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完成まで1年7カ月!大学院生インターンによるエントランスアートプロジェクトで私たちが伝えたかったコト【後編】

活動の記録<後編>


完成したエントランススペース

 三光製作株式会社ではこの度、2023年に設立70周年を迎えることを記念してエントランスアートを制作しました。こちらの前編では、プロジェクトを主導してくれた静岡文化芸術大学大学院生の横田理絵子さんに参加のきっかけや苦労したことなどをお聞きしています。


 制作過程を通じて、三光製作の製造現場では、多くの人の目に映る外観ものを手掛けるにあたり、納得いくまでめっきをやり直したり、現場の作業者からこうした方がいいのではないかと提案してもらったり……よいものを造ろうというこだわりを持ち、何度もやり取りが重ねられました。そうした現場力に支えられて、ここまでの仕上がりで完成したのだと思います。
 
 エントランスアートの制作にお力添えいただいた協力会社のみなさんも、それぞれに素晴らしい仕事を担ってくださいましたのでご紹介します。
 
 まず1社目が、板金・塗装を手がける株式会社スズヒロ製作さまです。スズヒロ製作さまでは、工作機械の制御盤を格納する金属製の箱の組み立て加工を行っており、溶接から塗装までワンストップで担えるのが同社の強みとなっています。
 
 前田純子社長のもと明るく前向きな社風であり、細やかな技術で美しい仕上げをしていらっしゃることから、三光製作の職人も一目置く会社さまです。前田純子さんと、溶接を担当された大岡宣仁さん 、内山麻由さんにお話を伺います。


確かな溶接技術で難しいアルミの三角錐にも制作対応、スズヒロ製作さま

(写真左から、大岡さん、前田社長、内山さん)

ーーどのようなきっかけで、今回のプロジェクトにご参加いただきましたか?

前田さん:三光製作の山岸社長から、「エントランスアートを作るので、手伝ってもらえますか?」と直々に仰っていただいて。「三光さんのお願いなら、喜んでやらせてください!」ってお返事したのが最初ですね。

弊社は1品物を多く扱っていますが、少量多品種に応じてくださるめっきメーカーさんは少なくて……。そんな中、1品でも快く引き受けてくださったのが三光さんで、かれこれ10年以上もお仕事をお願いしています。

技術も人材も素晴らしく、経営者としては憧れの会社です。そんな三光さんからお声がけいただいたので、お力になれることならぜひと思って参加させていただきました。

ーースズヒロ製作さんが担当された作業内容を教えていただけますか?

内山さん:ブロックのパーツを溶接し、三角錐と三角柱、四角柱それぞれの立方体に仕上げる加工作業を担当させていただきました。実際の作業は、大岡さんが担当しています。

ーー大岡さん、普段の仕事内容と異なるところはありましたか?

大岡さん:アート作品ということで、仕上がりの美しさに気をつけなければいけないところですね。日ごろ制御盤用の箱を溶接するときは、箱の内側など見えない部分に溶接を行い、磨き加工をせずにそのまま納品することが多いので。
 ですが今回のパーツは、どうしても溶接した部分が表面にプックリと乗ってしまいます。溶接で盛り上がった部分を専用のやすりで何度も優しく磨き上げ、図面通りのピンと立つ角に近づけました。

側面同士を合わせて溶接します。
溶かした金属が接合部分に盛られて残ってしまう課題がありました。

ーーとくに難しかった作業は何ですか?

大岡さん:アルミ製の三角錐の溶接です。三角錐は形が特殊で、頂点を抑えたまま溶接するのがとても難しかったです。素材としてもアルミはそもそも溶接が難しい金属です。局所的に温めることが難しいので、母材全体が温まるのを待ってから溶接しなければいけないからです。母材全体が高温になりますから、溶接箇所に穴が開いたり、マグマ状態になったアルミの塊が落ちてきたりしてプロでも取り扱いが難しいのです。
 熱の伝わり方を見越して溶接電流を低めに設定しておいたり、母材に熱がたまってくる後半はよりスピーディに手を動かしたり。何度かテストして、ほどよい作業条件を見つけていきました。

