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(特別対談):「AI時代だから、ヒューマナイズ ストラテジーを!」(池谷雄二郎さん)

・・・日本のマーケティングリサーチの変革

#センスメイキング 、#アブダクション、#ストーリーメイキング、#エスノグラフィー、#リサーチャー、#組織学習

はじめに)

日本企業になぜ活力がなくなってきたのでしょうか!

その三大要因を、野中郁次郎名誉教授は、
①オーバーアナリシス(過剰分析)
②オーバープランニング(過剰計画)
③オーバーガバナンス(過剰危機管理)
とお話しされていらっしゃいます。

今こそ、日常の数字化による危機を考え、直接体験の意味を考えなければないではないでしょうか!

私の関わっている経営やマーケティング領域で、文化人類学や現象学、哲学、社会学などを合わせながら、人間の捉え方がいま最大のテーマになっていると考えられます。

【身体感覚は、脳ブレーンを通すよりも、0.5秒早い。】

まさにデジタル時代だからこその人間力の視点です。

1、AIによって、マーケティング&リサーチは、効率だけではない【人間力】が試される時代になった
・・何故、主観が大切になったか!

今回は、
日本マーケティング・リサーチ協会の理事で、トークアイさんのCOOで、私と10年近く様々な作業をされていらっしゃる
池谷雄二郎さんと話します。
まずは、池谷さん、プロフィールを簡単にお話しいただけますでしょうか!

(池谷)
私は、大学卒業してすぐにマーケティングリサーチ会社リサーチ・アンド・ディベロプメント社(R&D)に入りました。色々な企業との取り引きのなかで、世の中の仕組みやどんなことに人は動かされるのか、多面的に知れるのではないかと興味を持ったからです。
R&D時代は、地域開発や事業開発に関わるような調査に多く関わり、顧客満足度調査を日本に導入する新会社設立にも関わりました。その後、財務経理や総務、人事、経営企画など会社のあらゆる機能組織に携わり、経営トップも経験させてもらいました。
今はトークアイで、消費財メーカー中心にリサーチの企画や運営を現場でプロデュースしています。
あとご紹介があったように業界団体である日本マーケティング・リサーチ協会の理事として定性調査の担当理事を務めています。

(黒木)
ご紹介をありがとうございます。
早速ですが、
この数年間で、ロジカル思考だけでは、この
VUC Aの時代は通用しないと考えております。
PDCAを回すカイゼン・効率重視の戦略では、同じような回答して出ないし、イノベーションが起きにくい現象を現場では、感じます。

回答は一つではない。
現在は、静的ではなく、極めて動的、かつ変化が激しい。


例えば、多変量解析で、よく因子分析などでクラスター分析を使いながら、ターゲットアプローチをすることが、マスメディア全盛期には頻繁でした。
しかし、クラスター分析して仮に5〜7つにプロットしても、変化の激しい昨今では、余程因子の設定を上手にしても、変化してしまう。
説明の為の説明にしか過ぎないケースが出てきます。


そのような客観的と言われるアプローチよりも、人間としての想い、主観的な意味や価値を明らかにして、相互に対話するときに、共感や共鳴が生まれて
個人の意見が、二人で対話し集団の知になり、
それが徐々に組織に浸透する。
我々は、新しい従来にない考え方、アイデアをコンセプトにする 観点を変える力を生み出すプロセスが、重視されていると感じます。

リサーチ業界は、それに対してどのように対応していているのか、教えて下さい。

(池谷)
業界でどう取り組んでいるかは難しいところですね。リサーチは客観性が大事ですし、様々なテクノロジーを活かして如何にデータを速く集めて処理するか、複雑に分析するかが大手の主軸ですから、その点では主観からは遠いですね。

一方で私がやっているような定性調査では、構成的なアプローチよりも非構成で冗長的なアプローチをして探索して行こうということも徐々に増えています。調査結果から何を読み取るか、どう考えるかをその場で話し合うような機会も増えています。ここでは、単にその調査の結果だけでなく、これまでの経験から語ることが求められるので、主観的な思考、分析が必要になっています。
量的な調査でも7割でいいからスピードと見解を求められることもあるので、そこではリサーチャーの主観も大事になっていますね。

2、「人間らしさ」よりも、「人間くささ」

(黒木)
ご指摘いただきました「テクノロジーを活かして如何に複雑に分析する大手の主軸という」この姿勢は時として、問題になることもあります。
Xを考えないDX、トランスフォーメーション変革を引き起こす仮説を作ること、アブダクション(人間の観察力、直観で、結果から原因がどのようなものかを推測し、観察された事実の手法 「直観経営」野中郁次郎 山口一郎著 角川出版)に通じる作業が必要であり、このアブダクションが、
高質な暗黙知を生み出す。全く真逆の分析過多の姿勢が、新しいイノベーションを生み出すのに弊害になってはいなかったでしょうか!

