学年上位0.1%の進学先の統計分析②(医学部から理系学部へのシフトの検証)
下記のイブリースさんの記事に触発され、学年上位の進学先の統計分析を行って、記事を作成してみました。
ただし、前回の記事では旧帝国大学以外の医学部医学科は、東京医科歯科大・千葉大・神戸大の3大学しか集計していませんでした。全国に国公立の医学部医学科は50大学も存在し、その集計(10年分)が大変そうだったので、地帝医医以外では、上位0.1%に入ってきそうな3大学を感覚的に選んでいました。
そうした中、私の記事へのコメントを拝見し、他の大学の医学部医学科には東大理一に匹敵する難易度のところもあり、上位0.1%に数十人単位(構成比で数%)の影響がありそうだとわかりました。
そこで、やるなら全部やろうと思って、残りの国公立の医学部医学科(40大学・山梨大は後期のみなので集計は39大学)についてもデータを集めて分析してみました。
以下では、データの更新版の全体分析を行った上で、前回に見いだした仮説「医学部から理系学部(特に東大理一)へのシフトしている」の分析・検証を行っています。
分析対象データは駿台の共通テストリサーチ(センター試験リサーチ)の2015年度〜2024年度の10年分です。一部でのみ2014年度数値も入れています。分析の前提は前回の記事を参照ください。
0. まとめ
①学年上位0.1%以上の全体分析(データ更新版)
追加した国公立医医の影響は構成比で2-3%であり、全体傾向に前回からの大きな変化なし。
→再集計後の分析は後述
②国公立医医から理系学部へのシフト
学力上位0.1%における国公立医医の構成比=人気のピークは2010年代半ばにあり、その後人気は長期的に下落している(40%前後→20%後半)。
国公立医医からは理系学部へシフトが起こっており、これには2つの流れが存在している。
①学力上位0.03〜0.3%層での、国公立医医(地帝・難関)と東大文一から東大・京大理系へのシフト(合計:約200人)
② 学力上位0.3〜1.0%層での、国公立医医(中堅・一般)から東工大・地帝理系へのシフト(合計:約450人) ※一部は国公医難関にもシフトこのように、国公立医医では学力上位層の流出が起こっているが、ボーダー付近の層の流入により、難易度(ボーダー)は下がらずに維持されている
1. 国公立医医の分類
今回追加する国公立の医学部医学科は40大学あり、前回調査の10大学と合わせて50大学となります。一括りで分析するには入試難易度の差が大きいため、次の7分類にグループ化します。駿台全国模試のB判定の偏差値(以下、駿台偏差値)は、2023年夏に調べた時のものを採用しています。
なお、山梨大は後期日程だけのため、7つのグループのどこにも含まれません。集計対象は49大学となります。
◆東大理三
◆京大医医
これらはグループ集計せずに、それぞれで1つの分類として扱います。駿台偏差値は、東大理三が79、京大医医が78と別格です。
◆地帝5大学
東大・京大を除いた5大学(北海道・東北・名古屋・大阪・九州)の医学部です。駿台偏差値は67〜74です。東大理一と同等以上の難易度です。
◆難関11大学
駿台偏差値が66以上の大学です。ほぼ地帝に匹敵する難易度の大学です。具体的には次の11大学で、東名阪の大都市圏+山陽新幹線の沿線に存在しています。
◆中堅17大学
駿台偏差値が63〜65の大学です。閾値は大学数のバランスで決めたので、特に意味はないです。顔ぶれを見ると、北陸・東海・九州の大学が多いようです。
◆一般14大学
駿台偏差値が61〜62の大学です。この水準でB判定になるのは、京大理系や東工大です。東大理一・理二だとC判定下限くらいです。北海道・東北・中国地方の大学が多くなります。
2. データの再分析(国公立医医40大学追加版)
前回記事で掲載したグラフや表の更新版を掲載します。
①集計数値の一覧表(2020−2024年度平均)
