金魚 9
金魚や花のことを考えながら階段をおりた。
由里さんの部屋から出て階段をおりるとき、いつも体温がすうっと下がっていくのを感じる。
他の場所では、こんな感覚は味わえない。
たとえば、大学の講義が終わって教室を後にするとき、忘れ物をしていないだろうかと私は必ず心配になる。
鉛筆、手帳、英語の辞書。
何かを忘れていないだろうか。
そんな不安でいっぱいになって、鞄の中にある物を思いつく端から順に取り出していく。
鞄をまさぐり確かめながら、その際にまた何か新しく落としてしまったのではと心細くなる。
慌てて辺りを見回しながら教室まで引き返し、今度は戻る途中で別の何かを落とした気がして、もう一度また後戻りする。
不安が不安を呼び寄せる。
頭と体が、じんわり熱を帯びはじめる。
呼吸は浅く、だんだん息苦しくなってくる。
どこかに何かを落としていないか。
気づかぬうちに失くしていないか。
(つづく)
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