見出し画像

完成まで1年7カ月!大学院生インターンによるエントランスアートプロジェクトで私たちが伝えたかったコト【前編】

エントランスアート プロジェクトとは


■ プロジェクトの特徴
- 地元現役大学生を特別インターンでお迎えしての1年7ヶ月にわたる活動
- 自由な発想で、持続可能な地域社会と当社の将来成長を表現
- デザインだけでなく、地元中小企業の研修、施工管理などもインターンとして体験
- 社内外の支援者にも多大な協力をいただき、女性メンバーが中心となってプロジェクトを実現

■ プロジェクトに掛けた思いと目的
 当社はめっき工場として、70年間地域のお客様に支えられ、ここまで事業をして参りました。製造業の中では、一見地味な仕事ではありますが、我々の得意とする加工技術は、多くの産業分野の部品に幅広くお使いいただいており、製造業の“縁の下の力持ち“的な仕事と自負しています。昨今では、日本の製造業は世界的な競争力を失いつつあるとも言われ、ここ遠州地域のものづくりも大きな転換点を迎えています。しかし、強みを持った地域の力が連携協力して挑戦することで、将来を切り開くヒントが得られるのではないか。カーボンニュートラルへの対応が避けては通れない中、遠州地域には多くのポテンシャルが眠っているのではないか。そんな、“過去への感謝と将来への希望の想いを込め、持続可能な地域産業をモチーフにしたアート・デザイン”で、社員や私どもに関わるすべての皆様と社会をもっと元気に出来ないかと思い、今回のプロジェクトに至りました。

■ エントランスアートの特徴
- 社名である三光(日・月・星)にちなみ、静岡県の県鳥である三光鳥が羽ばたく様子をウォールアートに表現。
- 三光のモチーフの、3種のブロックは70周年を意識し70ヶ。それぞれに、当社固有の社員とメンバーが協力してめっき加工を施し、ウォールアート全体が当社の立体見本帳に。
- 持続可能な地域社会と時代を俯瞰する長期視点の象徴として、地元天竜美林の天竜杉(FSC認証材)をふんだんに活用。
- 金属部品と地元木材のコントラスト、温かみを活かしたトータル空間デザインに。 
- 企画、制作の過程を記録に残し発信

■ プロジェクトを通じた効果(期待)

① 社内ブランディング
- 社員への当社の社名の由来と経営理念の浸透
- 地域社会、顧客とのつながり、ネットワーキング思考の醸成
- 社内風土、中小企業ものづくりの世界観の発信

② 学生インターン活動の記録、啓蒙
- インターン活動を通じての、地域産業交流のあり方提言
- 学生さんの学生経験、リクルーティング活動への一助


活動の記録<前編>


 静岡県浜松市に拠点を置くめっきを主とする表面処理の加工メーカー三光製作株式会社では、この度、2023年に70周年を迎えることを記念して、エントランスアートを制作しました。
 幅3.3メートルのアートが2022年10月31日にお披露目となり、納品やご商談に訪れるお客様をお出迎えしています。実はこのエントランスアート、地元の静岡文化芸術大学よりインターン生さんをお迎えして制作してもらいました。
 協力企業のみなさんや三光製作の社員とともに、約1年7カ月の年月をかけて磨き上げた一品もの。「地域の繋がりを大切にし、地域にとって無くてはならない会社としてのモノづくりをこれからも続けたい」という三光製作の理念が詰まったアートになりました。
 この記事では、構想から完成までの歩みをダイジェストでお伝えしたいと思います。

経営理念から技術力、地域産業の繋がりまでを立体的に表現したエントランスアート

 木目の美しいパネルに、羽根を大きく広げて上昇していく鳥の群れと、大小さまざまな立方体が並びます。優雅に羽ばたく3羽の鳥は、「三光鳥(サンコウチョウ)」がモチーフ。鳴き声が「ツキ・ヒー・ホシ・ホイホイホイ」と聞こえることから「月・日・星」の3つの光を招くといわれており、創業時の社名の由来とそれに込められた想いである「三光訓(※)」の象徴としました。

静岡県の「県の鳥」でもある三光鳥、しっぽをなびかせて飛ぶ姿は幻のようです。

※「三光訓」について
https://note.com/yoichi_sanko/n/n82c9430f11fb

 三光鳥を取りまく四角・三角・三角錐のブロックは、全部で70個。この数は、三光製作が2023年に設立70周年を迎えることに合わせています。光が当たると生まれるそれぞれの「印影」の形によって、太陽・月・星の輝きを幾何学的に表現しました。