国公立医医を増やしました。あわせて、集計範囲で上位1.0%(約10,000人)も追加しています。人口比率で切っているので、下段の合計値の人数は変更ありませんが、各大学・区分の人数は前回から変わっています。
②学力上位0.1%(約1,000人)の構成グラフ
集計区分について、国公立医医を分類ごとに分けています。国公立医医を追加したため、それ以外の構成比が前回より下がってますが、大きな影響はないようです。東大で6割、東大と京大で8割の水準も同じです。
③上位X%の進学先構成の比較表
区分はグラフ1と同じです。右端に上位1.0%の列を追加しています。なお、これは輪切りにした層別ではなく、この閾値以上の合計値(累計値)です。上位1%で東大の構成比が急減するのは、定員を充足してしまうためです。
④文理医の構成比
国公立医医を追加したため、前回よりも医学部の構成比が上がってますが、大きな変化ではないです。学力上位0.1%では、医医が前回より構成比を3%ほど増加させています。ただ、5%刻みで概算するなら、前回同様に、文系:理系:医医は25:50:25と見て良いと思います。
また、下位(グラフ右)に行くと文系比率が上がる傾向は、今回追加した上位1%(右端)でも見られます。
一方、医学部は上位0.3%(23.5%)と上位1%(22.8%)で構成比に差がほぼないのが特徴的です。地帝5大学と難関11大学が上位0.3〜1%の層に多いことが要因と考えられます。
⑤前半5年と後半5年の比較
前半5年は2015〜2019年度平均、後半5年は2020〜2024年度平均です。前回のように「東大理一の増加幅≒東大文一と国公立医医の減少幅の合計」とはならず、増加側(左辺)+5.8%に対して、減少側(右辺)▲7.4%と減少過多です。
ただ、増加側(左辺)に京大理系を足すと、増加側(左辺)+8.5%になり、少しバランスがよくなります。この流入と流出の分析は後半で少し詳しく記載します。
⑥東大理一・東大文一・国公立医医の時系列推移(学年上位0.1%)
学年上位0.1%で特に変化の大きい東大理一、東大文一、国公立医医(東大・京大除く)について、過去10年の時系列分析を行いました。トレンドは前回と変わりませんが、国公立医医は前回より落ち込みが急になっています。
⑦文理医の時系列推移(学年上位0.1%)
文理医の区分で、時系列グラフを新たに作って見ました。医医の2015年度が特異値でないかの確認のために、2014年度も集計しています。
③で触れたように、直近5年間では、文系:理系:医医はほぼ25:50:25であり、医医は学力上位0.1%の25%の構成です。一方で、2014-2016年には、医医は35%を超えていました。2010年代半ば(前半も?)には、学力最上位層の医学部人気が高かったことが確認できます。
3. 医学部から理系学部へのシフトの検証
それでは、今回の記事のメインテーマの「医学部から理系学部(特に東大理一)へのシフト」を検証していきます。
この現象を詳しく見るために、学年上位0.1%(約1,000人)という対象幅ではなく、輪切りにした学力層を設定して集計・分析していきます。分析単位となる学力層はイブリースさんの学歴ランクの定義を引用させてもらい、レベル表記させていただきます。具体的にはこうなります。
Lv7層以上(〜学年上位0.03%:約300人)
Lv6層(学年上位0.03〜0.1%:約700人)
→L7層以上+Lv6層=学年上位0.1%(約1,000人)Lv5層(学年上位0.1〜0.3%:約2,000人 )
→L7層以上+Lv6層+Lv5層=学年上位0.3%(約3,000人)Lv4層(学年上位0.3〜1.0%:約7,000人 )
→L7層以上+Lv6層+Lv5層+Lv4層=学年上位0.3%(約10,000人)
①東大理一・国公立医医の学力層別の推移
上記の学力層で輪切りにした時、東大理一・国公立医医がどのように時系列推移してきたのかを見ていきます。まずは東大理一です。
2015年時点では、Lv7層(以上)、Lv6層、Lv5層のいずれも30%程度の構成比でした。これは、Lv7層以上の約30%が東大理一、Lv6層でも約30%が東大理一、Lv5層でも約30%が東大理一という意味です。Lv4層は定員飽和するので、構成比が低く出ています。
