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無口なライオン。 #1

―朝日が見えてきた 弱音はもう吐かない



夢を見ている途中だ
自分の好きな曲の歌詞が耳に入ってきた。
あれ?ここって曲の最後じゃ……



母「さくら!そろそろ起きなさいよ!」


あぁ、眠い…これが終わったら起きよう……




今日こそは………



母「ちょっと!遅刻するわよ!今日は入学式なんじゃないの!?」


あ…終わっちゃった…


でも待ってたらもう一回かかるよね。

うん、もう一回聴いてから……


母「もう!起きなさいってば!」

さくら「ひゃあ!」



強制的に布団を剥がされる。





今日こそは自分らしく生きる!





さくら「よし!忘れ物なし!お母さん!行ってきます!」


母「行ってらっしゃい。後でお父さんと一緒に行くからね。」


新しい制服に身を包みながら、私は駅までの道を駆け出していた。


申し遅れました。私の名前は遠藤さくら。
今日から華のJKになります。

いつも通っている道のはずなのに、今日はなぜだか新鮮に思えた。これがJKマジックってやつかな?違うか。



?『さくちゃ〜ん!』

駅に到着すると私の名前を呼ぶ声が聞こえた。


さくら「かっきー!おはよう!」

この子は賀喜遥香。


小学生の頃からずっと一緒に過ごしてきた私の大大大親友。


遥香「さくちゃん寝癖ついてるよ」

さくら「え?え?うそ?」


遥香「もー。どうせまたギリギリまで寝てたんでしょ?」

かっきーは私を見て笑っていた。


遥香「行こっか。入学式なのに遅刻するとマズイマズイ。」



人生初の定期券で改札を通り、駅のホームでかっきーと電車を待つ。

遥香「そういえばさくちゃんさ、部活は何にするか決めた?」


さくら「うーん、まだ決めてないかなー。私ってかっきーと違って得意なもの何も無いし…」

遥香「まぁまぁ、今日は入学式の後に部活発表会あるらしいし、そこで気になる部活があったら見学に行ってみれば?」


さくら「うん。そうする。かっきーはもう決めてるの?」

遥香「私は美術部かなー。でも、他に気になる部活があれば一通り見ていく予定だよ。」


さくら「かっきーならどの部活入っても即戦力だろうなぁ…」

それはお世辞でもなかった。かっきーは絵はプロ級の絵を描くし、運動神経も抜群。勉強も出来ておまけに明るい性格と可愛いルックス。中学の時も学校の人気者だった。


劣等感が無い訳ではない。でも、私だってやるときゃやるんだから。


そうこうしている内に電車がやってきた。

初めての満員電車で心が折れかけたが、なんとか学校の最寄り駅まで到着した。


さくら「うぅ…おじさんの肘がモロに……」


遥香「大丈夫?もうすぐ学校だから頑張って!」


かっきーと話していると大きな校舎が姿を現した。


『私立乃木坂女子高等学校』


今日から私たちが通う高校だ。

門の所には入学式と書かれた看板らしき物が置いてある。

遥香「とりあえずクラス分け見に行こ。」

二人で下駄箱に貼られている紙を見に行く。

さくら「げ!かっきーとクラス別じゃん…オワタ…」

遥香「ホントだ残念…。でもさくちゃん可愛いからすぐに友達出来るよ!大丈夫大丈夫!」

さくら「いや、友達に可愛いは関係ないでしょ…。」

遥香「あはは、じゃあ教室に行こっか。」



教室の前でかっきーと別れた私は自分の名前が書いてある席にポツンと座っていた。


既に教室では何人かの生徒が集まって話をしていた。


え、もしかして私、詰んでる……?