 70個あるブロックには、三光製作で取り扱っているめっき(アルマイト)処理と研磨加工の組み合わせで20パターン以上の処理を施して構成されています。
 実は、こちらのブロック。1つひとつが取り外し可能となっているんです。目指したのは「3次元の見本貼」。カタログでは伝わり切らない素材や加工の質感まで味わえるリアルな見本にしました。
 ブロックの素材には、鉄・アルミニウム・ステンレスを用い、溶接加工を株式会社スズヒロ製作(浜松市北区都田町)様に依頼。職人技ならではの技術で、アートと呼ぶにふさわしい仕上げをしていただきました。
 パネルや三光鳥の体に用いたのは、「天竜杉」です。日本の3大美林に数えられる浜松の北部、天竜で取れた純国産の良質な木材をぜいたくに使用しています。木材の仕入れや加工は、家づくりに真っすぐな有限会社石牧建築(中区北寺島町)様に担当いただきました。
 さらに、総合施工管理、構造設計、造作家具の設置や内装・電気工事については、三光製作をはじめ多くの中小企業の工場設計・建築を通じ、ゼネコンの立場から地域の産業を支えてくださっている渥美建設工業株式会社(西区神原町)様にご担当いただいています。弊社からの難題にも真摯に向き合い、エントランスアートを飾る空間と商談スペースを美しく演出いただきました。 
 さまざまな取引企業さまに協力いただくことで、地域の産業が有機的に融合し未来が発展していくーーそんな浜松のモノづくりを表現したエントランスアートが完成しました。

企業の理念や想いを形に!企業でデザインの実務に挑戦

 そんな一大プロジェクトを主導してくれたのが、1人の大学院生だと知ったらみなさんは驚きますか?静岡文化芸術大学大学院で空間デザインを学ぶ横田理絵子さんは、とあるご縁からこのプロジェクトに参加してくれました。
 プロジェクトに参画したきっかけは?どんな想いでアートを完成に導いていったのでしょう?ここからは、横田さんにお話を聞きたいと思います!

ーーどんなきっかけでこのプロジェクトに参加しましたか?

横田さん:地域のコワーキングスペースに出かけたとき、そこへ仕事に来ていた山岸社長にご挨拶する機会をいただいたことがきっかけです。山岸社長は当時、エントランスアートを計画しはじめたころで、地域の学生に企画から任せたいとお話されていたんですよね。

 大学で空間デザイン 学んできた私は、「実際の企業に入って、デザイン制作ができるなんて楽しそう!」と興味津々で、コンセプト作りからデザイン制作に携わらせてもらうことになりました。それが、2021年3月のことです。

ーーコンセプトからデザインを企画するのは、なかなか難しかったのではありませんか?

横田さん:山岸社長からアートで表現したいという想いやメッセージを伺い、また三光製作の社員みなさんからも仕事内容について聞くことが出来たので、アートに反映すべきコンセプトは比較的すぐに掴めたと思います。

 さらに山岸社長は、「企業同士の横のつながりと協力によって、この地域のモノづくり産業が成長していることを伝えたい」という想いを教えてくださいました。そこで、日ごろお仕事をともにしている取引企業さんとの三光製作さんとの繋がりが見え、各社の仕事を反映したアートにしたい、と考え、2021年6月にさっそく1回目の企画書を提出しました。

1回目の企画書よりデザイン案

ーー最初の企画書を提出してみてどうでしたか?

横田さん:今になって思えば、完成形には遠かったですね。というのも、三光製作の社員さんに図面を見てもらうと、「やりたいことは分かるけど、実際に作るのは難しいよね」と言われることが多く、企画がなかなか先に進まなかったからです。改めて振り返ると、私の事業理解が不足していました……。最初の企画書を提出した後、2021年10月まで4カ月ほど企画をブラッシュアップしていきました。

ーー事業理解はどのように進めていったのですか?

横田さん:三光製作さんと日ごろから一緒に仕事をされている地元企業さん計5社に連れていってもらい、お話を聞きながら、モノづくりへの理解を深めました。

 三光製作さんの仕事であるめっき処理の前後には、本当にたくさんの工程が繋がっているのですね。たとえば前工程にはパーツの溶接や組み立て加工がありますし、めっきをほどこした部品はメーカーさんに納品されてより大きな部品や完成品に組み付けられています。そうした過程があって、モノづくりが成り立っていることを知って感動しました。

ーーそうした体験が積み重なって、企画書がブラッシュアップされていったんですね。

横田さん:はい。モノづくりにおける企業同士の繋がりも見えてきましたし、それぞれの役割や工程を理解するにつれて、デザインのあるべき姿が見えてきました。さまざまな体験を通して「月」「日」「星」の表現をブラッシュアップし、2021年10月には、取引企業さんの技術力も反映したデザインにガラッと変えていきました。その後、配列や詳細の検討を重ね、2022年5月にデザインの最終案がまとまりました。

デザインの最終案

デザインを納品して終わりではない、施工やオフィス家具のデザインにもチャレンジ

ーーやっとデザインが完成して、横田さんのミッションはコンプリートですね。ホッとしたのでは?

