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外国人経営者による日本文化を知る力とは -GODIVA・T-fal事例-

どうやらこの頃の日本人は、過去の既成概念に縛られて、自ら新しい動きをせず保身しながら生活する方が多いようです。これは個人だけではなく日系企業としても同じかもしれません。
その一方、むしろ日本人ではなく外国人経営者が、日本の文化や美意識、生活スタイルを探究し、見事に再生されているという企業が存在します。
今日はこの点に注目し、2つの事例をご紹介してみようと思います。

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事例1)GODIVA Japan【日本流のパーパス経営】
 - 直近7年間で売上3倍にした
 - ジャパンは本社からの売却となったが、結果としてファンド支援の中でベルギーの工場まで傘下する

■ミッションからの発想>>
 従来までのゴディバイメージを守るのではなく、ブランドとお客様との関係を重視して、どこで買えるかといった「ブランドの格」ではなく「タッチポイント」として発想転換。従来までの百貨店や専門店だけでなく、新しいチャネルを開発。CDSやスーパー、さらにECを連動させることを実現した。

【ジェローム・シュシャン社長】
今までの社内の会議は論理的かつ平面的であると言及。店舗でのリアルな体験は、目と耳と鼻と皮膚感覚、身体全体の体感知によると提唱。故にチャネル拡大を決断。 
【アクション】
CVSローソンでゴディバロールケーキ400円(通常150円)で販売。       当初、日本人スタッフ全員がゴディバをローソンの「ウチカフェ」で販売することを反対(同様に、ゴディバアイスクリームをCVSに置く事を社長が決めた時も、日本人社員が論理で反発)。
【結果】CVSで購入した顧客が「ローソンで買ったGODIVAの美味しい」とソーシャル投稿が広まる。その後、YouTubeで拡散で拡散し顧客に受け入れたことに対して反対していた社員も認めざるをえなかった。
【導かれたもの】Z世代やミレニアル世代は、認知、購入からアドボケーターになるまでのカスタマージャニーが多元的かつ円環している。

(参考情報:上智大学 社会人プログラム 正射必中vol6より)

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事例2)ティファール【学ぶのは、顧客。直感的閃き】
- グループセブJapanは、2015年のマイナス2割減の業績低迷からV字回復で、年間200億から300億円規模となる。
- V字回復の最大要因は「日本に合わせた商品開発と売り方」→日本の食文化の研究、美意識、ライフスタイルの研究、顧客を知る姿勢に注力

■ブバラ社長の「メイドフォージャパン」戦略
「メイドフォージャパン」を掲げるブバラ社長のミッションは「日本人の文化理解と、直営店25店舗による売り場での顧客情報を吸収すること。社長の自らの足で顧客や売り場を訪問。

【ブバラ社長】
2014年発売の"アクティフライ"が大失敗を受け、「日本人の為(メイドフォージャパン)に」というミッションを掲げ、徹底した食生活の研究(顧客と、量販店のチェック)を指示。
【アクション】本国主導で製造したものだけではなく、日本人の生活スタイルや生活習慣、美意識など取り込んだ製品開発に注力。
【結果】フライパン 5700万枚の大ヒット(日本オリジナルな焼き物、煮物、鍋にもティファールフライパンが使える。またフライパンには注ぎ口があり、ソースを溢さない、などの工夫)。時短鍋(電気だから他の仕事ができる)の開発、丸洗いできるケトル/茶こしのケトルなどの発売
【導かれた変化】国内スタッフの意識変化から、本国スタッフとの関係性も改善。フランス本国も日本向け商品開発をする姿勢へ

 (参考情報:「カンブリア宮殿」(8月26日放映)/テレ東B I Zビジネスオンデマンドより)

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この2つの事例は、弊社が実践している「仮説生成(アブダクション)からセンスメイキング理論」によって以下のように解説することができます。

