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天模様。




「ふわぁ〜ぁ……」




俺は通学路を一人、気だるげに歩く。




「○○く〜ん!おっはよ〜!!!」




背後から朝イチとは思えないような元気な声が聞こえる。




「あぁ…山﨑さんおはよ…」




「もー!元気ないなー!もう一回!おはようー!!!」




「お、おはよー!」




「よろしい!」




この子は同じクラスの山﨑天さん。




いつもクラスの中心にいて、ムードメーカーでもある。




そして誰にでも分け隔てなく接してくれるので、男子の中でも人気が高い。




俺も密かに憧れを抱いているモブ男の一人だ。




しかし、「天真爛漫」という言葉は、彼女の為にあるのではないかと思ってしまうほどに明るい。










天だけに。

















フフッwww










「あ!夏鈴おはよー!」



「おはよ。」



「声が小さい!もう1回!」




「もー、朝からうっさい。」




俺の少し前でそんな会話も聞こえてきた。







そのたわいないやり取りを聞きながら、俺は一人教室へと向かった。





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「はーい担任の澤部だよ〜ん!と、言うわけで来月の体育祭の実行委員決めま〜す!男女一人ずつなんだけど、立候補する人〜!」





誰に自己紹介をしたのかは不明だが、帰りのホームルームで澤部先生からそんな話題が上がった。





まぁ、俺は別に運動部でもないしパスかな。





「はいはいはい!やりたいやりたい!」





山﨑さんが元気よく手を挙げた。





「お、天ちゃんいいね〜。他、立候補いない?」





特に手は挙がらない。





「ほい、じゃあ女子は天ちゃんで決定〜!はい、男子は〜!」




皆、部活あるしな……などと後ろ向きだ。




「おいおーい!誰もいないのかーい?だんすぃー!!!」





澤部先生は相変わらずハイテンションだ。





あ、そういえば、今日から始まるドラマを録画してなかったのを思い出した。





多分すぐ忘れるし、お母さんにLINEしとこ。






えーっと、お母さんのトークルームどこだ?






「ふぅーん、○○ぅ。大事な話の時にLINEかね?」





「!?」









顔を上げると澤部先生が満面の笑みで立っていた。







「いいねぇ〜、その度胸。体育祭の実行委員にピッタリじゃないの?」







「は、はい…」








「はい!男子も決まり〜!!!」







「😭」







まさかの体育祭実行委員に選ばれてしまいました。






「○○くん、よろしくねー」






「あ、うん。よろしく。」





まぁ、山﨑さんと一緒だしいっか。楽しそう。






「あ、お二人さん。明日の放課後に早速委員会あるから3階の多目的室集合なー。」







澤部先生が教えてくれた。







せっかく憧れの人と何か出来るんだ。目一杯楽しもう。






俺は半分ワクワクしながらも、どこか緊張しながら帰路についた。







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次の日、予定通り実行委員会が始まった。





「皆さんこんにちは。体育祭実行委員長の増本でーす。皆でおもろい体育祭にしましょ〜」






増本さんは言い終わると何故か変顔をしている。





めちゃくちゃ不安だが、誰もツッコまないので俺もスルーする。






「なんや、ノリ悪いな。まぁええわ、とりあえず種目やねんけど、基本は去年とほぼ同じで、何個かこの実行委員で決めたいと思います。」






増本さんの言葉に教室が少しザワザワする。





「はいはい、そんなに喜ばへんの。とりあえず今日は各学年ごとに分かれてもらって何か一つ案を出してください。それが終わるまで今日は帰れません。私は本気です。この目を見てください。」






するとまた増本さんは変顔をした。





全員無視して話し合いを始める。




「とりあえず、何でもいいから出していこう。」




同級生の野球部が中心となって話し合いを進めてくれた。





「はいはい!やっぱり借り物競争とかが王道でいいと思う!」





山﨑さんが元気よく意見を言うが。





「ん〜…借り物競争って意外と盛り上がんないからなぁ…」





「準備も大変だしね。」





皆はあまり肯定的では無い様子。




「そ、そっか…」




山﨑さんは目に見えるように落ち込んでしまった。




その後は特にいい意見が出ることもなく、話し合いが進んでいく。




「○○は?何かある?」





野球部のやつが俺に話を振ってくれた。




「俺は山﨑さんが言ってた借り物競争をもうちょい工夫したら面白くなると思う。せっかく意見出してくれたんだから、もうちょっと考えてもいいんじゃないかな?」





俺は落ち込んでいる山﨑さんを気遣うように言葉を放つ。





「例えば、障害物競走の最後に借り物入れるとかどうかな?」





とにかく俺は、こんな山﨑さんの顔が見たくなかったので、喜んでもらいたい一心で意見する。




すまん皆、こんな不純な動機で意見しちゃって。




「なるほど、それだったら面白そうだな。」




皆、うんうんと頷いてくれた。




俺は心の中でガッツポーズしながら隣に座っている山﨑さんを見ると、下を向いて顔を真っ赤にしていた。




しかし、すぐに顔を上げると俺の制服の裾を摘み





「…ありがと。」




と、小さく呟いた。




そんな表情や仕草に思わずドキッと心臓が跳ねる音がした。






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その後、俺から出た「障害物競走」が正式に種目として採用されることになり、細かいルール設定等を山﨑さんと2人で担当することになった。




