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リングラン叙事詩 第六章 誇り高き剣士たち

(ナレーション)
とある世界
とある時代
私たちが知ることのない場所にリングラン島という島がある。
この島には一つの神話があった。

太古の昔。
二つの神による天界の争いがあった。
光の神ヴィシュ。闇の神デーム。
両者の争いは大地を揺るがし、
互いの従える竜による戦いは、やがて大地を割き、
大きなうねりは山脈を作り、
吐かれる炎が大地を焦がし砂漠となった。
そして双方の神と双方の戦いが終わり、
大地に堕ちた竜の骸を苗床に、草原は大きな森となった。

そして伝承は続く。
竜の目から生じ散らばった水晶を、神の台座に捧げしとき、
その地はあるべき姿へ回帰せん。

リングランに伝わりし、神話である。

ローレイス 騎士団・戦士団ともに砦の西方に布陣を引け。早々にスレイアールが姿を現すはずだ。
ザンスロン なかなか威勢がいいな。ローレイス殿。
ローレイス ちゃちゃを入れるために貴公は来たのですか。
ザンスロン 随分な言われようだな。さて我々も陣営を組むとするか。全員、最前線のリーデランドの戦士団の傍(わき)に布陣を構えよ。リーデランドの戦士団以上に手柄を立てろ。俺も、前線に立つ。
ローレイス ザンスロン公、貴公まで最前線にでる必要はないぞ。一旦、後方に控えてくれ。
ザンスロン 我々は雇われ戦士だ。おめおめと依頼主の後方に控えるわけには行かんだろうて。それに、その先陣の取りまとめが前に行かずしてどうする。
ローレイス しかし・・・。
ザンスロン いいか、ローレイス殿。布陣を後方から指揮するものが必要だ。今更言うまでもないが、貴殿には後方にて陣営の取りまとめを任せる。何、我らとて歴戦の傭兵。簡単に敵を通すわけには行かんからな。安心しろ。
ローレイス ザンスロン公、感謝する。
ザンスロン公 感謝するなら、給金を上げろ。ははは。

リーデランド王国の守備体制が着々と進む中、ガルハース率いるスレイアール帝国軍の先陣が遠方に見えたことをリーデランド王国の観察兵よりローレイスへ伝達があった。

ローレイス いよいよ来たか。して戦力の程はいかほどか。何、ガルハースが先頭にいるだと・・・。
ザンスロン ほう、なかなかにやりおるわ。先鋒に立つなどと、ある意味奴らしいとも言えるな。さて、では奴の相手は俺に任せていただろうか。
ローレイス まて、一人では危険だ。
ザンスロン おやおや、随分と過小評価されたものだな。ローレイス殿、まあ見ていろ。ガルハースよ。散った数多くの同胞の仇。存分にとらせていただこうか。

ザンスロン公は手にしたロングソードを抱え、力強く歩き出した。

最前に構えるのは、まごうことなくガルハースであった。ガルハースは愛馬より降り、口上を述べた。

ガルハース 我が名はガルハース。スレイアール帝国の名の下にリーデランドの地を我らがものとせん。勇あるものは我が前に現れよ。

リーデランド王国軍より、ザンスロン公が一人、歩をすすめガルハースの前までやってきた。

ザンスロン ガルハースよ。我が名はメルキア公国ザンスロン。貴様の首をもって我が同胞の慰めとせん。尋常に勝負せよ。
ガルハース 貴様がメルキアのザンスロンか。所詮傭兵如きに我が剣を抑えることなどできんわ。
ザンスロン 抑えられるかどうかは受けてから言ってもらおうか。

そういうと二人はお互いに剣を構え、一瞬の間をおいて、剣のぶつかる音が大きくこだました。二人の戦いは続き、スレイアール軍、リーデランド軍の両軍とも、先陣で戦うガルハースとザンスロンの二人の様子を伺うという硬直状態が続いたままであった。

ザンスロン 流石に重い一撃だな。
ガルハース 貴様もそれなりの太刀筋。
ザンスロン 重いといえどもこれしき、俺の剣を抑えるのはまだまだ力不足。
ガルハース ならばこちらも本気で行かせていただく。
ザンスロン ほう、軽口をたたく。では。