そんな中で、いままでは、主観的な見解や仮説を意識されているリサーチ会社などなかなか存在しなかったと思います。
池谷さんは、そんな中で、最前線でそのリサーチ業界の在り方、存在価値を変えていこうというアグレッシブがいいですね。

(池谷)
以前の会社で社長時代に「マーケティングプロデュース・カンパニー」になることを目指していました。目的や課題を作り出して提案し、そのために必要なリサーチをするリサーチ会社のイメージです。
リサーチ業界として受注産業からの脱却はこれまでもずっと課題です。そのためにデータベースを作ったり、手法を開発したりしています。
でも大事なのは、商品開発のできるだけ早い段階から相談される、関われる存在になることだと思います。

(黒木)
従来まで、リサーチとは、「客観的に正確に分析した実証した結果は、誰にでも共有できる普遍的な真理・真実である。」という実証主義的立場 が主体であったと思います。

それに対して、【関係性】を考慮する。
主体と客体は、相互依存関係で成立する。一体になって考える。
【主体→客体】
ではなくて、
【主体⇄客体】
になっています。
フィールドワークの最初から予定調和ではなく、
まず、観察(観ること)から始め、何を感じるかが、重視されていると思います。


今や暗黙知の獲得し、共有することが、
潜在的意識や、インサイトを見いだすことが、共感に繋がるさらに共鳴にもなる。

日本哲学の礎を作った西田幾多郎先生の【純粋経験】では、単に交わりを客体とするのではなく、純粋に物我一体になるということになるという概念は、西欧にはない日本独自の概念であり、先ほど述べた【主体⇄客体】と類似していますね。


現象学の祖、フッサールは、現象学によって日常的に潜む哲学的問題に私達の目を向けさせてくれました。
フッサールは、
「世界がそこに客観的に存在する」という信念を括弧に入れる。(エポケー:現象学的判断中止)と説明しています。

マーケティングや経営が、経済学や統計だけではなく、
現象学、文化人類学、哲学的なアプローチ
主観的、【我と汝による対話】が必要性が重視されているのは上記のようなことからだと考えます。


人間らしいというよりも【人間くささ】と言った方が相応しい。
リサーチにおいては、どのようにリサーチャー育成をされていらっしゃるのでしょうか!

(池谷)
【人間くささ】いいですね。そこには個性が感じられますし、表面的ではない感じがします。

リサーチャー育成は、統計学とか手法特性、マーケティング知識などの専門スキルを身につけることからスタートします。
キャリアを重ねる中で、幅が広がったり、得意分野の経験が深くなったりしていきますが、知識は増えても、視野、視角、視点の広がりや深まりが進まないところがあります。
どんな仕事をしていくかが成長には重要ですが、分業が進んで仕事が限定的になりがちで、ひたすらこなし方がうまくなって行くのが気になっています。
人が成長するには仕事の仕方が、育てるには仕事のさせ方が大事だと思っています。

3、直観力のあるリサーチャーほど、目的意識と志が高くなる

(黒木)
大切な視点ですね。
仕事の仕方、その方のやりたいこと、
そして志が明確なことは大切ではないでしょうか!

10年前に、弊社に飛び込みできたリサーチ会社のある営業がいました。たまたま私がその時間合致して、その方に、
「君の志はなんだ」
と初対面で聞きました。そんなことを人生で聞かれたことなかったと、後日その方は面くらったと言ってました。(苦笑)
これはリサーチャーに限らず、自分の目的、志をまず明らかにする。
そして問う力が必要なっているのでは。
統計学を最初に私どもも学びました。思考法としては大切であり、数字の処理の仕方、分析視点を徹底的に叩き込まれました。

日常の数値化を重視するあまり、直観が蔑ろされてはいけないと思います。

それでは、リサーチャーを成長させる仕事の仕方をここで具体的に教えて下さい。

(池谷)
黒木さんがおっしゃるように、まずは目的から考えることですね。
常に目的を考える習慣をつけること、そして誰かと話して自分の考えを整理するという仕事の仕方を身につけられるようにすることです。
仕事の仕方は組織風土でもありますから、常に目的が問われ、対話がなされる、そういうやり方が当たり前に行われるといいですね。

