大(ハードスタートといいます)になり、エンジンはたちまち破裂してしまいます。ロケットエンジンはギリギリまで軽く作ってありますので、正常な燃焼の範囲で受ける圧力以上の力にはほとんど耐えられません。
 こういう事が起こらないよう、燃料が燃焼室に入り、酸素に触れた瞬間に点火させなければならない難しさがあります。先日(2019年3月)新型6t級エンジンの点火実験成功がニュースになったのも、こういった難しさを一つ克服したからなのです。

・Max Q(マックスキュー)
 最大動圧点とも呼ばれます。ロケットが加速するにしたがって空気が押し返す力(動圧)が増大します。と同時に、ロケットの高度が上がる事で空気が薄くなり動圧が減少します。この増大と減少の境い目、最も動圧が大きくなる速度と高度の組み合わせをMax Qと呼びます。
 MOMOの推力は1.2t(1200㎏)ほどですが、Max Qの際に受ける空気抵抗は機体先端(ノーズコーン、またはフェアリングともいいます)部分で120㎏以上、機体全体で150㎏程にもなります。地上では自重分の重さしかないノーズコーンが120㎏ほど余計な力を生みますので、機体構造にとって過酷な環境であり、見かけ上の重心が上がるので姿勢制御が難しい領域でもあります。
 Max Qとなるのは燃料を半分以上(400kgほど)消費した状態ですので加速が止まるという事はないのですが、加速が鈍ってしまいますのでロケットの燃費を落とす要因でもあります。

※数値は私的な計算によります。

・メインエンジンカットオフ(MECO)
 メインエンジン燃焼終了ともいいます。実はMOMOにとって燃焼停止自体はそれほど難易度の高いものではありません。しかし翼などで飛行できないロケットはMECOの段階で落下地点が決まりますので、それが予定した落下領域内に入っているかという安全上の関門になります。
 MOMOの後に控える軌道投入機ZEROでは落下する1段目がMOMOより遥かに大きく、MECOで確実に予定領域へ落とす技術が求められます。またMECO後に2段目の分離や点火を行いますので大事なステップです。

・おわりに

 打上観覧は正直なところ待機時間が非常に暇ですので、退屈しのぎになればと思い、この記事を書いた次第です。機体やペイロードに対する知識はあった方が楽しく観覧できると思いますので、シェアして頂ければ幸いです。

 この文章は個人が収集した情報を基に個人が書いたものであり、公式発表ではありません。情報ソースとしては採用せず、参考程度にとどめてください。

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