両者のぶつかり合いは、攻守の均衡が保たれたまま、時間は刻々と過ぎ去っていった。そして、一瞬の隙を見てザンスロンの一閃がガルハースの右腕を斬りつけ、ガルハースの腕より鮮血が飛び散った。それと同時にガルハースの一突きがザンスロンの肩を切りつけ、飛び散る鮮血で、両者ともその身を真紅に染めた。

互いに大粒の汗を流しながら時折フラつきながらも、さらに剣を構えた

ガルハース くっ。
ザンスロン うっ。なかなかやるではないか。お互いにだいぶ傷も深いようだな・・・それにしても貴様・・・リーデランドを攻めるのではないのか。全く兵を動かしておらんが。
ガルハース こちらはこちらのやり方でやらせていただく。貴様にどうこう言われる覚えはない。
ザンスロン ほう、あくまで一騎打ちを望むか。これは楽しい。
ガルハース さすが傭兵王と言ったところか。だが、私とて誇り高きスレイアールの騎士。傭兵風情には負けん。
ザンスロン はっきり言っておこう。貴様、なぜそこまで闇に落ちたスレイアールに忠誠を図る。
ガルハース 陛下の命令は絶対だ。スレイアールを統べる方への忠誠心。傭兵である貴様如きにはわかるまい。
ザンスロン ああ、わからんな。たとえ、貧しき国家であっても、デムニアの民からは絶大な信頼を得た貴様がなぜだ。これまで慕ってきたデムニアの民にまで刃を向けるような皇帝へ服従するなど正気の沙汰とは思えん。
ガルハース ええい、うるさい。私は皇帝陛下に忠誠を誓ったと何度言わせる。

そういうとザンスロンは手にした剣をさやに納め、ガルハースに背を向けて言った。

ザンスロン ふん、見ておられんな。
ガルハース 貴様、なにを・・・
ザンスロン ガルハースよ、貴様の口上、本心ではないな。剣の戦いを続けることより苦悩に歪む貴様の顔を見て戦う気も失せた。切りたければ切れ。それが騎士のやり方ならばな。
ガルハース 苦悩・・・私がだと。
ザンスロン ああ、気づかんかったか。今にも泣き出しそうな子供のようではないか。
ガルハース 貴様・・・私を愚弄する気か。
ザンスロン そう取っていただいて結構。そのようなガキ相手にむけて、手に取る剣などないわ。
ガルハース ガキ・・・だと・・・
ザンスロン そうだ。大方貴様のことだ、この軍勢も動かす気はなかったのあろう。形だけでもリーデランドを攻めなければ忠誠は果たせない。しかし、その忠誠にも迷いがある。だからこそ、1人でやってきたのではないか。自分が倒れた時は兵を引かせるつもりであったのだろう。
ガルハース なるほど・・・そこまでお見通しか。
ザンスロン 当たり前だ。俺を誰だと思っている。剣を交(か)わせばその剣がおのずと語ってくれるわ。それに長(おさ)である前に傭兵だ。戦いこそが我が人生。その中で、戦いに憂いを覚えているものを切りつけるほど落ちぶれてはおらん。ガルハースよ、ここは引け、陣営に戻って兵を安堵させろ。そしてスレイアールにとって本当に戦うべき相手に向かうがいい。それは貴様が一番わかっているはずだ。
ガルハース 本当の敵か・・・
ザンスロン そうだ、よく考えるが良い。

