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「過労自殺」と「本人の性格」

神戸市東灘区の病院「甲南医療センター」で勤務していた26歳の男性医師が昨年5月に自殺し、本年6月5日付で西宮労働基準監督署が労災認定したとのことです。
報道によれば、死亡直前1か月の時間外労働は207時間50分で、3か月平均でも月185時間を超えており、自殺するまで約3カ月間、休日が1日もありませんでした。
正に、「常軌を逸した過酷な労働」であり、労災認定された以上、使用者の安全配慮責任は免れないでしょう。

さて、過労やメンタルヘルス等の問題が生じた際に、当該労働者のパーソナリティ(性格や個体的脆弱性)を挙げる経営者や労務管理責任者は少なくありません。
確かに全く因果関係が無いとは申しませんが、裁判所が労働者の性格をどのように評価するか、ご参考に判例をお示しさせて頂きます。

「企業等に雇用される労働者の性格が多様のものであるということはいうまでもないところ、ある業務に従事する特定の労働者の性格が同種の業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものでない限り、その性格及びこれに基づく業務遂行の態様等が業務の過重負担に起因して当該労働者に生じた損害の発生又は拡大に寄与したとしても、そのような事態は使用者として予想すべき業務の内容等を定めるものであり、その際に、各労働者の性格をも考慮することができるのである。したがって、労働者の性格が前記の範囲を外れるものでない場合には、裁判所は、業務の負荷が過重であることを原因とする損害賠償請求において使用者の賠償を決定するに当たり、その性格及びこれに基づく業務遂行の態様等を、心因的要因として斟酌することはできないというべきである」

(H12.3.24 最高裁判決)

「常軌を逸した長時間労働及び同人の健康状態を知りながら、その労働時間を軽減させるための具体的な措置を取らなかった過失がある」とした東京地裁の判決を最高裁も是認しました。

多様な個性から逸脱するような性格とまでは言えない限り心理的要因として斟酌しない(過失相殺しない)との事ですから、よほど特別なパーソナリティであると客観的に認められない限りは損害賠償に当該労働者の性格が影響することはないと考えて良さそうです。

  〔三浦 裕樹〕

Ⓒ Yodogawa Labor Management Society


社会保険労務士法人 淀川労務協会



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