そして、そこまで決まったところで今日の委員会はお開きに。




「○○くん。」




教室を出ようとしていた俺に、山﨑さんが話しかけてくる。




「一緒に帰ろ。」






「え?あ、あぁ。いいけど。」





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俺と山﨑さんは、2人無言で歩く。





女子との会話方法なんて授業で教えてくれないので、俺は何とか話題を探そうとするが何も出てこない。





「○○くんってさ。」





思考を巡らせ続けていた俺に、ふいに山﨑さんが口を開く。




「…やっぱりなんもない!」




「えぇ…」  





その後も山﨑さんにいつもの元気さは無く、終始無言だった。




さすがにこれでは男が廃る。




何か会話するぞ。




「山﨑さんは、普段家で何してるの?」




とりあえず当たり障りのない話題を投げかけておく。




「けん玉。」




「……けん玉。」




意外すぎるアンサーに思わずオウム返しをしてしまう。




しかし、けん玉の知識が皆無な俺はそれ以上会話が弾むことはなく、分かれ道へと来てしまった。




「じゃあ、山﨑さん。また明日ね。」




「え?う、うん。また明日…」




俺は手を振ると山﨑さんに背を向ける。




「○○くん!」




しかし山﨑さんに呼び止められる。





「えっと…えっと……」




「?」





「や、やっぱり何も無い!バイバイ!」





山﨑さんは大きな声でその言葉を置き、全速力で走って行ってしまった。





…走るの速。






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次の日、山﨑さんの様子がおかしい。






「あ、山﨑さんおはよう。実行委員会のことだけどさ。」




「え!?う、うん!今ちょっと忙しいからまた後でね!ひかる待って〜!」




話しかけても逃げられる。




「山﨑さん。今日の放課後、借り物競争の事で話し合いたいんだけど。」





「え!?き、今日は保乃と遊びに行くからゴメンね〜!」




また逃げられてしまった。





…あれ、俺もしかして嫌われた?










「………………。」




「……ねぇ。」




「…………はい」




「その死にかけの顔やめて。気色悪い。」




「………藤吉さんひどいよぉ」




机に突っ伏していたら、隣の席の藤吉さんに火の玉ストレートを投げられてしまった。






「で、どしたん。」




「……藤吉さんって山﨑さんと仲良いよね。」




「うん。」




「俺ってもしかして嫌われてる?山﨑さん俺の悪口言ってない?」




「ぷっ!」




藤吉さんは我慢できないといった様子で吹き出した。




「もう直接天に聞いたらいいじゃん。」




「笑い事じゃないって…。話しかけても逃げられんだよ…」




「ふふっ。ほんとあんたたち似たもの同士だね。」




「意味わからん…」




「ねぇ、○○くんって、やっぱり天のこと好きなん?」




藤吉さんは急に真剣な顔になると俺に問いかける。




「は!?な、何でそうなるねん!?おかしいでっしゃろ!!」




「何その気持ち悪い関西弁。別に天に告げ口してバカにしようなんて思ってないよ。単純に気になっただけ。」




「ホントかよ…」




別に藤吉さんの事を信用していない訳では無い。




でも、自分の気になっている人を発表するのなんて恥ずかしすぎる。




ここは、はぐらかしておこう。





「ま、まぁ?好きか嫌いで言ったら好きだけどねぇ?」





「ぷっ!」




「な、なんだよ!」





「別に…(笑)」




舐めやがって…




「天と全く同じこと言ってるし…」




藤吉さんがボソッと呟いたことも俺には聞こえていなかった。





「それより、山﨑さんに言っといてくれよ。これじゃ実行委員の時も気まずいんだよ。」




「別にいいけど、そんなに気にしなくていいと思うよ?」




「何でだよ。」





「はいはい、ヒントは以上でーす。後は自分でなんとかしなさーい。」




「くっそ…」




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その後は2人での作業も藤吉さんたちが手伝ってくれてなんとか気まずくならずに済んだ。




