見出し画像

VISION -ミネルバ大学にみる未来像 -

日本でもしばし注目されてきたミネルバ大学をご存知でしょうか。
2011年設立し、2014年開校。毎年25,000人が応募して合格率1%。現在4学年で約600人の在籍という世界最難関大学です。さらに加えてお伝えするとこちらの卒業生は企業・非営利団体・政府機関のエリート揃いで、アメリカ系は15%、他国は75%で70カ国からの出身だそう。この大学には様々な視点を学ぶことができます。

特筆すべきは、ミネルバ大学の"リベラルアーツプログラム"。これは、21世紀スキルと言われる「批判的思考」「創造的な問題解決」「効果的なコミュニケーションと交流」「異文化対応能力」の基礎スキルを学び体得します。地球上の全ての大学が全く同じことを言っていますが、実際に大学はそれらのスキルを全く提供していなかった。そういう意味でこの大学は画期的です。座学ではなく、体得するのですから。

これらの基礎能力を身につける教育を受けることができるミネルバ大学の価値は「ファー・トランスファー」と呼ばれています。ある状況下で学んだことを別の状況下で応用できる能力を指します。今の言葉あえて使うなら「ファー・トランスファー」は,批判的思考のメタ認知スキルの中核と言えるでしょう。転用可能なスキルをミネルバよりも前に教えた高等教育機関が存在しなかったのかもしれません。これって、どういう意味で捉えたらいいのでしょうか。

山中伸弥氏の"IPS細胞発見"

2012年のノーベル医学・生理学賞を取った山中伸弥氏をご存知ですか?

体のさまざまな組織の細胞になる能力がある「人工多能性幹細胞(iPS細胞)」を開発された京都大学iPS細胞研究所長・教授の山中伸弥先生。iPS細胞は、今後、再生医学や創薬の切り札になることが期待されています。

山中先生は神戸大学医学部卒業後、国立大阪病院で整形外科の研修医として勤務された後、大阪市立大学の大学院に進学。その後研究生活を続けられ、ついにiPS細胞の開発に成功されました。しかし実は整形外科医としては山中伸弥教授は神戸大学で外科医で挫折し、研究者として1993年サンフランシスコ大学グラッドストーン研究所で受精卵からES細胞を発見。様々な細胞にいたることを発表しました。

E S細胞を受精卵を使わないでできないと万能細胞にならない。その画期的に展開できたのは、奈良先端技術大学の異分野での植物学の島本教授の言葉である「植物は万能細胞だらけであります。受精卵でなくても、身体の細胞から万能細胞を作るのは,あたりまえ」に大いに刺激されて、全身細胞からE S細胞を取得できたといいます。まさにこれが「ファー・トランスファー」 の事例とも言えるのではないでしょうか。

野中郁次郎名誉教授の"企業進化論"

この場で何度もお伝えしている野中先生。彼の「企業進化論もまた「ファー・トランスファー」の発想だと言えるでしょう。

企業を生命論的に捉えなおし「創発」「場」「自己組織化」などのキーワードは、生命論を経営に近づけた清水博東大名誉教授と同様に、ファー・トランスファーアプローチです。

そうそう、料理人でフードライターのレイチェル・クー(The Little Paris Kitchen「パリの小さなキッチン」)もファー・トランスファーを実践している人ですね。彼女は,大学でグラフィックデザイン、映像、メディアアートを学び、アートと料理をテーマにしています。

書籍でいうなら『葬送』(平野啓一郎著)もあげておきましょうか。舞台は、19世紀ポーランドの音楽家ショパンと画家ドラクロアとの友情。異なるアートでの刺激、これもまたファー・トランスファーだと言えるでしょう。

結論の代わりに

ファー・トランスファーアプローチとは、まず自分の原点である存在意義を明らかにすることが出発点ではないでしょうか? その意味からすると、メタ認知で自分を高い視点から認識することが極めて重要だと私は考えます。

山中伸弥教授は、グラッドストーン研究所所長ロバートマーレに、
「キーワードは"VW"( 意味:V=Vision、W= work hard)。visionをしっかり持つことと、work hard」
が成功するキーワードだと言われたそうです。実はそれまで山中伸弥教授は、visionが不鮮明だったと言います。結果として、なんとなく研究をすることから「iPS細胞で人類を救う。命を救う」ことがvisionとして明確になってから,全く意識が変わったと言います。

【我々は,visionを持っているか!】
【何の為にやっているのか!】
生命の誕生日を解明するこのvisionが、人間を培うのだと私は信じます。

ファー・トランスファーアプローチとは、その方にとっての強いvisionがある時にだけ、機能するのではないでしょうか。

(完)