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ドイツ電動車補助金事情

2023年7月26日。
独経済省が電動車補助金の総額を少なくとも4億ユーロ上乗せするというニュースを読んで思わず笑ってしまった。昨年7月に今年の補助金方針を打ち出した時点では、総額を21億ユーロとし、予算枠を使い切った時点で受付を打ち切るとしていたからである。背に腹は代えられないのだろうと思った。

ドイツの新車登録は大幅増が続いている。これはサプライチェーンのひっ迫で積み上がった受注残の消化が進んでいるためである。

一方、新規受注は6月が前年同月比20%減、1~6月が前年同期比27%減と大幅に落ち込んだ。受注残という「遺産」を食いつぶしてしまうと新車登録は再び減少するという悪夢が現実味を帯びている。コロナ禍前の水準回復は見果てぬ夢となりかねない。

新規受注は特にBEVで低迷しているもようだ。内燃機関車に比べ高額なうえ、電力料金の高騰を受けて魅力も急減しているのである。VWのエムデン工場でBEVの減産体制に入っていることはその兆候と言えるだろう。満を持して投入したセダン「ID.7」の販売もさえない。同じくBEVを手がけるツヴィッカウ工場でも有期社員を8月から削減する。

こうした状況のなかで補助金を打ち切れば需要の減少に拍車がかかるのは確実だろう。BEV市場の成長が腰折れとなるだけでなく、炭素中立実現に向けたシナリオも狂いかねない。エネルギー価格の高止まりを背景に産業基盤の先行きに懸念が出ているなかで、主力産業の自動車で雇用情勢が悪化するようだと経済の地盤沈下は避けられない。

経済省は昨年、予算枠を使い切ったとして省エネ住宅補助金の受付を打ち切り、消費者などの強い批判を受けた。ハーベック経済相が所属する緑の党は現在、原発廃止や住宅暖房規制の強化法案が響いて人気が地に落ちている。今年度の電動車補助金の受付を終了するのはリスクが大きいと恐らく判断したのだろう。

資金は同省の他の予算からの振り替えで確保する。リントナー財務相(FDP)はコロナ禍とロシアのウクライナ進攻で膨らんだ歳出の削減に血まなこになって取り組んでおり、補正予算を組むことはさすがにできないのである。

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