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学年上位0.1%の進学先の統計分析⑤(文系と理系の比較)

趣味の統計分析シリーズです。共通テストリサーチのデータを使って、学力上位層の進学先の分析を行っています。その5回目です。今回は文系と理系の比較を行います。

統計分析の前提の考え方、数字の集計対象などはこれまでの記事を参照ください(文末にリンク記載)。学力上位○%のランクは、イブリースさんの定義を活用させていただいています。

一橋大・社会学部が共通テスト5教科の配点で、理科基礎のウエイトが高く、得点率が実力以上に出ている可能性があることがわかりました。そのため、一橋大・社会学部は対象外として、全体の最終形を行っています。こちらの記事でも、変更の影響の多い表・グラフや本文説明は修正を行っています。<2024.5.1>

0. まとめ

◆文系:理系の全体比較

  • 大学進学者の全体(約60万人)では文系が多い(文:理=70:30)

  • 学力上位1%(約1万人)の優秀層では逆転して、理系が多くなる(文:理=30:70)

  • 東大で上半分に入れる学力上位0.1〜0.3%の最優秀層では、医学部医学科への進学者が増えることから、文系:理系は25:75と理系シフトが更に進む

  • 最優秀層では、医学部を外出しにすると、文系:理系:医医は50:25

  • 文系と理系の学力差は、共通テストレベル=全統記述模試レベルでは、文系の偏差値=理系の偏差値+2(例:文系の偏差値60は理系の偏差値58に相当)

◆大学別の文系・理系の比較

  • 東大、東北大、名古屋大は理系(医以外)の方が学力レベルが高い

  • 京大、北海道大、大阪大、九州大は文系の方が学力レベルが高い

  • 文系の学力レベルは、東大・京大・一橋とそれ以外の大学の間に大きなギャップが存在

  • 理系(医学部除く)の学力レベル順は、東北大が大阪大・名古屋大を上回り、4位につける。東北大理系のブランド力が数字に表れていると考えられる

◆文系の学部の比較

  • 旧帝+一橋の文系の学部別では、東大・京大・一橋と大阪大(外国語学部がある)は学部間の学力差が見られるが、それ以外では大きな学力差は見られない

  • 法学部の定員に占める東大と京大の構成比は他の学部と比べて高い

  • 結果、法学部志望の学力上位層はより多く東大に入学できるため、相対的に京大の学力上位層の厚みが薄くなる=学力レベルが下がる

1. 文系と理系の全体比較

①大学進学者全体の文理比率

文部科学省の令和5年度学校基本調査から、「関係学科別  学生数」の表を文系・理系別に集計したのが表1です。学生数は1〜4年の学生数の平均値を用いています。

表1

右端の合計欄(赤枠)を見ると、文系:理系+医医:その他は60:25:15くらいであることがわかります。その他は文系の高校生も理系の高校生も進学すると考えられるため、その他を除いて文系:理系+医医を比較すると、70:30です。

公立も含めた国公立大学(オレンジ枠)で見ると、文系:理系+医医:その他は40:55:15です。その他を除くと、文系:理系+医医は45:55くらいで、理系過多です。日本全体ではマイノリティの理系の学生は、国公立大ではマジョリティを占める形になります。

②共通テスト受験者の文理比率

共通テストリサーチのデータを元に、共通テスト受験者の文系:理系の比率を推定していきます。表2が共通テストリサーチの全体概要の一覧表です。

表2

共通テストリサーチのデータはいくつかの区分で集計されて公表されています。このうち5教科総合(黄色)では文系:理系は40:60ですが、数英理総合(水色)では文系:理系は65:35と逆転します。

理系の学生の大半は国公立大学に進学し、共通テストで国語や社会も受験していると考えられます。一方、文系の学生の大半は私立に進学しており、私立大の共通テスト利用受験では数学・理科が不要で、国英社しか受験していない受験生も多いはずです。

そう考えると、文系と理系の最大公約数として英国歴総合(緑色)が、文系:理系の比率を見るのに適しています。これを見ると、文系:理系=55:45となります。ここから私立の共通テスト利用受験のみ利用する受験生が抜けた結果、国公立進学者の文系:理系は45:55と逆転するようです。

③学力上位○%

こちらは過去の記事で分析していますが、初回掲載時から計算ミスの修正を反映したグラフで、改めて確認してみます。学力上位0.01%(約100人)は共通テストで学力を測る限界を超えているので記載していません。学力上位0.03%〜1%の4区分を記載しています。

