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春分 第五の封印

私は観測者、地球を観測し続けている。
全ての命は光として現れ消えゆく。
その光はおよそグラデーションになっており、多くのものが黒く消えゆく。

何世紀ぶりだろうか。
強い光りを放つ命があった。
観測者として不適切にも、注視した。
その命は一定量の光を保ち続ける。
全ての階層のものが注視し始めた。

全ての階層から、そう誘惑や試練、困難、といった、
ありとあらゆる災厄が降り注いだ。
ところが、その光は何が起きても一定量の光を保ち続ける。

ますます注視される。

数え切れないほどの災厄、何度目かも分からないほどだった。
その光が曇ったのだ。
折下、春分である。
ある階層は沸き立ち、ある階層は力無くラッパを手にした。

その光は、初めて、
「同じだけの苦しみを与えられるのなら、私の命を捧げる」
一瞬そう願ったのだ。

誰も聞き逃しはしなかった。

太陽がその国から完全に沈んだ瞬間、
その光から全ての音が奪われた。
みるみる光は黒ずんで行き、ある階層は歓喜に、
ある階層は絶望に、包まれた。

「とうとう来てくれた!音くらいなんでもない!捧げるわ!」
「私の音を捧げる代わりに…」

全ての階層は静まり返った。

「この地球から全ての犯罪を無くしてちょうだい!
足りないなら命だって捧げるわ!そしてなんでもする!さぁ!契約して!」

一瞬の沈黙に包まれ、ある階層は重いラッパを置き、
ある階層は耐え切れず笑い出し、ある階層は苦々しく去って行った。

正直に申し上げよう。
観測者である私は、一定量以上の光を取り戻していくことに、
驚きと笑いを隠せなかった。
この私が、笑った。
何世紀ぶりだろう。

そして、その光は叫んだ。
「どうして!!!音が…音が聞こえる…契約は!?
誰でもいい!私を捧げる代わりに、私の願いを叶えて…叶えて…
どうして?どうしてなの…」

その光は、最初の願いから内容が変わっていることに、
全く気付いていない様だった。

可笑しみが溢れる。
その光が願えば願うほど光は強く増し、
既にある階層は手出し出来ないほどに光っている。
いや、眩し過ぎてもう見ることも出来ないだろう。

私は観測者、その光がどうなるか、最後まで注視し続けたい。
この光で、向こう何世紀か楽しめる。
観測者の座は誰にも譲らない。

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