見出し画像

図書室の君へ。 #2


次の日、学校に登校した俺は下駄箱で上履きに履き替えていた。すると、筒井さんが現れた。


「あ、筒井さんおはよう。」



すると筒井さんがこちらを向き


「おはよう。」

と、返してくれた。


せっかく昨日の今日で会ったんだ。何か会話しておこう。


「そういえばさ、昨日俺もエッセイ買ってみたんだ。今頑張って読んでるとこ。」

俺は昨日のことを早速報告した。


「へー、そうなんだ。なんて人?」

筒井さんは話してくれる。


「ほら、この人。全然知らないけど有名な人かな?」

すると筒井さんは、「あー。」と言いながら


「この人面白いけど難しいでしょ。」

と少し笑いながら教えてくれた。


「確かに難しかったわ…。初心者向けでは無い感じか。」

「そうだねー、よかったら私が持ってる本…」


そうして筒井さんと並んで話しているといきなり

『○○君〜!おはよ!』


後ろから元気な声とともに肩を叩かれる。

「いててて…。清宮、朝から元気だな、おはよう。」


「なんだよ〜!せっかくレイちゃんが挨拶してやったのにテンション低いな〜!」

「いやお前が元気すぎるんだよ…」


いきなりやって来たクラスメイトの女の子と話していると

「あ、ごめんね筒井さん…あれ?」


気が付いたら筒井さんは遠くの方に歩いて行ってしまっていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


その後は筒井さんと特に話すことも無く放課後になってしまった。


今日は図書委員もないしやることがない。
まっすぐ帰ろう。

俺はいつもの通学路を歩いていると


ポツポツ…

「え?」


急に雨がザーザーと降ってきた。

「嘘だろ…」


今日は雨の予報はなかったはず。傘も持ってない俺は急いで駆け出すが。

「ヤバいってコレ…」


すぐに本格的に土砂降りになる。まだ学校を出て数分。このまま走り続けても10分以上は雨に曝されることになる。走りながら考えを巡らせていた俺の視線に喫茶店が飛び込んでくる。

一人で店になんて入ったことないがそんなことを言っている場合ではない。


俺は迷わずに喫茶店のドアに手を掛けると店の中に飛び込んだ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

―カランコロン


店内に入った俺はマスターらしき人に声をかけられる。

『いらっしゃい、大丈夫かい?』


髭がダンディーなオジサンだ。

「あ、えーっと…」


こういう時の勝手がわからない。俺が一人であたふたしていると。

『あれ?○○くん?』


「え?」

聞き覚えのある声のする方に顔を向けると、奥のテーブル席に筒井さんが一人で座っていた。


「や、やぁ筒井さん。奇遇だねこんな所で。」

俺はびしょ濡れのまま手を挙げて挨拶する。


「○○くん、大丈夫?」

「いや〜、急に雨降ってきたんだけど傘もってなくてさ。雨宿りしようと思って。」


俺は心配する筒井さんに明るく振る舞う。


『なんだ、あやめちゃんのお友達?』

マスターは驚いたような顔をする。


「あ、はい。○○って言います。筒井さんとは学校の同じクラスで、最近よく話すようになったんです。」

『そっか〜…あやめちゃん良かったね〜…。』


マスターは泣きそうな声で筒井さんに優しく語りかける。

「ちょ、ちょっとマスター、やめてよー。」


筒井さんは顔を真っ赤にしている。

…あれ、なんか可愛いな、これ。


『○○君、と言ったかい?あやめちゃんはね、親御さんの仕事の都合で今は一人暮らししてるんだ。友達が出来ないってずっと悩んでたから嬉しくてね…。』

マスターは続ける。


『でも今日、初めてお友達が出来たって嬉しそうに話してくれたんだよ。それが○○君だったんだね、私からもお礼を言わせてくれ、ありがとう○○君。』


そ、そんなに感謝されることをした覚えは無いが、改めて言われるとちょっと照れるな。

「も〜、マスターったら大袈裟なんだから〜」


筒井さんの顔はまだ赤らんだままだ。

『あやめちゃん、こっちに来てからほぼ毎日来てくれるんだ。たまに店も手伝ってくれてね。優しいし礼儀も正しいし、これからも仲良くしてあげてね。』


「はい!」

そのまま俺は筒井さんと同じテーブルに座る。


「な、なんか改めてマスターに言われると恥ずかしいね。」

俺は沈黙も嫌なのでとりあえず笑って話しかける。


「ホントだよ。も〜マスターったら。」

筒井さんはそう言って頬を膨らませる。


やっぱり可愛い。

「筒井さん、今日の朝はごめんね。せっかくお話してたのに。」


俺は朝のことを謝る。

「え?ううん、こっちこそ私がいたら邪魔かなって思っちゃって。ごめんね。」


俺たちは2人して謝る。それがなんだか可笑しくて。

また2人して顔を見合わせて笑う。


雨が上がったことにも気が付かないくらい、俺たちは何気ない話をして笑っていた。

「そういえばさ、今日筒井さん何か言いかけてなかった?」


俺はふと思い出したことを問い掛ける。

「あ、そうそう。私が持ってる読みやすい本貸してあげる。はい。」


筒井さんはそう言って一冊の本を俺に手渡す。

「お、ありがとう。読めるかはわからないけど頑張って読んでみるよ。」


「頑張ってねー。読んだら感想、聞かせてね。」

筒井さんは教室では考えられないくらいに笑っていた。


「ねぇ、筒井さん。連絡先交換しようよ。」

俺は携帯電話を取り出すと、筒井さんも「いいよ。」と同じように携帯を出す。


なんか、今までのどの人よりも一番緊張したかもしれない。連絡先交換するの。

筒井さんを見ると俺と同じように笑っていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

帰宅して荷物を部屋に放り投げるとベッドに勢いよく寝転がる。

「ふぃー。」

そしてふと携帯を確認すると…。

筒井さんから連絡があった。






『本日はお話してくださりありがとうございました。また明日学校でお会いしましょう。』

堅苦しっ!!!


こんなもん距離感を感じるどころの騒ぎでは無い。

『俺たち同い年なんだしそんな堅苦しくなくても、普段の話し方で大丈夫だよ?』


するとすぐに返事が来る。

『わかった、ありがとう。』


他愛ないやりとりをして会話が終わる。




明日はまた図書委員の日だ。






少しだけ楽しみだ。うん、少しだけ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?