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独学研究のススメ(レファレンス協同データベースを読もう)

「レファレンス協同データベース」

レファレンスとは本来「参考」を意味する単語ですが、一般的には「図書館や資料館できる情報探しのお手伝い」といった意味で解釈されています。ここでは当然、後者の意味で触れていきます。
 
レファレンスサービスのやり方に関してはまた別の機会に触れますが、レファレンスサービスの判例や事例は図書館や資料館共通の財産として共有され(余りにも個人的な話や問題的なものは除かれてますが)、「こんな質問が来たらどうするか」「こんな疑問にどうこたえるか」といった難題に答えられるようになっています。

そんなレファレンスをデータベースにしたのが「レファレンス協同データベース」です。書いて字のごとくです。

このサイトは様々な図書館と連携を結び、各館に訪れたレファレンスへの質問や疑問、そしてその解答例を掲載しています。

「これまでの質問や頻出する疑問を上手くまとめ、解答を円滑に進める」といった面では、受験でお馴染みの参考書や赤本に近い趣があります。

人に例えれば「その道の権威というわけではないが、頻出問題や基本的な疑問をよく押さえており、何を聞いてもキチンと答えてくれる講師」とでもいうべきでしょうか。

余りにもニッチな問題、専門的な問題には解答例や解決方法が出ていない場合もあるのですが、基本的な質問やつまずき、「あれそういえばどうしてこれはこんな風になっているのだろう」といったこの世の中にある身近な疑問や概念を、Q&A形式で見る事が出来ます。

その回答はたった一言の物から、何千文字という大作まで多々あり、身近なワードを調べるだけでもなかなか見応えがあります。

普通の図書館でも参考にして使われているくらいですから、信頼性は相応にあります。

中には「わからない」といった調査不足が出ている点もなきにしもあらずですが、参考文献や参考にした資料等がしっかり明記されており、ここから新たな視野を広げる事は可能です。参考文献をしっかり置いてもらえるだけでも相当にありがたいものです。
 
すべて参考にできる……というわけではありませんが、それでも下手な新書やカルト本を読んで変な思想に取りつかれたり、つまづいたりするよりはマシです。
 
また全国から事例が次々と寄せられる事もあって、ネタが尽きる事がないのも大きなメリットでしょう。

定期的に見るだけでも「オヤ、こんな質問があったのか」といった気づきが今なおあったりします。その更新頻度や更新の量も親しみや信頼性を持たせてくれます。
 
レファレンスにはどうしても限界があるため、「専門家に近づくための知識」や「自分の謎の根幹を言い表す答え」といった核心的な問題を取り上げられないのが数少ないデメリットでしょうか。
 
ただ、無料で使える上に検索機能もそこそこ優れていて、面白い読み物やレファレンスも多いため、変にねだるだけ野暮なものなのかもしれません。
 
知っていて損はないサイトだと思います。

独学研究の領域とは少し外れますが、このレファレンス協同サービスで是非一読してもらいたいものがあります。

それが、利用者がうろ覚えでレファレンスに質問を持ち込む「うろ覚えシリーズ」です。これは、本当に傑作です。

『むちむちのき』はありますか。(本当は『もちもちのき』)
 中島京子『かたつむり!』はありますか(本当は『かたづの!』)
 『人は皮膚で癒される』(山口創/著、草思社)を読みたい。(本当は『人は皮膚から癒される』)
『月好きの下剋上』というタイトルの小説を探しています。(本当は『本好きの下剋上』)
江戸川乱歩の『だんごむし』はありますか。(本当は『芋虫』)
池井戸潤の小説だけどタイトルが思い出せない(相談の結果「陸王」と判明)

 こんなうろ覚えな質問から、相手が求めている本や資料を探し出すのですからすごいものです。これは一つの読み物として普通に読めます。中にはすごい間違いをしていて吹き出してしまうものもあります。
 
しっかりとした知識体系を身に着けるにはまず正しい知識や言葉を知るべき――と考えているのですが、そうした簡単なつまずきや疑問さえも図書館や資料館の司書さんは侮蔑も冷笑することなく、大真面目に取り組んでくれます。

そんな影の努力の人が、日本の学術を、読書を、書籍、図書館を司っているのです。

「もっと給料や待遇をよくしたって罰は当たるまい!」と愚痴ってもいいでしょう。いや、本当にすごい事だと常日頃から強く思っております。
 
しかも、単なる言い間違いや記憶違いで「多分これだろう」と簡単にわかる問題だけにとどまらず、結構深い問題にまでとりくんでキチンと回答を行う姿には頭が下がります。

時には古文や洋書まで読んでその疑問に答えようとするのですから、日本の学問の根幹はこうしたレファレンスにある――と明言してもいいでしょう。
 
レファレンスを知ることは、日本、ひいては世界の知識の地盤を支える人々の苦労やすごさを知ることに繋がります。それを知れば知る程、知識をなおざりにしてはいけないという事を悟っていただけるのではないでしょうか。
 
資料的価値・学術的価値という点においては他のデータベースに劣りますが「色々な世界で色々な人が色々な本を探している」という面を知る――いわゆる、「蜘蛛の巣状に広がる知識体系」を目の当たりにする事の出来る貴重なサイトではあります。

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