グラフ1

右端の学力上位1%(約10,000人・Lv6)は、旧帝一工+国公立医医の定員20,256人の半数になります。一般的に言われる優秀層がここだと思います。このランクでは、文系:理系:医医は30:46:23なので、医医を理系に含めた概算値では、文系:理系=30:70となります。

東大の定員とほぼ同数なのが、右から2番目の学力上位0.3%(約3,000人・Lv5)です。他の大学への進学者もいるため、東大の進学者の約6割がこのランクで占められます。このランクの文系:理系:医医を見ると、25:51:24です。

左から2番目の学力上位0.1%(約1,000人・Lv6)は、東大の進学者の約3割に当たります。学年トップ1,000人に入れれば、東大でも上位1/4に入れることになります。このランクでは、文系:理系:医医は21:51:28です。

ただし、一橋大・社会学部を集計から除外しているため、これを組み込むと、文系の比率はもう少し上がる可能性があります。このことも加味して、概算すると、学力上位0.1〜0.3%の最優秀層では、文系:理系:医医は25:50:25くらいであり、医医を理系に含めると、文系:理系=25:75と言えます。

④文系と理系の学力差

ここまでの分析から学力上位層では、理系の方が文系よりも優秀層の人数が多く、理系と文系の間に学力差があるように思えます。それでは、学力上位層だけでなく下位層まで含めた全体で見ても、理系の学生の方が文系の学生より学力が高いのでしょうか?

大学進学者60万人の全員の比較は困難ですが、その2/3に当たる共通テスト受験者40万人については、理系と文系の学力差を共通テストリサーチのデータを用いて分析できます。

先ほどの表2の共通テストリサーチの平均点から、得点率と偏差値を算出しています。偏差値は文理合算の平均点と標準偏差から計算しています。

表3

色が付いているところを見比べると、理系と文系それぞれの平均点の学生の偏差値は、理系が文系より5教科総合では偏差値で+1.3、国英歴総合でも+1.9、英数理総合では+2.7と上回っています。平均すると、理系の平均点の学生の偏差値は、文系の平均点の学生より2ポイント偏差値が高いことになります。

河合塾の難易度予測ランキング表で見ると、共通テストの平均点の得点率の約60%でC判定(50%)となる大学は、地方の国公立の大学の学部が並んでいます。それらの学部の全統記述模試のC判定の偏差値は50.0前後です。このことから共通テストの受験生の学力レベルは、全統記述模試の受験者とほぼ同等と見なせます。

模試では、理系の受験者の偏差値は理系母集団で計算され、文系の受験生の偏差値は文系母集団で計算されます。母集団平均は理系=文系+2のため、理系の受験者の偏差値の方が低く出ることになります。

これらの考察から、「河合塾全統模試での文系の受験者の偏差値=理系の受験者の偏差値+2」である言えます。

では、この偏差値2ポイントの差が統計的に有意かどうかを、t検定を用いて検証してみます。算定根拠となった共通テストリサーチで、5教科総合、国英歴総合、英数理総合の文系と理系の平均点偏差値に対してt値を計算すると、この表のようになります。

表4

t値の絶対値は5教科総合(6.4)、国英歴総合(15.1)、英数理総合(15.8)のいずれでも、両側検定の境界値(2.3)を超えており、「文系と理系で学力は等しい」という帰無仮説が棄却されます。つまり、等しくないので、文系と理系の間で学力に差があることが検証できました。

2. 大学別の文系・理系の比較

大学の文系と理系の学力レベルを比較します。学力レベルは前回同様に、大学・学科の定員に対する共通テストの学力上位○%の占有率で評価しています。

その中でも、学力上位1%の占有率(上位10,000名・Lv4)、学力上位0.3%占有率(上位3,000名・Lv5)、学力上位0.1%の占有率(上位1,000名・Lv6)の3つが主要指標となります。

旧帝7大学と一橋大・東工大・医科歯科大について、文系/理系/医医のグループで定員占有率を計算すると、このグラフのようになります。

グラフ2

各大学の右端の医医が突出しているのは想像通りです。学力上位0.3%(青い三角)や学力上位0.1%(オレンジの四角)の数字を見比べると、東大と京大を除く大学では、理系の学生で医医に合格できる学生ほぼいない(数%程度)ことがわかります。