(黒木)
その目的に関してこんな有名な話があります。
3人のレンガ職人(石工)の話をドラッカーは、例に出しています。

▪️▪️▪️▪️
ロンドンの大火のセントポール大聖堂の再建を任されたクリストファー・レンが、1671年、実際に工事現場で体験した実話からです。
ある旅人が、3人のレンガ職人に、何をしているのと、尋ねます。
一人目のレンガ職人は、
「レンガ積みをしている。朝から晩まで、レンガ積みをしなくちゃいけないのさ。雨の日も寒い日もどんな時も一日レンガ積みさ。」

2人目のレンガ職人は、
「俺は、ここで大きなカベを作っているんだ。これが俺の仕事でね。この仕事のおかげで、俺は、家族を養っていける」

3人目のレンガ職人は、
「歴史に残る偉大な大聖堂を作っているんだ。ここで多くの人が祝福を受け、悲しみを払うんだぜ!素晴らしいだろう!」
▪️▪️▪️▪️

明らかに三人目の目的には、共通善の利他の視点があり、世の為になる視点があります。

(池谷)
何かを提供するビジネスの世界では、目的は利他を通じた利己になるはずです。
目的が自分事になるとおもしろくなりますからね。3人目の職人のように仕事に取り組めたら、楽しいですよね。

目標は、目的を達成するための道標ではあっても目的とは違います。
以前の会社で数値目標なくして目的でマネジメントすることに取り組んだら、数値目標ないと部下を動かせないという上司、数字がないとやりがいがないというスタッフがいました。
やりたくないことやるには、目に見える成果とやらなきゃいけない動機付けが必要だという言い分でした。
一人目や二人目の職人ですよね。
仕事ってそういうものだと思っている人多いと思います。

仕事と生活とか趣味とかを分けて考えること多いと思いますが、一人の人のやることだから繋がってます。
無理に分けて考えずに繋げて考えるといいと思うんです。
特に我々のようにマーケティングの仕事していたら、生活の知識や経験と仕事の知識や経験は相互に生きてきますし、趣味の知識や経験は更に広がりを与えてくれます。
繋げてくれるのは人生の目的であったり、黒木さんがよく言う大目的なんじゃないですかね。

(黒木)
大目的って,時間の概念がはっきりしていて100年後にまで描くようなら本質的上質なものですね。共通善に繋がる。
自分がどのような未来になってほしいかを主観で考えることが大切です。
自分ゴトで考え尽くすことです。

「為すべき 意味や意義と最後の終結を共有し、企業,組織,個人を,実践に向かわせます。動的なコンセプトだと」野中郁次郎先生はお話しされます。
だから,弊社のたいていのプロジェクトで、必ず全員で,話し合い、共感したり、共鳴する人同士で,チームを結成することにしています。
チームでお互いに話し合うと,自分でも気が付かなかっだ新しい視点も出てきます。
多様的で,対話の大切さが、ここでも認識されます。
自分ゴトから他人との対話で共感し,更に共鳴することが,目的を考える大切なプロセスです。

少し視点を変えましょう。

4、ダブルループ型思考で、まず壁を越えよ

次にお聞きしたいのは、
①予定調和的発想からの脱却について、どのように対処されているのでしょうか!
つまり市場はこうなんだろうと決めてデータを読み込む弊害、クライアントがリサーチを依頼していることへの対応です。

発注するクライアントサイドに
課題があるケースもあるケースがあります。
組織の弊害ですね。役割分担で分業化され効率を重視する対応をいまだにされているかもしれません。

所謂ブルーシットジョブが多く、日本の停滞を引き起こしているとまで言われることへの対応は、どのように対応されていらっしゃいますか!
また,今後はどのようになっていくのでしょうか!

(池谷)
黒木さんがよく言っているように、これまではPDCAサイクルを効率的に回すことが求められてきました。
やっていることの改善ですから、リサーチはチェック機能です。
評価や受容性という言葉がよく使われているように、やってきたことややろうとしていることがこれでいいのか、どこを改善すればいいのか、ということの検証です。
多くのリサーチは、そのプロセスの中で必要とされてきました。
これからは、目的を作り出すことにリサーチがより役立てるようにならなければいけないと思っています。

組織学習にシングルループ、ダブルループという考え方があります。
既存の枠組みの中で改善を繰り返すのをシングルループ学習、既存の枠組みから抜け出して、価値観そのものから考え直すのがダブルループ学習です。
いま、このダブルループ学習が必要になっています。
そのためには、人間や生活丸ごとを見つめ直し、理解していくようなアプローチが必要ではないかと思います。

(黒木)
なるほどダブルループというと、自分を変革する視点が大切ですね。

5、未來からバックキャステングすると、マーケティングリサーチでは、効率ではなく、暗黙知見えないもの、感じる力がより必要になる。(仮説生成能力)



②生成AIなどデジタルは、未来におけるリサーチ業界にどのような変化を引き起こすのでしょうか?