試行錯誤を繰り返して仕上げてくださいました。

内山さん:この道27年の大岡さんでなければ、アルミ三角錐の仕上げは難しかったかもしれませんね……。

ーーなるほど、さらには出来栄えも考えなければいけないというのは、なかなか難しいオーダーだったように感じますね。

大岡さん:壁に飾られるとも聞いていたので、溶接した面がはがれてしまわないように、ある程度の強度も必要だと思いました。側面のパーツとパーツを合わせるときに1ミリ程度のすき間をあけて、そこに溶かしたアルミを流して固めることで、研磨仕上げを経ても一定の厚みが残るようにしました。

ーー前処理の方法も工夫されたんですね。そうした難しいオーダーにも応えられたのは、なぜですか?

大岡さん:スズヒロ製作では1品ものを多く取り扱っているので、日々いろんな技術を試しているからだと思います。どうやったら実現できるかを考えるのが好きな私自身の性格もあるかもしれません。

内山さん:大量生産品をメインに扱っていたり、自動化を進めていたりする会社だと、職人が工夫する余地が少なくなってしまいますもんね。私は未経験でスズヒロ製作に入社しましたが、師匠に厳しく鍛えてもらったお陰で、難しい加工にも向き合えるようになりました。

溶接女子として有名な内山さん。「第33回 優秀板金技能フェア」造形品の部にてグランプリを受賞するなど、確かな技術に定評があります。

ーー前田さんはスズヒロ製作の代表として、今回のプロジェクトに参加してどんな感想をお持ちですか?

前田さん:以前にも増して社員を誇りに思い、彼らの可能性を信じられるようになり、参加させていただきありがたく思います。仕事ぶりについてゆっくり聞く機会となり、大岡さんが細部まで考え抜いて、日々の仕事を工夫してくれていることを改めて知ることができました。

内山さん:協力企業のみなさんも仕事に真っすぐで、楽しみながら仕事に向き合っている姿が見られていい刺激になりました。
 私が溶接の仕事をがんばっているのは、息子や娘に自分の背中を見せたいという気持ちもあります。横田さんが今回のプロジェクトをやりきったことは素晴らしい成果ですので、この取り組みで生まれたものが、次世代につながっていったらうれしいですね。

前田さん:たくさんの人の想いが1つのアートに繋がっていきましたね。社員はもちろん、私にとっても成長の機会となりました。参加させていただき、本当にありがとうございました。


信じているからこそ仕事の厳しさも教えてくださった木工建築メーカー石牧建築さま

 続いて、エントランスアートの木工や、商談スペースのオフィス家具を製作いただいた、有限会社石牧建築さまをご紹介します。石牧建築さまは、「日々の暮らしを楽しみ、末永く愛される家」をコンセプトに、設計から施工までを一貫して請け負う住宅メーカーです。
 
 地元天竜の木材、珪藻土や漆喰、漆などの自然素材を活かした家づくりに定評あり。大工仕事を外注する会社が増えている中、石牧建築さまでは職人さんたちを直接雇用し、技術力を大切に育んでいます。第3回ふじのくに木使い建築施設 最優秀賞、浜松ウッドコレクション2018住宅部門 最優秀賞など、受賞も多数。
 
 そんな石牧建築の取締役、佐原広祐さんに、今回のエントランスアートプロジェクトに参加した背景や感想を伺いました!
 
ーーどのようなきっかけで、今回のプロジェクトにご参加いただきましたか?
 
佐原さん:きっかけは、三光製作の山岸社長と「山でお会いしたこと」ですね。天竜材のNo.1シェアを誇る木材メーカーの株式会社フジイチさん主催の「天竜美林体験ツアー」で、2021年12月22日にご一緒させていただいたのがスタートです。

 そこで山岸社長から「天竜材を使ったアートを作りたいので、手伝ってもらえませんか?」と仰っていただいたんです。
 そのときせっかくなので、企業のオフィスなど非住居建築に対して、浜松市が天竜材の使用を支援していることをお話しました。 それならば商談スペースごとリニューアルしたいとオーダーをいただき、エントランスアートの一部の木工だけでなく、オフィス家具の造作までお手伝いする流れになりました。横田さんがデザインした図面をいただいて、それぞれの製作を進めました。

ーー天竜材の使用に対する浜松市の支援とは、適切に管理された森林としてFSC:Forest Stewardship Council®:森林管理協議会に認められた「FSC®森林認証材」 の使用を推進するものですか?

