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18きっぷで福井競輪場に行ってきた。2週間くらい前の話。

競輪界の地域区分では、福井県は「近畿」扱いになっている。大阪在住の私には「準地元」ということになるのだが、競輪歴30年(くらいか…一応)で初めて訪れた。自動車も持たない貧乏人には、ふらっと行ける距離ではない。ただ、母の里が福井県の鯖江なので縁のある県ではある。子どもの頃は夏休みには必ず訪れた。10年ちょっと前、武生の小さな大学で集中講義のバイトをしたこともある。あの時は、楽しかった。誰かのつなぎの仕事で1シーズンだけだったが。

前日、めずらしく夜中まで寝付けず、3時間しか寝られなかった。仕事ではないんだし、取りやめようかギリギリまで悩みながらも、何とか起きて出かける。最寄駅のみどりの券売機で18きっぷを購入。残り4回分、どうしようかと不安になりつつ。7時半すぎ出発。大阪駅で新快速に乗り換えると敦賀までそのまま行ける。ちょっと前なら考えられない。以前は、JRの運転形態の区分で滋賀県南部と滋賀県北部との間には大きな壁があったのだ。

寝不足で意識はぼんやりしていた。20年前に前編で挫折していたドストエフスキー『悪霊』を再読し始めていたので、ウィキペディアを元に印刷しておいた登場人物表を見ながらちらちら読み進める。琵琶湖の景色。昨夏も18きっぷで敦賀経由で小浜線に乗るという日帰り旅行をしたのでその時見たことを思い出す。ここ数年、生活の変化が薄く、若い頃のことも脳が溶けているかのように忘れてしまっているため「思い出すこと」がとても小粒になっている。何か事件があったわけでも、それほど印象深かったわけでもない、ほんのちょっとしたことを「あの時、ああだったな」と思い出すようになっている。

あっという間に敦賀。ここで、北陸線に乗り換え。ホームに降りて寒さに驚く。大阪では、セーターなんて着ると汗がでるような暖かさだったのに、一か月くらい前の気候だった。雪こそ降ってなかったが、日本海側を舐めてはいけないなと学ぶ。薄いダウンジャケットもどきは一応リュックに入れていたが、防御力は足りなかった。このあたりの普通電車は、一時間に一本という感じになる。連結も少な目で、そのため結構混んでいる。もっと便数も増やせばいいのにと思うが、儲からないからこうなっているのだろう。新幹線が開通するとこのルートも3セクになり18きっぷが使えなくなる。今さら新幹線もないだろう、と思うが。

鯖江でスーツケースを持った女性旅行客がかなり乗って来た。なんだろうとツィッターでつぶやくと、地元在住の大学時代のサークル仲間が、東方神起のライブがあったと教えてくれた。そう言われると、韓流ファンの雰囲気。昔の鯖江を知っているので、こんな田舎で大スターのライブがある、ということに違和感があるが、そういえば、KARAなんかもツアーで来ていたなと思い出す。都会よりは会場費も安いが、熱心なファンなら追いかけて来られるくらいの場所ということで、ちょうどいいのだろう。

福井といえば恐竜、ってことになっているのね

福井駅はもしかしたら初めて降りたかもしれない。寒さとまともに朝食べてこなかったのとで、温かいものが食べたくなり、改札を出てすぐにあった駅構内の今庄そばの立ち食いに吸い込まれる。このあたりの蕎麦は、大根おろしをぶっかけて食べるのが主流だけど、温かいかけそばにする。味は、ぜんぜんだった。350円は高すぎ。ちゃんと美味い所検索して入るべきだったと後悔する。駅前の恐竜などをちらっと見る。恐竜依存がすごい。駅前の景色は、思ったよりも都会に見えた。

競輪場までの移動は、一時間に一本だけ無料の連絡バス(通称オケラバス)が出ているが、結構またされるし、折角だから街を見ようとレンタサイクルを考えていた。2月までは電動自転車のレンタルが一日500円だったのが3月からシステム改正があり倍以上の値段になったらしい。シェアサイクルのシステムを導入したそうで、そんな都会的な仕組み、自動車依存の地方都市で需要があるのか疑問だが、おしゃれっぽいことをやりたかったのだろう。他にないかと調べたらJR西日本のレンタカー事務所で普通自転車を500円で貸しているのを知り利用した。