落ち着かない私は逃げるようにお手洗いへと向かった。


さくら「あーやば。もしぼっちになったらかっきーのクラスに逃げよう。」


手を洗いながらため息をつく。



教室に戻ってきた私はやることもないので携帯を開いてゲームを始めた。


ログインボーナスを貰おうと画面をタップしていると、後ろから急に声を掛けられた


?『そのゲーム好きなんですか?』


さくら「のわっ!」


?『のわって。あんたおもろい子やな。』


さくら「ご、ごめんなさい!」


幸い、騒がしい教室の中では特に注目は浴びてはいないようだ。


?『あ、ごめん。自己紹介まだやったね。私は早川聖来って言います。』


さくら「あ、遠藤さくらです…。よろしくお願いします。」


聖来「いや、私留年してる訳じゃないんやからタメ口でええよ。」


さくら「あ、うん。ごめん。」


聖来「気付いたと思うけど、私関西から来たから友達一人もおらんねん。愛が足りてへんねん。こんな可憐な美少女を助けたいとは思いませんか?思うよね?ありがとう。」

さくら「えぇ…これが本場のマシンガントークか…」

聖来「要するに友達になってくださいっていうことやねん。あんた見たところこのクラスで一番可愛いし、絶対人気出ると思うし。」


さくら「うん、友達になるのは大歓迎だけど理由が酷い。」

すると校内放送で、入学式が始まるというアナウンスがされたので、聖来と二人で体育館へと向かう。


隣のクラスからは大勢のクラスメイトと一緒に移動をしているかっきーの姿が見えた。


いや、さすがだなあの子。

聖来「そういえば遠藤さんってなんて呼べばいいの?」

さくら「友達からはさくちゃんって呼ばれてるよ。」

聖来「へぇ、じゃあえんさくで!」

さくら「それはやめて。」

聖来「はいはい。私のことは聖来でも早川でも好きに呼んで。」

さくら「じゃあ美少女で。」

聖来「やめろ!」

関西出身と言うだけあってかなりノリの良い子だ。

さくら「聖来ちゃんは部活決めてるの?」

聖来「んー、なんとなく気になるのはあるけどまだわからへんかなー。」

さくら「そっか。私もまだ決まってないんだよねー」


そして体育館に到着すると早速入学式が始まった。

校長の話がくたびれる程長くて、危うく寝落ちしそうになってしまった。


入学式が終わると、先輩達による部活発表会が始まった。

ソフトボール部やバスケ部などの運動部から、吹奏楽部や美術部などの文化部がそれぞれの活動内容や実績などを発表していた。


すると、急に体育館の照明が消え、ステージに一人の生徒が現れた。

そして、その生徒はマイクも使わずに歌い始めたのだ。


透き通るような美しい声に私は聞き入ってしまい、涙が零れそうだった。


これ、何部だ……?声楽部………?



生徒が歌い終わると体育館からは大きな拍手が送られた。


?『ありがとうございました。私は演劇部の部長、生田絵梨花です。現在部員は私一人で、このままだと廃部になってしまいます。演劇に興味のある人は少ないかもしれませんが、少しでも気になった新入生の方は、どうか部室へと足を運んでください。お待ちしております。』



さくら「凄い。カッコイイ……。」

私はそう思ったが、演劇なんて全く興味無いし、ましてや人前に立つことや目立つことの苦手な私にとって、縁のない話だと思った。



部活発表会が終わった後、教室では担任の先生によるホームルームが行われていた。

?『えー、担任の澤部です。バスケ部の顧問やってるので気になる方は見学に来てね。それではクラスメイトの自己紹介ターイム!』

順番にクラスメイトが趣味などの簡単な自己紹介を行った。


その後ホームルームを終えると、聖来と話していた。


聖来「どう?なんか気になる部活あった?」


さくら「う〜ん…特に……」


聖来「まぁこの高校、運動部が結構有名やから、興味なかったらそうなるよな。」


さくら「そういや聖来ちゃん、気になる部活ってどこ?」


聖来「私?私は演劇部。」

さくら「演劇部……」


聖来「生田先輩やっけ?めちゃくちゃカッコよかったよな。」

さくら「うん!それは確かにカッコよかった!けど、人前に立つとか苦手だしなー。」


聖来「部員一人らしいけどちょっと行ってみるわ。さくちゃんは先帰っててええよ。」

さくら「う、う〜ん。私も行ってみようかな…」


聖来「え?」

さくら「み、見るだけね!」

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