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リングラン叙事詩 第二章 王たちの義憤 台本

(オープニング)
とある世界
とある時代
私たちが知ることのない場所にリングラン島という島がある。
この島には一つの神話があった。

太古の昔。
二つの神による天界の争いがあった。
光の神ヴィシュ。闇の神デーム。
両者の争いは大地を揺るがし、
互いの従える竜による戦いは、やがて大地を割き、
大きなうねりは山脈を作り、
吐かれる炎が大地を焦がし砂漠となった。
そして双方の神と双方の戦いが終わり、
大地に堕ちた竜の骸を苗床に、草原は大きな森となった。

そして伝承は続く。
竜の目から生じ散らばった水晶を、神の台座に捧げしとき、
その地はあるべき姿へ回帰せん。

リングランに伝わりし、神話である。

(本編)
アルフレッド一行がフシラズの森に入ってから数日が経った頃のことである。

スレイアール帝国。島内の北西に所在し、最も辺境の国家である。元々はザスアル王国の辺境拠点であったが、時の公爵への国土割譲により独立国家となる。古来より辺境であるが故に国土守護のため統制の取れた騎士団を有し、その騎士団長であるガルハースは周辺国家でもその名を馳せ、先代国王の時代よりその忠誠心の高さから王都デムニアの民からは絶大なる支持を得ていた。
またわずかではあるが農業国家であったザスアル王国との交易で国内の経済を回しつつ、平穏な国家であった。しかし、現在のザジウルハスの治世となったのち、自らを皇帝と名乗り、どこより現れたのかが定かではない大魔導士サルーデンを中心に闇の神デーム信仰を推し進め、数年で妖魔軍をも従えた軍事国家となっていった。

そのスレイアール帝国がザスアル王国を侵攻、滅亡させた後に建設したのが要塞都市バアルである。島の最北に位置するこの都市は四方を高層の城壁で囲んだ都市である。スレイアール帝国の島内制覇の拠点とされたこの要塞都市は、人間による騎士団の他、妖魔からなる異形のものたちで構成された、難攻不落の要塞とも噂される都市となった。

サルーデン さて周辺国には動きはないな。側面には注意を払うべきであれば、まずは、リーデランドを落としておいた方が良かろう。幸いにこのバアルには十分な戦力もあるが我が配下を一兵たりともガルハースには任せるつもりはない。今は古の竜を呼び起こすことが先決。そしてその暁には、全てを手中にするのも遅くはない。
リーデランドが強国とは言っても、所詮は砂漠の一国家。リーデランド侵攻はスレイアールに戻ったガルハースに露払いをさせればよかろう。所詮騎士風情。魔道の力の前では無力よ。せいぜい思い知るが良い。今頃デムニアの地で絶望を味わっておるだろうて。

場所は変わりスレイアール帝国王都デムニア。ガルハース率いる帝国騎士団・戦士団が戦闘の準備を始めていた。

ガルハース フシラズの森にモーリスタティアの斥候が現れたらしい。サルーデンの使わした妖魔どもを殲滅させたものどもがいるようだ。小隊を派遣し、そ奴ら動向を確認せよ。一個師団はバアル経由でリーデランドへの侵攻を進める。その他の師団は南進の準備を行え。バアルへの偵察程度、スレイアールにはなんの影響もあるまい。しかして、斥候にザスアルの騎士団長がいると聞く。一度は剣を交えてみたいものだ。ただ、所詮ザスアルの騎士団程度ならばただの烏合の衆と変わらんと思うがな。では参るとしよう。一兵卒たりとも我らスレイアールの誇り高き騎士ということを忘れるな。

そしてスレイアール帝国に帰還したガルハースは、宮殿内でスレイアール帝国皇帝ザジウルハスへの謁見を行った。

ガルハース 陛下、これよりリーデランドへの侵攻を進めてまいります。しかしながら、現在の戦力では島内(とうない)最強と言われるリーデランドの騎士団、戦士団を落とすのは容易ではありません。サルーデン配下の魔術師団の一部を我が兵団に加えてはいただけませんか。

