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手すりは、手すりだけではない

つまり、手すりの役割は手すりだけが果たしているわけじゃない、ということである。手すり屋は御乱心はしていないので安心して欲しい。

ただし、これはいわゆるグラブバー、掴むのが必須のものについては除外で、あくまでハンドレールやアームレスト(サポート)のような、「上から体重をかけるタイプ」の話、である。


この例のよくあるパターンは、まずは玄関と下駄箱の関係で、下駄箱の天板に手をついて上り框を昇り降りしているケース。

たまに、そこに手すりをつけたいのですが、と言われることがある。補強すれば技術的にできなくはないが、そもそも握る必要ある?と考えて、不要そうな時は、ここを支えにしてもらえれば、手すりはいらないです、と答える。


要は、足が上がった瞬間は、支持基底面が片足裏だけになりとっても不安定だが、手をついて他に体重をかけている部位があれば、そこが足の代わりをするので、握らずともそこまで不安定にならない、そういう理屈である。

だから環境整備を提案する側としては、上がり框の段差が辛ければ、踏み台などを利用者さんが昇降しやすい高さに設定して取り付けるとともに、その横にちゃんと身体を支えられる強度のあるものがあれば良い、と割り切れる。

ま、どうしても握るものをつけたくなったら、レンタルの上り框手すりやら、突っ張り手すりやらが今は介護保険で借りられるから、それで対応すればいいのだ。


だから、下駄箱のサイズ感は大事で、たたき側、一階床側のどちらからも、上から手を置いて身体を支えられる高さに、丈夫な天板を設計してあげたい。
上がり框の横に、わざわざ背丈越えの高い下駄箱のある家を見るたびに、ここが使えたら楽なのに、もったいないなあ、などと時折思う。



そして築50年を超えたご長寿の我が家では、違う手段で、廊下や玄関の上がり框まわりを、もう少し安全にできないか、のトライをしている。

それは、壁の下の方の仕上げを切り替える、いわゆる腰壁の、上側を利用する作戦である。


たまたま我が家には人間の上位におわすお猫様が人間と同じ数、もしくはそれ以上いらっしゃる。プラスター下地の上に貼られたビニルクロスの壁にて、お爪をお手入れされたり、そこでヒラヒラになったクロスに噛み付いて丹念に剥がされたりする。当然、止めても聞く耳など持たれたことはない。

だが、猫の下僕としてはお猫様のご機嫌を損なわないようにしつつ、我が家を解体の危機から守らねばならない。

そのため、廊下については竪(たて)羽目板を腰高に張ることにしたのである。
そのとき、上側に板の切りっぱなし面を見せるわけにもいかないので、見切縁というのをつけるのだが、ついでにそれを体重を乗せられる程度に太くしたら良いのでは?と考えたのだ。

というわけで30×40断面のツガ材を頑張って加工し、手すり状の見切縁を腰壁の上に入れてみたところ、いつもなら壁に手をつく場面でそこを支えにできるし、傘も引っ掛けられるし、お猫様は壁を破壊しないし、雰囲気も古風に変わったしで今のところ困る要素がない。


というわけでこれ、他のお宅にもおすすめしたいのは山々なのだが、念のため地元市の介護保険課に、この部材の介護保険上の扱いを聞いたら、握れないから手すりじゃないとの判定に。
つまり、介護保険では付けられないものである、ということに相成り、残念ながらこれをお客さんにリコメンドしたことはない。

この思いつきデザインは、自分や家族が玄関まわりで微妙に転びにくくなり、さらにお猫様たちがその場で爪バリバリできなくなり、代わりにリビングの戸襖を撃破されただけに終わりそうである。

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