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温暖化対策は柔軟に。

2023年9月27日。
内燃機関車の販売禁止時期などを延期するとした英スナク首相の方針が注目を集めている。地球温暖化対策を主導する欧州の野心的な政策が大きな壁に直面していることが浮き彫りになったためだ。すなわち民意である。ガソリン車などの販売を2030年から禁止するという政策はそもそもブレグジットを煽ったジョンソン元首相が切った大見得であり、35年への延期は現実的な軌道修正と言えるだろう。

ドイツでは5賢人委員会(政府の経済諮問委員会)のヴェロニカ・グリム委員が迅速に反応した。同氏はフランクフルター・アルゲマイネ紙に、英国の事態を警鐘だとしたうえで、「わが国でも政策措置の撤回で政治的にポイントを稼げるだろう」と明言した。特に住宅暖房政策は社会的弱者を置き去りにしていると指摘。社会の二極化を避けるためにCO2への課金を通して得られる収入を気候手当(Klimageld)の形で市民に再分配するという与党の政権協定に盛り込まれた政策を速やかに実施するよう促した。

ロストック大学のヴォルフガング・ムーノ教授(政治学)は、温暖化防止に取り組むこと自体は市民の多くが支持しているものの、その実現に向けた具体的な政策になると支持率が低いという総論賛成・各論反対の傾向を挙げる。

目標を設定したうえで、その実現に向けて体系的・戦略的に政策を構築することに欧州は長けている。ただ、脱炭素政策のように社会全体を大きく変えるものの場合は具体策を展開していくなかで想定外の問題がほぼ不可避的に出てくるだろう。そうした場面で問われるのが政治の柔軟な対応、つまりは目標へと向かう道筋や速度を、現実を踏まえて変更することである。

60年以上前の映画『キューポラのある街』に、吉永小百合が演じる主人公が「1人が5歩進むよりも、10人が1歩ずつでも前に進む方がだいじなのよ」と述べる場面がある。社会の進展から取り残されやすい人々を置き去りにする1人が5歩進む政策は目標が正しいものであってもうまくはいかない。極右政党AfDの支持率急上昇はある種のバロメーターであり、これを軽視すると大きな痛手を受けることになる。



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