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工事たちよ

僕らにとって5年ぶりの新しい施設になる「DENIM HOUSE BON」。築90年以上の古民家を改装してつくった、1日1組のための“泊まれるデニム屋”。構想から1年半。ついに完成するこの宿を前に、BONにまつわるいくつかの思い出を、しばらく時間をかけて振り返ろうと思う。

追沼くん設計の元、BONを担当してくれた工務店は「なんば建築工房」だ。同じ倉敷市の児島にある会社で、創業は明治20年、現社長・正田さんで5代目にあたる。

今回の件で初めての依頼だったが、同じ街のよしみということでとても良くしていただき、自分たちの想いもたくさん汲んでくださった。工事が始まったのは昨年10月頭。毎日のように現場に行っていたので、毎日のように顔を合わせる日々が続いた。

前半行っていただいた工事は、主に物の取り出しと床抜き。元々たくさんの家具が収納されていたお家だったので、荷物を解体・運び出す作業だけでもたくさんの日数を要した。

中盤には壁や棚づくり、建具の取り付け、床の作り直しなど、どんどん作業も本格的に。朝から晩までどんな時間に現場へ行っても、誰かが黙々と丁寧に作業していて、新しい場所が形づくられていく姿にじんわりとする日々だった。

工事が後半になると、予算の都合上、工務店さんにお願いせず、自分たちで自主施工する部分がいくつかあった。主に壁塗り、土間塗り、家具の組み立てと設置は12月ころから時間を見つけて僕らの方で行った。

土間をアーチ状に大きく囲む木製ベンチの下に潜って、何度も色を塗り直していく。まだ見ぬお客さんの姿を想像し、どんな話をして、どんな時間を過ごすんだろう、想いをめぐらせながら、狭い隙間で手を動かし続けた。

日頃は人と話したり、PC作業が中心の働き方なので、こんなふうに一日中体を使う日が何日も続くのはとても珍しい。素直な物理の力に添って、目の前のことに集中するのは、それはそれでとても清々しく特別な経験だった。

生き心地が良い。そんな言葉があるのか知らないが、あえて言うならそんな感じ。やるべきことがあって、やるべきことをやって、やるべきことが終わることで満たされる。上機嫌で居られる。その繰り返しだ。

宿ができるまでの過程は、もちろん完成したらもう触れられなくて、だからこそ一つ一つが愛しい。きれいに出来上がったBONを見て、たくさんのことを思い出せるこの特権を胸に、これからも生き心地良く過ごしていきたい。