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「サッカー終活」 2年 近藤快正

平素よりお世話になっております。
横浜国立大学理工学部2年の近藤快正です。この私の文をご覧になってくださっている皆様に感謝申し上げます。また、拙い文章ですが最後までお付き合いいただけるとありがたいです。

「向上心がない奴は馬鹿だ」
日曜日の昼過ぎ、横浜ビブレでストリート系の服を物色しながら、ふと夏目漱石の「こころ」の一節を思い出す。この一年間サッカーには向上心を持って取り組んでいなかった。1年生の頃は比較的まじめにやってきた。と思う。しかし、2年になってからはてんで向上心が湧かない。「もう部活やめようかな」そう考えながら何も買わずに店を出る。

ビブレの2階にあるスタバに行く。店内はカップルや友達で買い物に終えた人たちであふれていた。大事な土日のオフを使って近藤がここに来た目的はこのブログの文章を書くためである。自分の番が来て、かわいい店員をちらっとみてメニュー表を指さす。
「アイスコーヒーのトール、店内でお願いします」
「かしこまりました!店内用のカップにお入れしてもよろしいですか?」
「大丈夫です」
「390円になります!」
「スイカで」
ピッとタッチ音が鳴る。
「すぐお渡ししますので少々お待ちください!」
近藤はかわいい店員に目を合わせることができず、メニュー表をずっと見ながら受けごたえする。
アイスコーヒーを受け取り、空いている席を探していると、ちょうど制服を着たカップルが、カウンター席からどいた。誰かにとられまいとすぐに空いた席に座り、一息つきコーヒーを一口飲む。深い苦みが流れてきて、口の中に残る。

ラインを開き、送られてきたこのブログの要件を見る。「テーマ 昨年からの成長、首脳学年を迎える決意、締切11月3日」また、「明日が締め切りです」と催促のラインが来たのは昨日だ。

この一年間向上心なくサッカーしていたので、正直何を書けばいいか思いつかない。なんでもいいから書こうと思い、先輩のブログを見てみる。全員なにかしら目標を掲げてこの一年間サッカーをしてきたことが描かれている。先輩の文に感心するとともに少しの孤独感を抱く。僕と同じ思いでブログを書いた人はいないのだろうか。

何も書くことができず、サッカー人生を振り返ってみる。思えば、小学1年生のころ公園でサッカーを友達とサッカーをしていたことがきっかけで地域のチームに入った。当時は楽しくただがむしゃらにサッカーをやっていた。小学6年生では身長が174cmだったので、他の子よりサッカーが強く、中学ではクラブチームに所属した。このころから素直に楽しくサッカーができなくなっていた。高校は母と祖父の母校でもあり、文武両道の清水東高校に進学した。正直つらいことのほうが多かった。やめたかった。しかし、わざわざ横浜から静岡県の清水東高校に来て、裁量枠というスポーツ推薦と同等の方法で入学し、親から応援されていたこともあり、やめられなかった。大学ではやめると当時は考えていた。

高校3年の春、静岡県インターハイ決勝でPKを外し、チームは全国大会を逃した。耐えきれなかった。選手権まで残る選択肢があったのにもかかわらず、引退した。サッカーがない夏休みは勉強に手が付かず、円形脱毛症にもなり、責任に押しつぶされそうだった。横浜国立大学に合格できたのは奇跡に近い。受験を支えてくれた親には感謝している。そして卒業式の日、記念写真を撮ることになり、先生も含めたサッカー部で集まった。PKのことをネタにされ、少し涙目になりながらも最後の会話をした。先生は「大学でもサッカー続けろよ」的なのをみんなに言っていたのを覚えている。

大学に入学した。サッカーがしたくなかった。しかし、サッカーを続けることで先生に仲間にPKを許してもらえるのではないかと思った。近藤はサッカー部に入った。大学一年生でサッカーへの見方が変わった。監督がいなく、選手のみで運営するチームで、誰にも何も言われず、ストレスフリーにサッカーができた。サッカーが楽しくて、もっと面白いプレーができるように練習した。大学一年生が人生で一番サッカーが上達したと感じている。しかし、2年生になり状況が変わった。チームに監督が付いた。近藤はその時期になりAチームとBチームの間を行き来していた。チームは監督が決めた戦術をその通りにこなす選手が試合に出るようになった。またつまらないサッカーに戻ったと近藤は感じた。Aチームはリーグ戦であまり結果が出ず、監督はその原因が走り負けているからだとして、練習メニューの走りが多くなった。練習後の自主練の回数は日を追うごとに減った。そして、今に至る。

我ながら面白い人生を歩んでいるなと思うと同時にサッカーに囚われていると感じた。また、あのPKが今でもサッカーをやっている原因である。結局サッカーをやめられない。僕は他の人のように明確な目標はない。首脳学年になっても何一つ変わらないだろう。ただ、今年はサッカーをやめられる理由ができたらいいなと思う。そう思い、ブログの執筆を止める。気が付くと店内に夕日が差していた。残ったコーヒーを飲み干す。氷が解けて苦味は薄まっていた。

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