また、グレーの帯の上端が学力上位1%ラインですが、文系・理系・医医で右肩上がりの大学と、Jの字に理系が文系より低い大学があることがわかります。

東北大、東大、名大、京大は、文系<理系の右肩上がり型です。これらの大学(地域)では、文系よりも理系の学部に優秀な学生が集まっていると言えます。

一方、北海道大、大阪大、九州大学は、文系>理系のJ字型です。一橋・東工大・医科歯科大の東京の3大学も同じパターンです。これらの大学(地域)では、文系の学部に優秀な学生が集まるようです。

同じデータを文系と理系のグループで、学力上位1%(グレーの帯の上のライン)の順番に並べるとこのグラフとなります。

グラフ3

左の文系では、東大・京大・一橋と大阪大の間に、学力上位1%(グレー上の数字)に断絶があります。文系は東大・京大・一橋に優秀な学生が集中しているようです。

理系は最優秀層(学力0.3%の青三角や0.1%のオレンジ四角)は東大の一人勝ちです。それ以降は京大が頭一つ出ていますが、全体的に大きな断絶はなく、なだらかなカーブになっています。

ただ、理系で注目すべきは、東工大の次の4位に東北大が位置していることです。阪大より名大よりも、東北大の方が学力レベルが高いことになります。東北大の理系には優秀な学生を集めるブランド力があるのかもしれません。

3. 文系の学部の比較

これまでの分析で、文系は理系よりも学力レベルが低く、学力上位層も少ないことはわかりました。また、文系では東大・京大・一橋大とそれ以外の大学の間に断絶があることもわかりました。この詳細を探るべく、もう少し文系を深掘りしてみます。

文系を、法学部、経済学部、その他文系の3区分に分類して、旧帝大と一橋大の文系を比較したのがこのグラフです。

グラフ3

大きく3グループがあることがわかります。

まず、学力上位0.3%(青の四角)で学部間の学力レベルの差がはっきり出ているのが、東大と京大です。これら2大学では学部間の学力レベルの差も見られます。東大は文一が京大は経済学部が最も学力レベルが高くなっています。

同様に学部間の学力レベルの差が、学力上位1%(グレーの上の数字)で出ているのが、北海道大、一橋大、大阪大です。ただ、北海道大は学部別入試以外の総合文系がその他に入っており、大阪大は外国語学部(旧・大阪外大)がその他に入っています。これらの特殊要素を除くと、実質的には学部間に学力レベルの差はない可能性が高いです。

最後のグループが、東北大、名古屋大、九州大です。グレーの学力上位1%の高さは多少の凸凹はありますが、ほぼ同じ高さであり、学部間の学力レベルの差はないと言えます。

このように見ると、最初のグループの東大・京大は全体でも突出する中で、学部別の学力差が見られることが興味深いところです。そこで、学部別に定員のパレート図を作ってみました。パレート図は8つの大学の定員合計に占める累積比率がどう上がっていくかを示しています。

グラフ4

これを見ると、緑の法学部では、東大が定員の25%を有しており、京大を加えて44%となり、この2大学でかなり寡占化していることがわかります。逆にその他学部はこの2大学では28%しかありません。

ここから言えるのは、法学部志望の学力上位の学生は、他の学部を志望する学生よりも東大に入りやすいということです。そうなると、京大法学部の上位層の厚みが薄くなります。

また、東大と京大の法学部の定員合算は8大学定員の4割を超えており、京大法学部は他の学部と比べて、下位層の厚みが厚くなります。この2点から京大の学力レベルが相対的に下がっているのではないかと考えられます。

一方、他の文系では一橋大学まで加えても、4割に届きません。法学や経済学以外の文系学問に関心のある学力優秀層にとって、東大と京大の枠が狭く、一定数が一橋に入学していると考えられます。結果、一橋大では、法学部や経済学部よりその他文系学部(商・ソーシャル)の学力レベルが相対的に高いのだと思われます。

もちろん、定員だけで決まるのではなく、学問や大学・学部のブランド力も影響すると思います。ただ、デジタルに見れば、学問分野別の定員のバランスも、学力レベルに影響を与えていると考えられます。

4. 最後に


長々と文系と理系を比較しましたが、あくまで統計的に分析した結果に過ぎません。文系にも優秀な学生もいるし、理系にもそうでない学生もいます。そもそもとして、入試時点での点数(偏差値)の比較です。

数字だけで簡単に文系と理系の違いを判断できるものではないです。ネットで議論されるような文系vs理系の論争に対する、一つの定量的な解釈くらいで眺めてください。

<参考>
共通テストリサーチを用いた学力レベル分析の総括記事


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