これが2020年以降は、Lv7層・Lv6層・L5層は右肩上がりになり、占有率が高まっています。上位(Lv7>Lv6>Lv5)になるほど上昇率が高く、より占有率を上げています。
続いて、国公立医医を見ていきます。地帝5大学、難関11大学、中堅17大学、一般14大学の順にグラフを掲載します。
区分によって傾向の違いが出ました。地帝5大学と難関11大学はLv6層・Lv5層が下降トレンド、Lv4層が水平〜上昇トレンドです。上位のLv6層・Lv5層で人気が下落して構成比=人数が減少し、その穴埋めで、下位のLv4層での人気が上がったと推察できます。
このことは、地帝5大学と難関11大学の易化を意味するわけではないと考えます。これらの大学ではボーダーがLv4層にある大学が大半です。Lv4層の構成比が増えているなら、優秀層が減って、ボーダ付近の層が増えたが、ボーダーは維持されていると推測できます。
一方、中堅17大学と一般14大学に目を向けると、様子が異なります。Lv4層の構成比も右肩下がりで落ちています。
これらの大学のボーダーは、Lv4層の下のLv3層にあります。難関11大学と同様に、ボーダー付近で増加して、難易度は維持しているのだろうと思われます。
ここまでの分析で一つの見解(仮説)を提示できると思います。
国公立医医では学科内の上位層が他大学に流出したが、ボーダー付近の下位層の流入があった。
結果として、難易度(ボーダー)は維持されているが、優秀層が薄くなり、ボーダー近辺の層が厚くなっている。
②シフト人数の算定
全体の傾向を掴んだところで、増減の詳細分析に移ります。先の仮説の「国公立医医の上位層がどこに流出したか」をデータでの推定も行います。
東大理一と国公立医医の学力層別の人数などを整理したがこの表になります。東大文一も入れています。
少しややこしい表なので、東大理一を例に見方を説明します。
表側(縦)が学力層です。表頭(横)の先頭2列は、前半5年平均(2015−2019)と後半5年平均(2020−2024)の学力層ごとの人数と構成比を示しています。東大理一の場合、Lv5層には前半5年は552人、後半5年は591人いたことがわかります。
その隣の列はこの前後の数字の差です。Lv5層は591−552=+38人となっています。1の位が一致しないのは、少数第一位の四捨五入誤差です(5年平均なので少数第一位が存在)。
では、この+38人が東大理一に流入した数字なのでしょうか? 実は違います。
今回の分析では、18歳人口に対する比率で標本を作っています。例えば、Lv5層は上位0.1〜0.3%なので、18歳人口が120万人の時は3,600-1,200=2,400人、110万人時は3,300-1,200=2,200人と減少します。
18歳人口は減少傾向なので、前半5年と後半5年で標本の人数は減少しています。Lv5層(上位0.1〜0.3%)の場合、前半5年平均は2,376人、後半5年平均は2,228人です。人数で▲148人、率で▲6%の減少です。
つまり、流入・流出のシフトがなく、学力層における構成比が同じであっても、前半5年から後半5年にかけて▲6%減るのが標準なのです。もし、増加している場合は、この減少幅を補って、さらに増加していることになります。
この分析を行ったのが、次の2列の「人員減要因」と「シフト要因」です。前半5年と同じ構成比だった場合に、18歳人口減少に伴って減るはずの人数が人員減要因の欄です。東大理一のLv5層の場合は、▲34人です。
そして、この人員減要因を除いて、流入・流出のシフトで増減したのがシフト要因の欄の数字です。計算は簡単で「シフト要因の人数=差の人数ー人員減要因の人数」です。東大理一のLv5層の場合は、+38−(▲34)=+73人です(四捨五入誤差あり)。単純な差分を上回って、相当数が流入していることがわかります。
