雨。

プノンペンへ来てから1ヶ月が過ぎようとしている。
ここ2、3日は乾季とは思えないような雨がちの天気で、無遠慮に晴れ続ける空に嫌気がさしていた僕に冷静さをもたらすようだった。

黒雲の生暖かい気配を感じ、雷鳴の合図で突如降り出す雨。
プノンペンの雨は所謂スコールと云うやつで、短時間でどさっと降る。
僕が今滞在している一晩5ドルの安宿の薄い屋根を、容赦無く叩く雨音と水の匂いは、田舎道を自転車で駆け回った幼少期の夏を思い出させる。

もともと雨が好きだった。
静岡に住んでいた頃、よく実家の畳に仰向けに寝そべって、雨の音を聴いていた。
田舎の住宅街に住んでいたので、時折県道を通るバイクの音が静かだった。

近所のパスタが300円くらいで食えるレストランは扉を開け放っていて、外側の席は水しぶきをもう少しで浴びる位置にある。
若い店員がザルに並べて外で干していた魚を、慌てて中に取り込む。

3分後、
川を空から落としたような強烈な雨が街を襲う。レストランの店員がようやく扉を閉め始めた。植物のツタを象った瀟洒なレリーフの影が美しい、青いガラスの扉越しに、光が店内に差し込む。

少し長居しようと思う。

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