「センスメイキング理論」について少し触れておきましょう。
この考え方は、ミシガン大学組織心理学者カールワイクにより提唱されたもので、その本質は「納得」であり「腹落ち」にあります。これは、見通しの難しい VUCA時代に、組織がどのように柔軟に意思決定し、新しいものを生み出すかに示唆を与えられるとして注目されているものです。そのステップは3つあります。

まず第1ステップ、「環境の感知(scanning)」にあります。
 ①危機的な状況
 ・事例1)ゴディバでは、親会社からの離脱で独自のゴディバジャパンを形成する危機意識。さらに流通では、コロナ禍により、百貨店や専門店ルートの停滞への対処が必要
 ・事例2)ティファールは、2015年、対前年比20%減の業績低迷に至ったこと
 ②アイデンティティへの脅威
 ・自社の強み・事業の陳腐化を感知できるか
つまり①と②を感知しなければ、イノベーション創出など必要なくなってしまいます。

現在、私が対応している企業では昨今の大きな変動に加えてのコロナ禍で、①と②が必要な企業が極めて多いという実感があります。
またこの感知によって導かれるアブダクション(仮説推論)は【目的意識】必要になるでしょう。

ちなみに、アブダクションが新しい知を生み出す過程を野中郁次郎先生は、著書「直観の経営」で、次のように設定しています。
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「自分の想いに基づいて、焦点を決めて、細目を観察してそれらを総合にすることにより、仮説が生まれます。
演繹法は、与えられた論理的命題から、個別の事象を分析し、その真偽を導きますが与えられた命題を越える発見はありません。
帰納法は、現実の個別事象の集積から普遍的な真理を抽出して新たな命題を提示しますが、絶えず例外という問題に悩まされます。
アブダクションは、現実の個別事象の微かな徴候にも驚きや変化を察知し、関係するありとあらゆる知見を統合して、自在な仮説を
作り、試行錯誤的に検証しながら、新たな発見に至るのです。」
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次に第2ステップ、これは「解釈・意味づけ(interpretation)」を揃える作業です。
・多義的な解釈の「足並みを揃える」、解釈を集約するという作業です。このプロセスを「組織化」と呼ぶこともあります。
・またストーリーテリング、ストーリーメイキング法、ナラティブ(もの語り)など、「どのようにストーリーを伝えるか」というプロセスが重要になります。
ゴディバジャパン社長は、このナラティブとして日本の弓道「正射必中」を上手く使いながら、目の前の現実の意味や、自分達の
取り組んでいる意義をみせました。

最後に第3ステップです。これは、実際に行動起こすことによって環境に働きかける「行動・行為(enactment)」です。 
 ゴディバジャパンでは、ゴディバアイスクリームをCVSやスーパーで販売しながら、専門店や百貨店以外でオムニチャンネル化し、Z世代のYouTube活用に結びつけました。
 ティファールにおいては、日本人についての考察結果を用いて仮説生成をベースにフライパン注ぎ口ある開発を行いました。

このようなステップを経て、紹介した2社は「センスメイキング理論」の根幹にある未来を作り出せる作業へと昇華したと言えるでしょう。

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なおこれら事例を踏まえて、弊社では以下の内容でセミナーを準備しております。
内容としては、ポストSDG s方法論を考える手法について、あえてこれでもかというくらい「日本人として日本文化」に注力してみようかというテーマです。

①ゴディバ シュシャン社長が提唱している「正射必中」のような弓道にみる日本古来の神道、花道、武士道、禅、茶の湯、日本画、日本庭園、無常、わび、さび、の中に共通するものを見出せるのか考察。
②世界に拡がった日本の禅の考え方を鈴木大拙「無分別智」から捉える。
③日本哲学の重鎮西田幾多郎氏「純粋経験」と野中郁次郎先生の理論「暗黙知」を考察。
④日本人とは何者か!、日本人の美意識を九鬼周造氏「いきの構造」から考察。

ご案内できる状況になりましたら、またこちらでご案内します。
長文お付き合いありがとうございました。

(完)