(池谷)はい、それはかなり影響があると思います。
データを整理して解釈することはかなりの程度AIでできてしまうでしょう。ビッグデータは、たくさんの入力データを分析していますが、これからは会話などのテキストデータやカメラで捉えた観察データなども分析の対象になってきます。
データを集める、整理する、分類する、相関をみるということはAIに置き換わる部分が多くなるでしょうから、ますますリサーチのインフラ化が進んでいくと思います。

AIはたくさんのデータから最適解を導くことはできるでしょうが、一人の人の生活や行動からその背景にある意味や欲求を見つけ出すことは苦手ではないかと思います。
顕在化されているものは捉えられても、潜在的なものは捉えられない、リサーチはそこを見つけ出すことに価値があるのだと思います。

(黒木)
まさに暗黙知の高質化がますます要求されますね。
AIの効率化の領域対応を強化し、今徐々にシンギュラリティに近づきつつあるものの人間にしかできない
身体を通して考えることなどの体感知は、今後重視されていくと思いますね。

③それでは、課題潜在意識とインサイト探索の肝はどのように考えますか?

(池谷)
潜在意識やインサイトは、どこかにあるわけではなくて、作り出すものだと思います。
リサーチして見つかるのではなくて、リサーチを通じて見たこと、聴いたことから想像しながら創造するのです。
そのためには、できるだけ先入観なく、対象と向き合うことが肝になると思います。

(黒木)
アブダクション(仮説生成)の話しですね。
あのプラグマティズムの創始者のパースの提唱ですね。
観察の過程で重視するのは、直接体験。
自分の中で湧き上がるアイデアをコンセプト化するのですが、ここで、演繹的あるいは帰納法的思考にしない、観察によって見ることを大切にする。
データや情報を思い込みにしないで、仮説発見における創造をすることですね。


そこで大切なことは、自分自身の鍛錬ではないでしょうか!
メタファー、アナロジーなど、伝える力が、
リサーチャーには、必要になってくるのでしょうか!
人間力をつけるなど、ハウツーではないリベラルアーツが必要ではないでしょうか。
(池谷)
まさにその通りですね。
私は優秀なリサーチャーは例え話がうまい人と思っていて、人事をやっていた頃は、そういう人を採用していました。
例え話って、本質的なことがわかるから、一見関係なさそうなことを同じようなこととして繋げて考えることができるのだと思います。
そこにはリベラルアーツが必要で、益々その必要性は高まっていますね。

今日はありがとうございました

【まとめとして】

今回の1〜5のの話は、
最先端経営であるヒューマナイズド ストラテジーに至っています。
人間くささ、直接身体を通して考える力、
さらに物語化ナラティブです。
それを我々は、現場で ひたすら実践してきましたし、さらに進化させようと思います。
昨日もあるクライアントで、センスメイキング体験、右脳⇔左脳の相互作用のワークショップ後に
エスノグラフィーにより、対象者を全員で(zoomにて)観察しました。
いわゆるフィールドワークです。
全員15名が、たった1人の対象者を深く考え抜いた時、
それぞれに異なる捉え方をしていました。
そこに必要だったのは、全員が納得するまでの共感するまでの対話でした。
共感できない部分は、客観化にはならない。
その後、
共感したものを言語や、デザイン・会話で表出化する。
この共感だけはまだまだ人間にしかできない領域です。
デジタルによっでマーケティングが効率化できるのではなく、人間によってしかできない領域を
マーケティングやさらにリサーチは、追求することになると考えます。

毎回さまざまなプロジェクトで参加される様々なクライアントの方々が、笑顔で嬉しそうになる
たびに、人間が自らの創造力を再度発見する仕事のあり方が、日本に活力をもたらすのではないかと思います。
昨夜も、プロジェクトを終えて、皆さんにありがとうと言われて、こちらも感謝しながら終えました。
毎回毎回新しい発見をする、自分たちが変化し、
アウスヘーベン(止揚)ですね。

そういえば、私が29年前、独立する時に、野中郁次郎名誉教授から言われた、
「これからは、マーケティングじゃないだろう、君は、人間を探求し続けることだ」
と言われたことが、昨日のように懐かしく思い出されます。