佐原さん:そうです。FSC®とは、責任ある管理が行われている森林とそこから産出される木材を認証する世界基準の制度です。天竜林業の持続可能な森林経営のため、浜松市はFSC®森林認証材の普及に力を入れています。

 認証された木材が消費者に届くためには、森林はもちろん、製材・加工業者、流通、工務店も認証事業体でなければいけません。弊社ではFSC®森林認証の木材の仕入れから空間づくりまでご支援できますので、FSC®森林認証材の活用を提案させていただきました。

 石牧建築で使用している木材は「天然乾燥」している木になります。これは、建築するにも質がよく、世の中で多く使われている人工乾燥させた木材と比べると、木を乾燥させる際に使用される重油、排出される二酸化炭素が削減されるため、地球環境にもやさしい木材になります。

受付け台や三光鳥の尾っぽには、日本古来の表面仕上げである「名栗(なぐり)」加工が。
名栗加工ができる職人は、国内にもう数えるほどしか存在しないそう。
貴重な職人技をおしげもなく披露していただきました。

ーー製作過程で難しかったのはどんなところですか?

佐原さん:アート作品につき、凝ったデザインが多かったことです。たとえば、三光鳥の胴体に使う丸太の輪切りがほしいと言われましたが、そもそも住宅メーカーである僕らは丸太の端切れを扱っていません。さらに、デザインに合わせて「丸太をちぎった感じでほしい」というオーダーだったので、イメージを忠実に再現するのは難しかったですね。
 三光製作さんと相談して、フジイチさんに頼んで丸太の輪切りをもらい、加工は横田さんに委ねることにしました。その理由は、鳥の胴体といった微細なデザインを丸太で表現するのは難しいということや、想いの通りの形になるかならないかも含めて、実際に手を動かしてもらい、モノづくりの苦労を経験してもらうことが大事だと判断したからです。

 社会人になったら、自分のアウトプットに責任を持つことが大事になりますよね。デザインや図面を渡しただけでは、周りは思い通りに動いてくれません。自ら行動することが大切です。そうしたモノづくりの苦労を経験してもらうことが将来のためになると信じて、横田さんにゆだねました。

ーー誠実なご判断だと感じます。今回のプロジェクトに参加して、どんな感想をお持ちですか?

佐原さん:就職活動もあった中、あきらめず完成までやり切った横田さんは立派ですね。就職先は、幅広い建築・建設物のデザインを手がける会社に決まったと報告をもらいました。

 ぜひ横田さんには、この業界を辞めずに経験を積み重ねていってほしいです。華々しいイメージと現場の大変さとのギャップに、辞めてしまう人も多いのですが、業界を離れてしまうと技術も経験もゼロになってしまいます。それは、若い方の人生にとって、すごくもったいないことだと感じるので……。
 横田さんの広い視野の片隅に、「浜松で愚直に家を建ててる人たちもいたな」と記憶を残してもらえたら。社会人生活では辛いこともあると思いますが、そんなときは僕たちを思い出して、めげずに楽しく建築・建設業の仕事を続けてもらえたらうれしいです。

住宅・建設の総合デザイン企業に内定、就職前に「大切なコト」を学ばせてもらった

もちろん、実際のアートに使われたブロックのめっき作業にも挑戦!

 以上、協力会社さまにも感想を伺ってきて、横田さんはどんな感想を持ってくれたでしょうか?最後に本プロジェクトに対する感想を聞きました。

ーーエントランスアートが無事に完成した今、プロジェクトを振り返ってみてどう思いますか?