このようにシフト要因の人数を区分ごとに算出して、流入と流出を学力層ごとに分析していきます。例えば、Lv5層のシフト要因の数字を見ていくと、東大理一の+73人に対して、国公医・難関11大学では▲84人です。Lv5層では、国公医・難関11大学から東大理一にシフトしているのではないかということが、数字の関係から見えてきます。
③ 国公立医医から理系学部への2つのシフト
それでは、大学・区分の間で、どのように受験者がシフトしたのかの全体像を見ていきたいと思います。数字を眺めながら、定性的な判断も入れて、シフトの流れを示すと、この図のようになります。人数はシフト要因の増減人数です。表4に掲載した区分以外も入れています。
さて、この図1(正確には元データ)を見ると、大きく2つの流れに気付きます。
一つ目は左半分、東大理一と東大理二・京大理系に流入する流れです。流出側は東大文一、国公立医医の地帝5大学と難関11大学です。メインはLv6層(青)とLv5層(黄色)の流れです。
二つ目は右半分、国公立医医の中堅17大学と一般14大学から、東工大・地帝5大学理系と国公立医医・難関11大学に向かう流れです。Lv5層(黄色)も少しありますが、メインはL4層(グレー)の流れです。
◆東大文一・国公医(地帝・難関)→東大理一・理二・京大理系
まず、一つ目の流れについて、シフト要因の人数を流入側・流出側で集計すると、この表のようになります。実際は国公医・難関→国公医・地帝→東大理一のような玉突きも起こっているのかもしれません。ただ、そこまで終えないのでグロスの数字で見ていきます。
L6層は流入側で+65人、流出側で▲58人と近い数字となってます。増えているのはほぼ東大理一です。
L5層で見ても、流入側で+114人、流出側で▲94人と近い数字です。ここでも増えているのは東大理一ですが、L6層よりも理二と京大理系へ分散してます。流出側は逆に、国公医・難関11が大半となってます。
Lv7層以上は流入と流出の数字のカバー度合いが低いです。この層(学力上位0.03%=約300人)になると共通テストの指標の適切性が低いので、参考程度の扱いがいいと思います。
◆国公医(中堅・一般)→東工大・地帝理系・国公医(難関)
続いて、右半分の流れも集計してみます。対象はLv5層とLv4層です。国公立医医・難関のLv5層は表5-1と重複するので、記載していません。
Lv5層でも一定数のシフトが見られますが、数字の桁が違うのがLv4層です。Lv4層は流入382人に対して流出▲456人と、どちらもほぼバランスしています。
国公医(中堅・一般)の大半は首都圏以外の地方大学です。そのため、Lv4層では同じ地方内で、国公立医医(中堅・一般)から地帝理系や国公立医医(難関)が行われている可能性がありそうです。
4. 最後に
長々と書きましたが、医学部から理系学部へのシフトについて、共通テスト(センター試験)のデータを分析すると、以下のことがわかりました。
学力上位0.1%における国公立医医の構成比=人気のピークは2010年代半ばにあり、その後人気は長期的に下落している(40%前後→20%後半)。
国公立医医からは理系学部へシフトが起こっており、これには2つの流れが存在している。
①学力上位0.03〜0.3%層での、国公立医医(地帝・難関)と東大文一から東大・京大理系へのシフト(合計:約200人)
② 学力上位0.3〜1.0%層での、国公立医医(中堅・一般)から東工大・地帝理系へのシフト(合計:約450人) ※一部は国公医難関にもシフトこのように、国公立医医では学力上位層の流出が起こっているが、ボーダー付近の層の流入により、難易度(ボーダー)は下がらずに維持されている
今回の分析は以上となります。次回は集めたデータで主要大学の学力層の分析を行う予定です。
長文になってしまいましたが、最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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