ザジウルハス皇帝 ガルハースよ。サルーデンが行っている古の竜の復活さえできれば、リーデランドどころか全ての国を一掃できる。騎士団の一部をサルーデン身辺の護衛を命ずる。お主はリーデランドへの侵攻のみを第一とせよ。

ガルハース それは・・・侵攻部隊の兵力を減らせとおっしゃるのですか。
ザジウルハス皇帝 ガルハースよ。いつからお主は我に意見を言える立場になったのだ。

ガルハース 滅相もございません。陛下のご命令とあらば。

ザジウルハス皇帝 リーデランドが強国といったところで所詮は剣を持つだけの国。我はお主の統率力は高く評価しておる。残存の兵力のみでも十分であろう。そして何度も言うが、スレイアールは魔術の強さを持ってすれば、統一国家の樹立は容易い。ガルハースよ、それをゆめゆめ忘れるな。

ガルハース は、仰せのままに。

ガルハース 一体陛下はどうしてしまったのだ。これまで剣と魔術の融合こそが強さの源とおっしゃっていた・・・。それが自らを皇帝と名乗り、頻繁にサルーデンとの対話が多くなってから、なにかがおかしい・・・。釈然としない思いは拭えないが陛下の命令は絶対だ。
さて、戻って方針を定めなければならんな。

リーデランド王国。島の北東に位置するこの国は砂漠に囲まれながら、
大きなオアシスが点在し、一際(ひときわ)大きなオアシスに建国された国家である。
砂漠にありながら肥沃な土地をもち、戦力の高さは島内でも随一とされ、
統制された騎士団・戦士団の質実剛健な姿勢が一層この国を強固なものにしていた。
そして、リングラン島の中で唯一、女王が統べる王国である。

アリエンゼス女王 それは真であるか。

ローレイス ハッ、今朝方、スレイアールのものと思われる集団が現れたと西方の観察兵から報告がございました。

アリエンゼス女王 スレイアールめが、ザスアルだけでなく我が国まで攻め入る気か。ローレイス、これより西方の護りを固める。砦へ戦士団を中心とする守備兵を派遣せよ。

ローレイス 陛下、失礼ながらメルキアへスレイアール応戦の要請を行うことを具申いたします。

アリエンゼス女王 メルキアへか。やはりあの国の傭兵どもを必要不可欠とするのは必然か。

ローレイス はい。一旦スレイアールが動きを開始すればサルーデン率いる妖魔たちが一斉に砦へ押し寄せるでしょう。ザスアルの二の舞になりかねません。砦が落ちれば、民衆への被害は甚大なものになります。

アリエンゼス女王 民衆を護ってこその王。よく言ってくれた。感謝する。

ローレイス 身に余る光栄でございます。では遣いのものを送らせていただきます。

アリエンゼス女王 メルキア公国。我が世にあの国を頼ることが来るとはな。

ローレイス 陛下・・・誠に申し訳ございません。ザスアルほどの農業国家を奪われた今、戦いが長引けば食糧が不足してくることでしょう。肥沃とはいえ、やはり我が国の大部分が砂漠であることには変わりません。どうか、具申のご無礼をお許しください。

アリエンゼス女王 よい、貴公には騎士団と戦士団の指揮を全面的に任せる。苦労をかけるな。

ローレイス 何を申されるのですか。このローレイス、陛下のためならばこの身の全てを捧げる覚悟はできております。

アリエンゼス女王 余は信頼がおける臣下に恵まれたな。有難いことだ。しかしながらこの事態、モーリスタティアはどう考えているのか・・・。領土北方へ兵を進めていることだけは耳にしているのだが。

メルキア公国。島の南東に位置する傭兵国家である。
メルキア公国建国の祖であるメルキア公はもともとリーデランド王国戦士団の元帥であった。

メルキア公は砂漠南部の治安を維持するための遠征部隊の司令長官として派遣をされた際、砂漠の魔獣マンティコアの一斉襲来を受けた。
その襲来を打ち破り、南方守護の必要性と南方守護の功績を認められ、領土の一部を授与されたことで建国された国家である。

