夜叉天楼~血まみれのけだもの達~

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 おれの周囲は、すべて写真に変わった。

 商売女の悲鳴。
 監視カメラの視線。
 落ちる酒瓶。
 跳ね飛ばされるドア。
 通りを行く人々。
 呼吸が荒い。張り詰めた神経のせいで肩はこわばり、口は潤いを忘れた。足はただ一つの命令に従い、前進を続ける。

 動け! 〇・一秒前よりも先へ!

 首から上はまるで別人のものになってしまったかのようにちぐはぐだ。興奮がもやとなって脳を覆っている。まぶたが重い。因果を投げ捨て、眠ってしまいたかった。
 郷愁を想起させるコーラスが脳裏で反響する。
「頼む、頼むぞ麻太郎!」「きっと、見つけてくれ! おれたちの家を!」

 あら?

 地下道を行くおれの体を、何かがぐいとひっぱった。
 目の前には、おれの背丈の二分の一程度しかない、小柄で、汚い老人が一人。不幸なことに、顔見知りだ。
「合格だ。流れのぼうや――欲しいものは全てここにある」
 老いぼれは、宙を浮いている。
 異国の摩天楼で、おれは、人を殺め、けだものになった。【続く】

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