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29 朝起きて、ファイティングポーズ。

いきなりだが、最近よく見る夢について話してもいいだろうか。

大歓声の中、「立て〜!立て〜!」と誰かに叫ばれている。
声だけが聞こえて、立ち上がろうとするがなかなか体に力が入らない。

怪我をした時の、あの瞬間に似ている。

大きかった歓声が急に静まり返り、何も聞こえなくなったと思ったら、だんだんと声が聞こえてくる感覚。

あのときも膝を抱えながら自分の鼓動だけが鳴り響いていて周りの声は全く聞こえてこなかった。

引用元:B.LEAGUE

少し時間が経つと周りの声援だったり、心配する声が聞こえはじめた。

でも、今倒れ込んでいる僕の視界に映っているのはバスケットコートの床ではなく見慣れない場所で、怪我した右膝だけではなく、全身が痛くて重い気がする。

「これが金縛りってやつ?」
夢の中だということは自覚していている。明晰夢だ。

カウントが数えられる中、やっとの思いで立ち上がると万雷の拍手が響きわたる。

どうやら僕が立ち上がったことは賞賛に値するものだったらしい。
ちょっといい気分になりかけたのも束の間。

ふと前を見ると自分と同じくらいの背格好の敵が、鍛え抜かれた肉体から汗を噴き出しながら、小刻みにステップを踏んで立っている。

そして、あっという間に距離を詰められ、拳を振り抜いてくるではないか。

そこでやっと気づく。

「あっ、なるほどね。ボクシングの夢ね!」

気づいた頃にはもう遅い。

僕は真正面から右ストレートを吸い込まれるようにくらって、天地がひっくり返るかの如く宙を舞うように倒れてしまうのだが、その時口から何かが飛んでいくのがスローモーションで見えた。

さっきと同じ体勢でリングに倒れ込んでいても、今回は「立て〜!」とは叫ばれないからセコンド側は諦めたんだとわかった。

というか、セコンドは誰なんだ。知り合いなのかが気になる。

声は聞いたことがあるようなないような。
何度か同じ夢を見たけど、毎回セコンドの顔を見忘れてしまう。

レフェリーのカウントが数えられていく中で、だんだんと視界がぼやーっと薄れていって、気づけば夢から覚めている。


同じ夢を何度か見るものだから、Googleで夢について調べて見ることにした。

夢を見る理由は諸説あるが、普段の生活で起きた出来事や脳に蓄積したあらゆる情報を整理するために夢を見るとされていて、脳内に溜まった過去の記憶や直近の記憶が結びつき、ストーリーとなって映像化したのが「夢」だそうだ。

「見たらやばい夢ランキング」というのもあったので気になって検索すると、第2位に「歯が抜ける夢」とあった。

歯が抜ける夢は、多数ある夢の中でも特に注意が必要な夢とされており、心配事やトラブルが襲い掛かったり「家族」に不幸が訪れることを暗示している可能性があるそうだ。

夢の中で相手選手に殴られた衝撃によって僕の口から飛んでいった物体が何なのか。

もしも歯だったらと考えると急に不安が募り始めるが、多分試合でつけていたマウスピースではないかと考えている。

それには一つの根拠があるからだ。
それについては少し後に書かせてもらう。

まず、僕がこの夢を繰り返し見る理由として、三つの要素が関係している。

一つ目は、最近ネットフリックスで「はじめの一歩」を視聴し始めたことである。

ボクシングを題材とした森川ジョージさんの漫画作品である。

寝る前に視聴していたことが原因だろう。目を瞑っても、ボクサーである一歩の姿が瞼の裏に映っていた。


二つ目は、リハビリによる筋肉痛で全身が痛いこと。

二ヶ月前に大怪我を負い、これまで動かしていなかった筋肉に高い負荷をかけるリハビリやトレーニングをした結果、全身が筋肉痛になってしまった。

寝ていても、ときどき足がつりそうになる。
夢から目が覚めると、夢が現実だったかのように身体中が痛いのである。


三つ目は、インビザ矯正である。


最近、インビザラインという歯列矯正を始めた。
マウスピースのようなものをつけて生活をしているのだが、取り外しが可能で特に寝る前は必ずつけるようにしている。

だが、その夢を見た後は必ずインビザが外れていて、枕元に転がっているのである。

無意識に外しているのだろうか。それとも本当に誰かが寝ている時に殴っているのだろうか。

多分、夢でノックダウンしたときに、現実世界でも僕の口からはインビザが外れているのだろう。

これらを元に、夢の中で殴られて口から出たものは、歯ではなくてマウスピースであると推測する。


寝起きで2歳くらいの思考力しか持たない脳でそんなことを考えながら、鏡の前に立ち髪がボサボサで浮腫んだ顔を見て「やっぱり本当に殴られてない?」と疑いながらもインビザを水道水で洗い、また歯に装着する。

そして、まだまだ俺は戦えるぞ!と鏡に向かって拳を顔の前に置いてファイティングポーズをとる。

それは「怪我」という敵に対してなのか、または「自分」という敵に対してなのかはわからないが、たとえ何度倒れてもその度に立ち上がろうと思う。


そして、ここから綴ることは少し空想的な話になる。

夢を見た日の朝、体育館まで車を運転しながら考えていた。

「あいつは誰だ!!」って。

あいつとは、ボクシングで戦っていた敵のことである。

セコンドの顔がわからないというのは先ほども書いた通りだが、リングの外にいて視界には入らないので見ることができないのも頷ける。

でも、なぜ敵の顔は見えるはずなのに、起きると忘れているのだろうか。

しかも同じ夢を何度か見ているはずなのに、だ。

正面にいて、自分を殴る男の顔を見ていないはずがない。

しかし起きると忘れていて思い出すことができない。

なぜだ。

ただ、僕には1人だけ、心あたりのある人物がいる。

その人物とは「寺嶋良」である。

そう、自分自身である。

先ほど、夢を見る理由には諸説あると綴ったが、他にもこのように書かれていたものがあった。

「夢は無数にある情報と記憶が組み合わされ、心身の内部的な状態が寝ている間に映し出されます。」

先ほど綴った三つの要因は夢の場面設定や細かな演出を作り出した一部に過ぎなくて、自分自身の内面の状態こそがこの夢の本質ではないだろうか。

思い返してみると、この夢を見出したのは二ヶ月前の大怪我を負ってから少し経ってからだった。


自分が自分に対して送っていたSOSのサインだったのかもしれない。

点と点が結びついて星座が生まれるように、“あいつ“の正体が自分自身であったと浮かび上がってきた。

もしかしたら、点と点の結び方によっては“あいつ“の正体は変わっていたのかもしれないが、今の僕にとっては自分自身以外にいない気がする。

そんなことを考えていると、体育館についた。

車を降りて、車窓に映る自分を見たとき、鳥肌がたった。

そして、その日の夜、僕はまた夢を見た。

答えに辿り着いたからか、夢に“あいつ“はもう出てこなくなった。

今度はちょっとスケベな夢だった。

読者の皆さん、なんかすみません。そしてありがとう。

ただ、一つ問題がある。
またもやお相手の顔が思い出せないのである。

そして思う。

今度はどうか自分自身と向き合う苦悩の夢ではなく、幸せな夢でありますように。

世の中知らない方が幸せなことがたくさんあるというのは、本当かもしれない。


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