横田さん:知らずに就職していたら惜しいと思えることがたくさんありました。図面を引いて「これを作ってください」と職人さんに渡すのが仕事のゴールではないこと。形になるデザインを作るためには、前工程や後工程を考慮しなければいけないこと。

そして、どんなモノづくりも1社では完結しないこと......。

制作の様子

 地域の企業同士がまるで家族のように繋がり産業が成り立っていて、どの企業のみなさんもプライドを持って楽しそうにモノづくりに励んでいたのは印象的でした。

 そうした経験をさせていただいたお陰で、私も、想いのこもったモノづくりに価値を感じるようになったと思います。たとえば最近、財布を買い替えたんです。これまでは、大学生らしくちょっぴりミーハーな海外ブランドを持っていたんですが、職人さんが手づくりしている日本製のお財布に替えました。
 折り紙から着想したデザインで、縫い目がほとんどありません。本革を使用していますが、縫う工程が少ない分お値段は良心的。使いこむほど味わいが出てくるそうで、そういうストーリーに惹かれるようになってきたのは、インターン中に本格的な制作を任せてもらったお陰です。

ーー2023年4月に企業への就職を控えた横田さん。今後はどうなっていきたいですか?

横田さん:就職活動では、設計やデザインの専門職ではなく、総合職を目指しました。総合職を選んだ理由は、お客さまの想いをくみ取り形にするまで、責任をもって取り組みたいと思ったからです。
 就職先は東京になりますが、浜松は折に触れてまた帰ってきたい心のふるさとです。今回のエントランスプロジェクトで勉強させてもらったことを、これからの社会人生活でも生かしていきたいと思います!

~ END ~


エントランスアート プロジェクトとは


■ プロジェクトの特徴
- 地元現役大学生を特別インターンでお迎えしての1年7ヶ月にわたる活動
- 自由な発想で、持続可能な地域社会と当社の将来成長を表現
- デザインだけでなく、地元中小企業の研修、施工管理などもインターンとして体験
- 社内外の支援者にも多大な協力をいただき、女性メンバーが中心となってプロジェクトを実現

■ プロジェクトに掛けた思いと目的
 当社はめっき工場として、70年間地域のお客様に支えられ、ここまで事業をして参りました。製造業の中では、一見地味な仕事ではありますが、我々の得意とする加工技術は、多くの産業分野の部品に幅広くお使いいただいており、製造業の“縁の下の力持ち“的な仕事と自負しています。昨今では、日本の製造業は世界的な競争力を失いつつあるとも言われ、ここ遠州地域のものづくりも大きな転換点を迎えています。しかし、強みを持った地域の力が連携協力して挑戦することで、将来を切り開くヒントが得られるのではないか。カーボンニュートラルへの対応が避けては通れない中、遠州地域には多くのポテンシャルが眠っているのではないか。そんな、“過去への感謝と将来への希望の想いを込め、持続可能な地域産業をモチーフにしたアート・デザイン”で、社員や私どもに関わるすべての皆様と社会をもっと元気に出来ないかと思い、今回のプロジェクトに至りました。
- 当社に日々、お越しいただくお客様や取引先さんへの当社の想いの発信
- 社内外コミュニケーションの話題、きっかけづくり
- 社内ブランディングと人財育成

■ エントランスアートの特徴
- 社名である三光(日・月・星)にちなみ、静岡県の県鳥である三光鳥が羽ばたく様子をウォールアートに表現。
- 三光のモチーフの、3種のブロックは70周年を意識し70ヶ。それぞれに、当社固有の社員とメンバーが協力してめっき加工を施し、ウォールアート全体が当社の立体見本帳に。
- 持続可能な地域社会と時代を俯瞰する長期視点の象徴として、地元天竜美林の天竜杉(FSC認証材)をふんだんに活用。
- 金属部品と地元木材のコントラスト、温かみを活かしたトータル空間デザインに。 
- 企画、制作の過程を記録に残し発信

■ プロジェクトを通じた効果(期待)

① 社内ブランディング
- 社員への当社の社名の由来と経営理念の浸透
- 地域社会、顧客とのつながり、ネットワーキング思考の醸成
- 社内風土、中小企業ものづくりの世界観の発信

② 学生インターン活動の記録、啓蒙
- インターン活動を通じての、地域産業交流のあり方提言
- 学生さんの学生経験、リクルーティング活動への一助



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