そういうと両者とも、負傷した傷を庇いながらお互いの陣営に戻っていた。

ザンスロン 皆のもの、ここは一旦待機していろ。俺の心配はいらん。景気付けに皆で一杯やっていいぞ。どうだリーデランドの連中も加わらんか、ははは。
ローレイス ザンスロン公・・・なぜガルハースを見逃したのだ。ことによっては貴公を斬る。
ザンスロン ローレイス殿。貴殿もあやつの顔を見れば俺と同じように思うだろうて。兵をまとめ上げるものは力だけではなく、強い信念も持ち合わせなければならん。その信念は己の真の心。その心が剣を止めた。ただそれだけのことだ。ただし、ガルハースの軍勢が止まったとして、バアルから南下するサルーデンの軍勢は止まらん。ここは布陣を見直す必要があるのではないか。
ローレイス たしかにそうではあるな。では、現在リーデランドの体制は騎士団の三分の一がこの西の砦にある。そして残るは本国に控えている。その騎士団の半分を南の砦へ配備する。
ザンスロン では、傭兵部隊の半数を南の砦を経由してモーリスタティアの北の砦へ向かわせる。
ローレイス しかし、これで西の守りは薄くなる。果たしてこれで良いものだろうか。
ザンスロン 問題なかろう。それよりも今一番憂う場所はモーリスタティアの北の砦。モーリスタティアの兵力では、到底サルーデンの軍勢は防ぐことはできまい。そこに我らが向かえば、ねじ伏せることはできるやもしれん。モーリスタティアが何を言おうと我らは傭兵。金を払っておらん所の言うことには聞く耳を持たん。
ローレイス して、貴公はどうするおつもりだ。その痛手でどうこうできるものでもあるまい。
ザンスロン 俺も北の砦へ向かう。気遣いは無用だ。それより、ローレイス殿はいかがする。
ローレイス 貴殿を疑うわけではないが、この命、女王陛下をお守りするためのもの。スレイアールの軍勢への警戒を緩めるわけにはいかん。それにしても、つくづく我らはスレイアールの連中に振り回される。
ザンスロン 全くだ。まあ、ここは一献(いっこん)いかがかな。痛っ。ガルハースめ、流石であったわ。
ローレイス ザンスロン公、無理はするな。貴公の盃ありがたくいただくとしよう。

ガルハースがスレイアール王国軍の陣営に戻ると、側近が素早くやってきた。

ガルハース 大丈夫だ。なに少し刃が掠っただけだ。今夜は一旦休戦する。各自持ち場から宿営に戻れ。

ガルハース 思ったよりも傷が深いな・・・これまでのようには動けんか。バアルの様子がどうなっているのだけでも知りたい所だが。

そうして、両者の軍勢は翌一日も互いの陣地から動くことなく時間だけが過ぎていった。
時は変わって、アルフレッド一行では、ルークスとヴァイスの詠唱が止まっていた。ルークスとヴァイスの両者とも、その場に崩れ落ちるように倒れ、アルフレッドたちが駆け寄るルークスの目の前に一羽のフクロウの姿があった。

ルークス こ・・・れ・・・が・・・私の・・・使い魔です。
アルフレッド ルークス、今は喋るな。
ヴァイス 私も・・・な・・ん・・・と・・・か・・・役目を・・・果たせた・・・ようですね・・・
ギリアム お主も少しおとなしくしておれ。
カーン 2人とも、ゆっくり休め。ここの警護は任せろ。
ルークス あり・・・がと・・・う・・・ござい・・・ます
ヴァイス 感謝・・・いた・・・します・・・

二人はそういうと、まるで眠りにつくかの様に瞼を閉じた。二人の無事を確認したカーンは、二人を木陰まで運ぶと、

カーン ありがとうな、必ずこの恩は返す。では、アルフレッドいいか。稽古の続きをするがどうだ。
アルフレッド 頼む。
カーン それにしても随分と良い手になったな。豆も潰れてなかなかに痛々しい。
アルフレッド これくらいは大丈夫で・・・っつ。
カーン 痩せ我慢するな。これを傷口におしつけておけ。
アルフレッド これは。
カーン 軽い痛み止めの薬草だ。これで挫けてはもらっては困る。さらに稽古を積んでもらうからな。では来い。
アルフレッド ああ。

カーンがアルフレッドを呼びつけると、剣を構えた。

カーン では、始める。いつでもいい。かかってこい。
アルフレッド わかった。では、いくぞ。

アルフレッドの振るった剣をカーンはことごとく弾いていく。これが小一時間過ぎた頃。

カーン どうだ。
アルフレッド ああ。だめだ。全く敵わない。
カーン そういうことを聞いているんじゃない。自分の太刀筋がどうなったかと聞いているんだ。
アルフレッド 太刀筋・・・そういえば以前より、剣を持つ手に変な力が入らなかったように思う。
カーン そうだろう。以前のお前の太刀筋には無駄が多すぎる。素振りをさせたのは、そのくせを取るためだ。まぁ荒治療だがな。ザスアルではこうして訓練させたものだ。
アルフレッド そうだったのか・・・カーン、稽古をしていただき感謝する。
カーン 感謝するなら敵の1人でも多く倒せ。まぁよく短期間でここまで成長したものだ。モーリスタティアの戦士もなかなかだな。