しかし、建国されて有余年、戦士団は内部分裂により解体され、所属戦士の大部分が各地の傭兵として散らばっていった。
その派遣を一手に担う組織として存在し続ける擬似的な国家である。

ザンスロン公 貴様がリーデランドの使いか。リーデランドの女王ともお方がこのメルキア公国に救いを求めてくるとはな。
いよいよスレイアールが本格的に動き出したようだ。
しかしながら我が国は国家といえど傭兵の集団。出すものを出していただければ手助けはしないこともない。現に一人モーリスタティアの要請を受けて派遣された者がいると聞く。はて誰であったか・・・。
まあ良い。
10億ギレア。それだけ出すのなら相応の頭数は揃えて派遣する。その旨、リードランドへ伝えよ。

それにしてもスレイアール騎士団長ガルハースよ・・・。貴様ほどの男がなぜ闇に落ちたスレイアールに組みするのだ。
俺は所詮傭兵の長。あのような忠誠心は全く理解できん。
理解はできなくとも、奴の騎士道とやらはこんな辺境にでも風の噂で届いてくる。全く解せぬことが今のリングランには多すぎる。

デヴォーア砂漠での二カ国の協力体制が整った時を遡ること、数日前のことである。

モーリスタティア王国。リングラン島最古の王国であり、光の神ヴィシュを主とするモーリスタティア正教会と古代の魔術書まじゅつしょを数多く所蔵するモーリスタティア魔術教会を有した祈りと魔法の国家である。
国内には王都のウルに騎士団と戦士団の二つを構えてはいるものの、その規模は決して大きなものではない。島内最大の商業都市であるスローデンを配下においており、それを統べるモーリスタティア王国国王はモーリスタティア15世である。
古来よりザスアル王国との交流は盛んで、島内の王国間の均衡を誰よりも重要視していることからスレイアール帝国の侵攻によるザスアル王国の滅亡に対して、どこよりも早く反スレイアール帝国を掲げた。

モーリスタティア15世 そなたが、戦士団のアルフレッドであるか。

アルフレッド 御意にございます。国王陛下。

モーリスタティア15世 そなたも、もう知っておるだろうが、ザスアル王国王都であるフスがスレイアール帝国の手によって陥落し、要塞都市が築かれた。そこで、お主にその要塞都市を偵察し、要塞の様子を探り、情報を持ち帰って欲しい。北進に際しての戦力を図る重要な任務じゃ。もちろん、お主一人を行かせるわけにはいかぬ。正教会、魔術教会より一人ずつ付ける。その他にメルキア公国より、手だれの傭兵を一人雇っておる。その者も護衛につける。

アルフレッド 多大なるご配慮をいただき、光栄でございます。必ずや使命を果たしてまいります。

モーリスタティア15世 現在、騎士団・戦士団をともに大多数をモーリスタティア北方の砦に集結させスレイアールを牽制しておる。少人数の編成となることはすまぬな。

アルフレッド 滅相もございません。正教会・魔術教会からの支援は大変心強いものがあります。加えて傭兵までお付けいただくのは、光栄の極み。準備が整い次第出発いたします。

モーリスタティア15世 頼んだぞ。若き戦士よ。

アルフレッド は!我が一命に変えても。

アルフレッドがモーリスタティア王国を出発する準備を整え始めたころ、モーリスタティア正教会からヴァイス、魔術教会からルークスが旅の仲間として加わり、傭兵としてカーンが加わった。

アルフレッド 俺は戦士団のアルフレッドだ。皆の力を貸して欲しい。頼む。

ヴァイス 私の名はヴァイスです。まだ司祭補佐の身で大変恐縮ですがよろしくお願いいたします。
ルークス 魔術教会から派遣されたルークスと申します。よろしくお願いいたします。