横田さん:私もデザインを納品するまでが自分の仕事だと思っていたんですが、「せっかくだから施工まで監修してみては?商談スペースのオフィス家具やパーテーションも作ってみてはどうか?」と山岸社長にご提案いただきまして。

ーー社長らしい提案です(笑)。その話を聞いたとき、どう思いましたか?

横田さん:詳細設計まで詰めた経験がありませんし、家具製造の技術的なことも分からないので、不安の方が大きかったです。

 でも、「ここまでやってきたのだから、せっかくなので」と山岸社長が仰ってくださって……。私の知識不足も含めて了承してくださったのと、三光製作の社員さんも伴走してくださっていたので、「よしやってみよう」と気持ちが固まっていきました。

 協力会社さんに出す図面の制作やめっき処理加工といった実際の作業も、三光製作の社員さんがサポートしてくれたお陰で、何とか進めることができました。

プロジェクト開始前のエントランススペース。
搬出入の受け付けや商談のスペースを兼ねています。

ーーやってみてイメージと異なる部分も多かったですか?

横田さん:そうですね。図面に起こしたイメージ通りに制作が進まないことは、よくありました。めっきがけの際に部品を吊り下げるための穴を開け忘れたり、溶接しづらいデザインにしてしまったり……。

前後の工程を考えて仕事を進めなければいけないことは、このプロジェクトを通じてすごく勉強になりました。

「実際に商談スペースを使っている方にも話を聞かなくちゃ!」と途中で気付き、三光製作の社員さんにアンケートも取らせていただきました。

ーー実際のユーザーに意見を聞いたのはナイスアイデアでしたね!どんな意見が集まりましたか?

横田さん:意外な結果ですが、アンケートでは「商談スペースのイメージを刷新したい」というご意見が多かったです。みなさんの打ち合せを豊かな時間にするデザインにできたらうれしいな、と思いました。

 パーテーションは、天竜の森にインスピレーションを得て、木が立ち並ぶ森林の風景を感じられるようなデザインに。「目隠しになっていてほしいけれど、完全には隠したくない」という三光製作みなさんの要望から、木板同士の間を空けたり、圧迫感を感じさせない高さにしたりしました。

 木板の表面には、日本の伝統加工である「名栗(なぐり)加工」を施してもらい、ゆらぎを感じられるデザインに。もともとは事務室の雰囲気だったスペースを、アイデアが生まれやすいクリエイティブなスペースにしたいと思いました。

天竜木材を使用したファニチャーは、すべてオリジナルデザイン

ーーそして2022年10月31日、横田さん自身でめっきをした最後のピースをはめてエントランスアートが完成しましたね。さっそくお客さまや取引先さまから好評をいただいています。

横田さん:みなさんのサポートのお陰で何とか完成できました。長い間、本当にありがとうございました!

エントランスアートプロジェクトを担当した三光製作社員の鈴木さん

鈴木さん:この度は、エントランスアートの制作にご協力くださったみなさまありがとうございました!とくに横田さんは、実際の仕事の現場で大変なこともたくさんあったと思いますが、完成まで取りくんでいただき本当にありがとうございます。
 
 社会に出る前に仕事について少しでも何かを持ち帰ってもらいたい、とずっと考えてきました。そうした意味では今回、モノづくりの一連の流れを体験していただいたことは、よい学びになったのではないかと期待しています。
 自分の頭の中のイメージやニュアンスを相手に伝え、形にしてもらうのはとても難しいことですね。
 伝えたい内容、プロセスが1つでも間違って伝わってしまうと、自分が思っていたものが出来上がらないことも......。連携やコミュニケーションもモノづくりの現場ではとっても大事です。そうしたことを今回学び取ってもらえたと思いますし、すべての経験が横田さんの糧になっていたらうれしく思います。
 
 
後編はこちらからご覧いただけます。


この記事が参加している募集

この経験に学べ

SDGsへの向き合い方

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?