そうして2人の稽古が続いている間にルークスとヴァイスの体力も回復し、皆の元へと戻ってきた。

ルークス 皆さん、ご心配おかけしました。
ヴァイス 皆さん、本当に感謝いたします。
ギリアム 2人とも、ご苦労じゃったな。まあしっかり休め。
ルークス ギリアム、ありがとうございます。しかし私にはもう一仕事ありますから。使い魔をモーリスタティアの北の砦へ送ります。

ルークスがそういうと、それに呼応するようにフクロウは南の空へ飛んでいった。

ルークス 一両日中には砦におられるであろう魔導師へ今の状況をお伝えできるでしょう。
アルフレッド ルークス、ヴァイス、本当に感謝する。お二人がいなければ、現状を打破することは叶わなかった。
カーン 2人とも、今までみくびっていたところはあったが、その信念に敬意を表したい。感謝する。
ギリアム ほう。流石にザスアルの聖騎士団長。少しは改心したか、ん。
カーン 2人には敬意を評したが、お前は別だ。
アルフレッド まあまあ、2人とも。
カーン 若造は黙っていろ。
ギリアム 若造は黙っておれ。
アルフレッド はぁ、まだ若造扱いか。
カーン ははは。
ギリアム ははは。

時は進みモーリスタティア北の砦では、バアルからの侵攻に対しての体制を整えつつあったが、ルークスの使い魔により、魔導師1人が状況を把握し皆に伝えたことで、モーリスタティアの兵士の間で動揺が走っていた。そのような時である。北東方向より、一つ軍勢が北の砦へせまってきた。より一層動揺するモーリスタティア北の砦の城門に向けて軍勢の1人から大きな咆哮が上がった。

ザンスロン モーリスタティアの兵士へ告ぐ。我らはメルキアの兵団である速やかに門を開けよ。

動揺するモーリスタティア王国軍の中で、それに呼応する声が上がった。それは、すでに北の砦へ到着していたメルキア公国の傭兵団の者であった。

ザンスロン おお、我が同胞。元気であったか。バアルからの軍勢がやってこんから飽き飽きしていた所であろう。ははは。では、速やかに門を開けよ。

そういうと北の砦の城門が開き、ザンスロン公率いる傭兵団が入城した。

ザンスロン して。敵の動きは読めているのか。なるほど、モーリスタティアの偵察隊のものから、ここにはサルーデンの放つ妖魔軍が攻めてくるということか。まあ良い。多勢とはいえ所詮妖魔。志を持って攻めてくるものなど皆無だ。ここにいるモーリスタティアの兵と我らメルキアの兵とで一網打尽にしてくれるわ。

モーリスタティア王国北の砦での出来事は、ルークスの使い魔を通して、その状況をルークスからアルフレッドたちに伝えられた。

アルフレッド 伝えることができたのか。本当に良かった。ルークス、ヴァイス、2人のおかげだ。改めて感謝する。ありがとう。
カーン ザンスロン公までもが北の砦にいっておられるとはな。あのお方らしい。相当な痛手をされているようだが・・・
ギリアム して、ワシらはどう立ち回る。
ルークス 私たちがこのままバアルへ向かっても軍勢を抑えることは到底できません。であれば、私が使い魔を通じて情報を伝えることができる間に、スレイアール帝国の王都デムニアに向かうのはいかがでしょうか。
アルフレッド 確かに、俺たちが今できる最善の行動はルークスの言う通りだと思う。皆はどうか。
カーン まぁそうだろうな。ルークス、ヴァイスにはまだまだ負担をかけるだろうが、先を急ぐか。
ヴァイス カーン、ありがとうございます。私は大丈夫です。
アルフレッド よし、ではデムニアへ向かう。みんな、引き続き頼む。

第六章 完

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