カーン 俺はメルキアの傭兵だ。渡された金の分は働くが、それ以上は期待するな。

アルフレッド それでは、支度もすんだ。まずは隣接都市のスローデンに向かう。

ヴァイス 承知いたしました。

ルークス では、出発いたしましょう。

カーン さてさて、ひよっこ二人と、頼りなさそうな魔術師、これで大丈夫かね。

一行がスローデンに着いた夕刻。宿屋も兼ねている酒場を訪ねることとした。酒場は様々なところから人が集まる場所。近隣の情報を集めるには最適なところである。一行が酒場についた時、そこで一人のドワーフが数人の男たちと口論となっていた。

ギリアム は!人間風情がわしと争うなど100年早いわ。表に出ろ。

男たちの一人がドワーフめがけて剣を向けた。店主は何事もないかのように、カウンターで談笑をしている。どうやら日常茶飯事らしい。

ギリアム ほう。一人で挑むか。大した勇気だけは褒めてやろう。ただし、手加減はせん。

そういうが早く、ドワーフは手にした斧を素早く相手の喉元に突きつけた。

ギリアム どうする。まだやるか。でなければ、さっさと出て行け。

男たちは、捨て台詞を吐きながら店を後にして行った。
 


ギリアム 店主。酒を持ってきてくれ。くだらなすぎて酒でも飲まなければやってられん。さて、ところで貴様。先ほどから、こちらをアホづらさげて見ているようだが、わしに何かようか。

アルフレッド いや、随分と鋭い動きに、つい釘付けになってしまった。大変失礼した。私の名前はアルフレッド。こちらは仲間のヴァイス、ルークス、カーンだ。

カーン ドワーフ風情が随分大口を叩く。

ギリアム なるほど。次に相手をして欲しいようだな。

アルフレッド カーン、やめないか。度重なる無礼お詫びする。

カーン ふん。

ギリアム それで、わしに何のようじゃ。

アルフレッド 随分な手練(てだれ)とお見受けした。どうだろう無礼のお詫びに奢らせて欲しい。

ギリアム 見ず知らずのものに奢られる筋合いはないが、まあよかろう。その格好を見るとどうやらこの国の戦士団の者のようじゃな。

アルフレッド ああ、これからバアルに向かうところだ。

ギリアム バアルとな。随分と物好きな連中だ。わしはもともとあの地にあったザスアルにおった。スレイアールのガルハースめに仲間をやられ、わしも痛手を負った。仲間のおかげでここまで流れ着いたが、あの恨みは決して忘れん。

アルフレッド ガルハース・・・。あの名高きスレイアールの騎士団長の。もしよかったら、スレイアール討伐のために力を貸していただけないか。

ギリアム ほう、手助けとな。頼りのない連中と無礼な男と同行か。気が進まんな。

アルフレッド なんとかお願いできないだろうか。

ギリアム そこの無礼な男が頭を下げるなら考えてやっても良い。

カーン 先ほどから黙って聞いていれば好き勝手言ってくれる。頭を下げろ。ふん、願い下げだ。

ギリアム では交渉決裂じゃな。店主、酒を早く頼む。

アルフレッド カーン。追加で依頼料を増額するよう戦士団長に掛け合う。頼む。

カーン 金で釣るか。それも気に入らんが、まあいい。傭兵は金が全てだからな。失礼したな、ドワーフ。

ギリアム 全くもって礼儀を知らん。わしはギリアムという名を持っておる。少しは礼節を知ったらどうじゃ。

カーン あいにく、礼節とやらは持ち合わせていないんでね。すまんな、ギリアムとやら。

ヴァイス 私からもお願いいたします。どうかお力をお貸しください。

ギリアム こちらの若造の方がまだ礼儀を持っておるな。バアルに行くということなら手を貸さんでもない。よかろう。この若造に免じて一緒に行ってやるわ。

アルフレッド ギリアムさん、ありがとう感謝する。

ギリアム 「さん」はいらん、虫唾(むしず)が走る。

アルフレッド わかった。ギリアム。よろしく頼む。

ギリアムが飲む酒の量はさすがドワーフというだけあって相当な量であったため、一行がそれに付き合い酔い潰れたのはいうまでもない。だが、こうしてバアル偵察の仲間が全て揃った。

ギリアム まったくだらしがないのう。これはワシが手助けをせんとどうにもならんな。

第二章 完

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