でも、2人でちゃんとした会話は出来ないままである。




しかも、心なしか物理的距離も遠い気がする。




俺が山﨑さんに何をしてしまったのかは皆目見当もつかないが、傷付けてしまったのならちゃんと謝らないと。




それでも許してくれないならもう仕方ない。




「藤吉さん。」




「んー?」




俺は昼休み、決心したように藤吉さんに話し掛ける。




「俺、ちゃんと山﨑さんに言うよ。」




「お。」




「俺の気持ちを伝えれば、わかってくれるよね?」




「うんうん、大丈夫だと思う。」




「今日の放課後、屋上に来てくれるように伝えてくれない?」




「ん、OK。」





よし、ちゃんと誠心誠意込めて謝ろう。

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放課後、約束通り山﨑さんが屋上に姿を現す。




「あ、山﨑さん。来てくれてありがとう。」



「だ、大丈夫。で、は、話って何かなぁ?」



「えっと…」




こういうのは長々と喋るよりバシッと言った方が伝わるよな。



「もう、スパッと言うね?」



「う、うん。」




「ごめんなさい!!!」

「よろしくお願いします!!!」



『え?』



「な、なんて?」


「いや、こっちのセリフだよ。山﨑さんこそ何て言ったの?」



「え、だ、だって…」



「俺、山﨑さんにちゃんと謝ろうと思って…」



「も、もう!!!バカ!!!」



山﨑さんはそのまま走って屋上を出て行ってまった。



すると、入れ替わるように藤吉さんと同じクラスの田村さんが屋上に入ってきた。


「も〜○○くん、ダメだぞ〜。」


俺は田村さんにおでこを人差し指でピンっと突かれる。



「ま、こんなこったろうと思ってたけどね。」


藤吉さんは溜息をつきながら何か呆れたような様子だ。



「え、俺またなんかやっちゃいました…?」



「やっちゃったねぇ〜。男として。」


田村さんも笑っているが、何か言いたげな表情だ。



「もう、○○くんが天のことどう思ってるか伝えてきな!それでもわかんないならウチの天はあげないよ!」


そう言うと、田村さんは俺の背中を押す。


「さ、天は教室にいるよ。ひかるも一緒に居てくれてる。追いかけな。」



「わ、わかった!」



俺は言われるがまま、教室へ向かって走り出す。



「ほんと、保乃ってお人好しだよね。」


「えぇ〜?なんの事やろ〜?」


「ま、○○くんはめちゃくちゃバカだけど優しいしいっか。」


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「はぁはぁ…山﨑さん!」




俺が息を切らしながら教室に駆け込むと、隅っこの掃除用具入れの前で体育座りをしている山﨑さんがいた。



「お、やっと来た。○○く〜ん」




隣には森田さんもいた。





「じゃ、私は邪魔やと思うけん、後は2人でごゆっくり〜」



そのまま森田さんは教室を後にする。





「山﨑さん…」



「もう知らん…○○くんのアホ…」



「…関西弁出てますよ。」



俺は田村さんに言われた通り、自分の気持ちを紡ぎ始める。



「山﨑さん。俺は、何事にも一生懸命で、明るくて、皆のことを元気にしてくれるあなたの事が…」



ここで、深呼吸をする。









「大好きです!!!」





すると山﨑さんは涙を浮かべながら立ち上がる。


「もう!私も大好き!!!私のこと守ってくれて!!!あの時から!!!」



「ちょ、山﨑さん声デカいよ!」



「うるさい!」


そのまま山﨑さんは俺に抱き着いてきた。



「大好き!!!」




夕焼けに照らされた茜空が、2つの影を1つにした。



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そして、体育祭当日。


『続きまして、全学年の代表生徒によります!障害物競走です!!!』



俺は、障害物競走の代表者としてエントリーしていた。



『よーい!パァン!』



「うおおおおぉおお!!!」


俺は勢いよくタイヤを引きながら全力疾走する。



いつもなら、適当に流して参加していただろう。


でも今年は違う。


大好きな天にカッコイイ所を見せるのだ!


「○○くん速ーい!」



クラスのテントでは保乃が目を丸くしている。




「○○く〜ん!頑張れ〜!!!」


ひかるも○○に声援を送る。



「天も応援してあげてよ〜」


保乃は天をテントの最前列に引っ張る。





「だって…恥ずかしいよ〜…」





「あ、○○くん抜かれたよ。」





黙って見ていた夏鈴が呟く。





すると、天は思いっきり手を口にやって





「○○〜!!!!頑張れ〜!!!!!」





すると○○に声が届いたのか、トップに躍り出た。











「…愛の力だ。」


夏鈴がまたボソッと呟く。





「…ほんと恥ずかしい。」




天は顔を真っ赤にしていた。




そして、○○は最後の借り物ゾーンに入る。



紙を見た○○は勢いよくクラスのテントに走って来ると


「天!ちょっと来て!!!」



天の手を取ってゴールへと向かう。



「え?これってこれって〜!」




保乃は目をキラキラさせている。





「王道なあれやね。」






ひかるも心なしかワクワクしている。







『おっと、一番速かったのは○組の○○君だ〜!お題はなんだったんだい??』




司会の生徒にマイクを向けられる○○。





「俺のお題は……」














「声のデカい人です!!!!!」






クラスのテントに沈黙が流れる。







「もう!!!○○のアホ〜!!!」






「いってぇ!!!!!何すんだよ天!!!」



本気のグーパンチが飛んできた。







「ほんっっっとあの2人らしいオチだねぇ…」


テントの女子達も呆れ顔だった。







これから、幾度となく空を見上げるだろう。



でも、晴れの日ばっかりじゃ退屈だ。



雨模様の日があるから、明日の朝を待てるんだ。



喧嘩した日には一緒に傘を開いて歩いて。


楽しかった日は一緒に心を開いていよう。



そうやって、二人だけの空模様を見上げていよう。

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