寒くなければ快適な道だった

知らない街を自転車で走るのは楽しい。しかし、寒すぎた。小雨も降ってきて、こりゃかなわんな、となった。ダイソーでもあったら、手袋を買おうと思うも、都会っぽく見えたのは駅前の少しだけで、そのエリアから出たら寂しい感じだった。百均、ないことはないが遠回りになりそうなので却下。競輪場の方に向かうことにする。コンビニもまばらだろうと思い、たちよれる範囲にある唯一つのファミマを探し、よってコーヒーを買う。店の前で飲みながら地図の確認。足羽川にかかる橋を渡る。寒々とした流れだ。堤防沿いの道の方が景色がよさそうだと選ぶ。桜並木だったから咲いている時に来たらきれいだろう。10分程度で競輪場に到着。競輪場はどこも似た雰囲気で、初めて来たという気が全くしない。

入り口の前に二人くらいは警備員がいたが、客はまばら。到着した時と同時に、福井駅からのオケラバスが到着したから、10何人くらいの客が一気に入っては来たが。平日の普通開催だから、こんなものだろう。30年以上前なら、ぞろぞろ客が集まってきて、善良な市民たちからはちょっと煙たがられながらも、非日常な雰囲気を醸し出していたはず。オンライン化で売上げは回復しているが、場所としての競輪場は終焉に向かっていると思わざるを得ない。

施設内は、思ったよりも奇麗だった。(よく知る奈良競輪場・向日町競輪場に比べて…)無料で雨風をしのげるエリアも広かった。その辺はさすがに雪国だからだろう。施設内に入ると、脇本雄太選手と柳原真緒選手の大きな写真幕が掲げられている。去年のグランプリは男子も女子も福井県所属の選手が勝利したのだ。福井競輪場は、今、日本で一番強い選手を抱える競輪場ということになる。

日本一強い・競輪場/福井競輪場

スタンドに行って様子を見る。メインスタンド以外は、閉鎖されていた。奈良・向日町同様、老朽化と警備員削減のためだろう。まぁ仕方がない。スタンドからは見やすいように感じた。有料の特別観覧席というのがあるが、折角のライブの迫力が半減するからあまり好きではないので私はめったに利用しない。

どんよりと曇った天気。スタンドから全体は見渡せる。

ひとつレースが終わり、次に走る女子選手の挨拶周回が始まる。青木美保選手に「青木さん、がんばれー」と声をかける。以前、門脇真由美選手のコーチである城本量徳さん(知る人ぞ知る元自転車競技トップ選手)から、第4コーナーの金網から声を掛けたら選手には一番届くのだ、と教えてもらった。それ以来、声援を送りたい時は、そのあたりから見るようにしているが、第4コーナーのスタンドは閉鎖中のため、仕方なくメインスタンドの一番コーナーよりの場所からにする。

放送ブース。見物している人もほとんどいなかった。

レースまで、場内探索。やはり初めてなのに、お馴染みの気分。昭和の公共施設感。ネット中継のスタジオが作られていて、市田佳寿浩さんが解説者として予想を出している。市田さんは元トップ選手で、女子グランプリ王者になった柳原選手の師匠でもある。見るからに優しそうな好人物でファンも多い。そういえば、と、市田ファンの元受講生を思い出し、写真をラインで送る。ネット番組の司会をしていたのは、佐藤さやかさん。10年以上前、奈良競輪の裏方で働いていた方に誘っていただいた飲み会でご一緒したことがあったな、と思い出す。その頃の自分は、こういう方たちにどんな話をしていたのだろう。全く思い出せない。

前日落車があり6車立てだった。青木美保選手は黒の2番。

ガールズ予選の一つ目が始まる。青木美保さんは3番人気くらいか。しかし、最近好調でメンバー的に一着も十分期待できると、頭からも数点車券を買う。スタート地点。「安全のため」ということで透明なボードで囲われているところもあるが、ここは昔ながらの金網。ガールズの時はいつも写真を撮ろうと集まるファンが増えるが、全体の客が少なすぎたからかこの日はそうでもなかった。出走選手全員応援したいところだが、今日は泣く泣く青木さんだけに声援を送る。スタート後、声援ポイントに移動する。わざわざこのために来たのに、あまり大きな声が出ないのが情けない。競輪場には野次がつきものだが、客が少なすぎて、がんばれー、たのむぞ、というような穏当なのがポツポツ聴こえる程度だった。

青木さん、私のか弱い声援に応えて好走してくれるも、最後は一着まではとどかず、本命決着になった。車券はトリガミ。このレースを見るために、時間も合わせて来たので、終わってふと我に返るような気分。次のレースは、ガールズの二つ目。グランプリを獲った地元の新星・柳原選手。期待通りに快勝。地元選手が勝つと、レース後、ファンの前で挨拶をするというサービスがあった。数人集まってきて、拍手を送る。柳原選手は、強くなり、雰囲気もどんどんカッコよくなっているよう。女子高の人気パイセンのような爽やかさで、さっそうと引き上げていった。

さわかやに引き上げる柳原真緒選手。

無料の湯茶サービスはどこの競輪場でもあるが、ここでは、ホットミルクティーまであった。奈良にあったひそかにファンの多い梅昆布茶もあった。昼前に駅で中途半端にかけそばを食べていたが、小腹が減ってきて、記念に何か食べようと食堂に。事前にネット検索をしたら、こういう場所の食堂としてはなかなかのものが出る、みたいな情報があった。調理場をぐるりと囲うカウンターが二つの、いかにも公営ギャンブル場という食堂。客は数人。値段は高い。勝った客しか来ないから、どこもだいたい高めの設定だが、これだけ客が少ないと相当高くしないと維持できないのだろうとも思う。

ちくわ天270円は…
かき揚げ丼

かき揚げ丼720円を注文。思ったのと違い卵とじだった。不味くはないが、やっぱ高いな。駅そばといい、これといい、飯の選択間違えたと思うも、まぁ「旅行」だしいいかと諦める。働いているのはおそらく70代以上くらいの女性が数人。客の顔見て「ひさしぶり、どうしてたの?」みたいなやり取りをしていた。おっさんの客(くせで「おっさん」と書くが自分ともうそんなに歳が違わないんだろうな、と思いつつ)が、福井弁で応じていた。最初に書いた通り、子どもの頃、休みの度に耳にした懐かしい方言。母ちゃんの訛りなつかし博打場の閑古鳥の中にそを聴きに行く。母親、普段は弱大阪弁だが。おっさん客は、柳原真緒さん目当てで来たよう。明日も応援に絶対来ると言っていた。二人組でひとりは競輪に詳しくないようで、詳しい方がラインやら展開やらいろいろ詳しくレクチャーしていた。こういう場面も懐かしかった。

男子のスタート

あんまり買うつもりはなかったのだけど、その後のレースもちょっとずつ買い続け、ほとんど当たらない。最後のレースまで見て帰路に。外れ車券の後悔が頭にちらつきながら、寒い中自転車を走らせた。いつかまた来るような気もする。折角のレンタサイクルだから福井市内をいろいろ見てまわりたいが、日帰りなのでそうも言ってられない。福井城跡に府庁がある。田舎は前近代とつながっているんだなぁとあらためて。まぁ大阪だって大阪城の近くに府庁舎などは集まっているんだから同じか。路面電車の線路が縦横に通る大通り。この景色ははるか昔に見たことがある。子どもの頃は電車が好きだったから、鯖江の婆ちゃんちに行った時に、親か親戚の誰かにこの景色を見に連れてきてもらった、ような気がする。乗りたい、と言って、乗せてもらったこともあったと思う。ぼんやりした記憶だが。

福井鉄道は福井駅近くでは路面電車になる

レンタサイクルを返し、駅で出発まで時間つぶし。6時前の敦賀行きに乗って帰る。駅構内にスーパーがあって、不知火が安かったから買って帰る。福井で和歌山産のミカンを買うのも変だなぁと思いながらも、安かったんで。150円くらいのパウンドケーキが材料もよくて美味そうだったからお土産代わりに一つ買う。福井の福祉施設で作ったものだったよう。乗換の敦賀で20分くらい時間があったから駅のコンビニによって缶チューハイを一本買い、呑み鉄気分を味わい帰ってきた。(終わり)

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